頑固爺の言いたい放題

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コロナ対応:台湾の成功と日本の失敗

2020-08-03 13:49:57 | メモ帳

「疫病2020」(門田隆将 産経新聞社 2020年6月刊)は、今世界中が苦しんでいる新型コロナウィルスが、いかにして蔓延するにいたったのかを克明に綴った労作である。

爺は本書を高く評価するが、その理由は門田氏(以下敬称略)が1月以降、新しい動きがあった時々にその都度、ツィートした発言を随所に引用していること。結果を後日にまとめた後出しジャンケン的論文ではなく、リアルタイムの危機感・焦燥感を表現していることに本書の価値がある。

その門田のツィートの中から、一つだけ見本として引用する。(赤字)

1月25日(土)

いよいよ中国でパンデミックが始まった。機内で自己申告の質問票を配布するという“対策” を取った安倍政権をあざ笑うように、武漢いや中国全土から日本での治療を目指す人々が押し寄せている*。だが、国会は今も野党によって「さくら、さくら」が歌われている。これが危機管理ゼロ、機能不全国家の姿。

*(注)門田は中国人全員が治療のために訪日したと述べているが、観光目的だけの人も多かったはずである。しかし、この部分は原文のままにする。なお、日付の1月25日は春節が始まった日である。また、質問票とは、発熱や咳の症状があるかどうか、自己申告することを機内で求めた調査票である。厚労省は中国人が正直に答えることを期待したのだろうか(笑)。

さて、2002年秋から半年ほど、SARSが流行し、中国広東省や香港を中心に8千人以上が感染して、7百余人が死亡した。その当時、台湾もパニックになり、その経験が今回の新型コロナに生かされた、と言われている。では、“過去の経験が生かされた”とは具体的にどういうことなのか。第8章「台湾の完全制御作戦」から拾ってみよう。(赤字)

台湾のマスクに関する対策は、マスクの輸出禁止、増産態勢と実名販売制である。個人が持っている健康保険カードを使って公平に販売するシステムを実施した。そして、薬局のマスク在庫を国民に効率よく伝える「マスク在庫管理アプリ」を民間企業に開発させ、どこに行けば購入できえるかが瞬時にわかるようにした。

一方、日本では2月上旬、兵庫県が100万枚のマスクを中国へ送ったり、東京都が医療用防護服を20万着も中国に送るという信じ難い動きがあった。

マスクばかりではない。台湾は2015年に富士フィルムとアビガンの特例輸入契約を結び、在庫を備蓄していた。これに対し、日本では厚労省がアビガンの新型コロナへの投与に難色を示していたのは周知のとおりである。

では、日本ではどうだったか。マスクの重要性が認識された3月以降、マスクを入手することが難しくなり、安倍政権は4月1日に「国民全員にマスクを2枚ずつ無料で送付する」と発表した。このマスクの原産地は発表されなかったが、中国とベトナムだったと推測する。

ところが、政府に納入されたマスクに不良品があり、結局配布が終わったのは6月末。アベノマスクと揶揄されたのは記憶に新しい。

台湾はマスクに関する対応が素早かったが、そればかりではなく、1月24日には中国―台湾の旅行者を制限している。中国で武漢が封鎖された翌日である。日本とは危機感がまったく異なっていたのである。

日本と台湾は法制度でも異なる。台湾の感染防止法は強制力があり、伝染病が発生した時の対応方法が明記されている。違反した場合の罰金の額も定められている。日本のように“自粛”ではない。

台湾では「まず実行」し、「あとで修正」し、人々がそれに従うのである。なによりも重視されるのがスピードなのだ。日本との決定的違いがそこにある。日本では、ああでもない、こうでもないと議論し、与野党で互いに足を引っ張りあい、さらにお金を出し渋る官僚が悪知恵を吹き込み、結局何も決まらない。・・・わずか10万円の支給さえ何カ月も滞るのだ。かりに、台湾でそんなことやっていたたら、たちまち国民の怒りが爆発し、政権が吹っ飛ぶだろう。

台湾では民進党と国民党は常に戦っている。互いに政権担当能力があり、人々もどちらがいいか考える癖がついている。・・・台湾の政治は政権交代と隣り合わせだから、政治に緊張感があり、日本のような信じ難い緩さは通用しないのである。

国民に自分たちの政策や行政サービス、そして成果と見てもらって。それを支持してもらう。だから、台湾の政治家はいつも、“見られている”という意識が強い。政府の政策と行政サービスの質が投票に直につながるから真剣である。

台湾がSARSの時の経験を生かしたことが、新型コロナ対応における成功の要因だったことは分かるが、それでばかりではなく、政治制度の違いもあったことは認めざるを得ない。

また、習近平国家主席の来日予定が日本政府の足枷になったという説もあるが、では習近平主席の国賓訪日予定がなかったら、日本は1月24日に始まった春節での中国人入国を禁止できたか、というとそれは疑問である。

中国からの入国禁止に踏み切らない安倍政権に対し、1月後半から非難の声を上げたのは、いつもは安倍を支持する保守派と言われる面々である。すなわち、百田尚樹、高須克弥、有本香、石平など。しかし、安倍政権が彼らの主張を聞くことはなかった。

朝日新聞も経済重視の主張を繰り広げた。「疫病2020」から引用する。(赤字)

特に朝日新聞は、日韓関係の冷え込みで韓国からの訪日客が減っていることを捉えて「このうえ中国からの訪日客が減れば、経済はさらに厳しくなる」という視点での報道が中心となっていた。政治部の朝日新聞官邸クラブは、ツイッターでこんなことまで発信している。<日韓関係の悪化で韓国からの訪日客が落ち込むなか、この時期に中国人観光客が急減すれば、日本の観光関連産業にとっては二重の打撃となりそうだ>。

この朝日新聞の発言の時期は本書には記載されていないが、発言内容からして、春節が始まった1月25日の直前だと推測する。経済悪化を懸念する気持ちはわかるが、新型コロナに対する認識が甘かったことは否めない。

では、日本政府が新型コロナの感染拡大に危機感を持つようになったのはいつか。それは、中国と韓国からの入国者に2週間の待機を要請した(中国の習近平国家主席の国賓来日を延期した日である)3月5日だと考える。

ところが、朝日新聞はこの措置を非難した。このブログの3月7日の投稿「韓国と朝日新聞だけが非難する入国制限」が朝日の記事を引用しているので、転載する。(赤字)

新型コロナウィルスの感染拡大防止策として、安倍首相が中国と韓国からの入国を大幅に制限する新たな措置を表明した。発行済のビザの効力を停止するほか、両国からの入国者全員に指定場所での2週間の待機を要請する。

政府はこれまで、中国については感染源となった武漢市を含む湖北省など、韓国では集団感染が発生した大邱やその周辺などに限って、入国を拒否してきた。中国では武漢以外での感染拡大の勢いが弱まり、韓国は全土に感染が広がっている状況とはいえない。にもかかわらず、いま両国の全域を一律に対象とすることに、どれだけの意味があるのだろうか。

常日頃、反政府で、親中・親韓的態度を取る朝日新聞とはいえ、日本を代表する新聞の一つであり、新型コロナにたいする認識でも朝日の論調は世論の大きな部分を形成していると考えられる。

門田が危機感を持ち、日本政府の対応に切歯扼腕していたことは理解できるが、政府を含め日本人のほとんどが、新型コロナを軽視していたことは事実であり、現在のような有様になったのは当然の帰結なのである。