「月刊HANADA」などに寄稿している加地伸行氏の時事評論には、「そうだ、その通りだ」と共感することが多い。しかし、頑固爺は同氏の意見にすべて共感しているわけではない。今回は、その“共感しない”論考について論じたい。
「続マスコミ偽善者列伝」(飛鳥新社)は加地氏の論考を集大成したものだが、その154ページに次の記述がある。
中国海軍の場合、ドンパチ以前、海軍軍人として欠格。ずばり言えば、彼らの大半は泳げない。環境汚染から、大陸内の川の大半はドブ川で、入る気にもなれない。中国の海岸線は短く、浜で育つ子供は少ない。決定的には、大都会の富裕層が通う私立小中学校以外、プールがほとんどない。そのため、泳ぐ訓練はできていない。
となると、中国海軍軍人の大半が泳げないのは当然である。ドンパチのとき、救命具は身につけるものの、沈没の際、心はこうだ。ウミ飛び込む、コワイあるよ。海戦などできるはずがない。我が海上自衛隊隊員は百パーセント泳げる。入隊時に泳げなかった少数の者に対しては訓練して必ず泳げるようにしている。(中略)
韓国海軍軍人もほとんど泳げないとのこと。例えば、オリンピックなどにおいて。水泳で活躍しているのは、アジアでは日本だけではないか。それがなによりの証拠。南シナ海の中国海軍、基本的には恐るるに足らず。
加地氏の主張を分解すると次のようになる。
(1) 中国の海岸は汚染されているし、プールも少ない。
(2) だから中国海軍の軍人は泳げない。
(3) 泳げないから、海を怖がる。
(4) 海を怖がる軍人には戦争などできない。
各項目別に反論する。
(1) 中国の海南島にはビーチリゾートがあり、外国人ばかりでなく、中国人も訪れるはずだ。加地氏は漢学の大家だが、中国の水質汚染についても知識があるのだろうか。「中国の海岸が汚染されている」のは事実だろうが、全水域が汚染されているとは限らない。
(2) 確かに、中国人の水泳選手はあまり活躍していない。だからといって、すべての中国人が、そしてすべての中国海軍の軍人が、泳げないはずだ、と判断するのは論理の飛躍である。
(3) “泳げない人は海を怖がる”のは事実だろう。しかし、尖閣諸島周辺には何百隻という漁船が集まったことがあるし、秋刀魚が中国の乱獲で資源が減少していると聞いており、中国の漁船が活躍しているのも事実。“海が怖い”のと、漁船や軍艦に乗ることは別の問題ではないだろうか。
(4) 海が怖い乗組員には、それぞれ浮き輪をあてがっておけば安心するだろう。多少泳げても荒海では役に立たない。
というわけで、“中国海軍、恐るるに足らず”という加地説には賛同しかねる。この論考を書いた日は、加地氏、よほどネタがなかったのではないだろうか(笑い)。