4月19日(金)の夜のNHKニュースは、その日の昼頃におきた87歳の男性による車の運転事故をトップで報じた。何人も跳ね飛ばし、二人の死亡者が出て、最後にごみ収集車に衝突したという。高齢者による車の事故が頻発しているだけに、社会の注目を浴びるニュースだ。私も高齢者だから、この事故の容疑者の素性と事故原因には非常に興味があった。
ところが、翌朝の新聞(読売と産経)にはこのニュースが載っていなかった。不思議なこともあるものだと思っていたら、読売の夕刊(産経には夕刊がない)にその事故の詳細が報じられた。その記事によれば、容疑者は旧通産省工業技術院の飯塚某元院長とある。
しかし、その読売夕刊の記事には、いつ事故が起きたかというニュースの基本情報が抜けている。読み進むと、最後の部分に「事故から一夜明けた20日、母子が死亡した道路脇には多くの人が訪れ、花を手向けていた」とあるから、事故は前日の19日に起きたことがわかる。だが、事故発生の時間帯は報じられていない。
どうもこの記事は不自然である。そこでネットで調べると、その飯塚某は東大工学部卒で、通産省を退官後、農機具の大手クボタの副社長に天下りし、いくつかの業界団体の理事長を務め、叙勲も受けた超エリートだったことがわかった。
この状況から推測できることは
(1) 読売は(多分他の大手紙も)事故そのものを隠蔽したかった。しかし、ネットで騒がれてそうはいかなくなり、やむを得ず容疑者の素性をある程度明かして報じることにした。それでも元クボタの副社長だった事実は隠した。
(2) 事故翌日(20日)の朝刊で報道しなかったことを隠すために、夕刊では事故発生の日を曖昧にする一方、時間は報じなかった。時間を書くと、朝刊に書かなかったことがバレるからだろう。
(3) なぜ、読売(などの大手紙)はこの事件を報じたくなかったのか。それは、全体の流れから判断して、クボタが広告スポンサーだからではないだろうか。
https://www.huffingtonpost.jp/entry/to-be-suspect_jp_5cb83976e4b081fd16936e63
https://www.youtube.com/watch?v=4iQATZER2Yc
(注)ネット情報では、記事における犯人の取り扱いが不公平だったことに焦点が当てられ、上記の私の状況と異なるが、その理由は、私が見る朝刊・夕刊は早刷り版であり、後刷り版では記事内容が修正されたからだと推測する。
こうしたマスコミの隠蔽体質には腹が立つが、この事件のキモは高齢者による車の運転事故である。以下、高齢者の運転免許返納について考えてみたい。
運転免許所有者が一定年齢(例えば80歳)に達したら、一律に運転免許を返納する規則を設ければ問題は解決する。しかし、それでは高齢者の交通手段を奪うことになるというデメリットがある。一方、事故発生率はほぼ車の交通量に比例する。
ついては、交通量が多い地域(例えば、東京都区内)では一定年齢(例えば80歳)に達したら、免許を返納する規則を設けてはどうだろう。これで高齢者の事故が皆無になるわけではないが、かなり減ると思う。「交通量の多い地域」を具体的にどう定義するかは、各地域で議論すればいいし、「一定年齢」をどこに設定するかも各地域できめればいい。
私は78歳の時に、運転免許を返納した。理由は、運動能力の低下、特にとっさの反応に自信がなくなったことと、経済的理由である。車を所有し維持する費用は、減価償却費(購入価格÷耐用年数)を含めれば、年間約百万円ほどだから、タクシー利用が増えても、節減額は莫大である。不便になったことは事実だが、生活習慣を変えることで(例えば、大部分の食料品の購入を生協からの宅配に切り替える)、ある程度解決できた。
功成り名遂げた人生を最終段階でぶち壊しにした、池袋事件の飯塚某はさぞ悔やんでいることだろう。“明日は我が身”とやら、高齢者の諸兄姉は決断を迫られていることを自覚すべきである。