キッチンではセレンディプティが調子っ外れなメロディを口ずさんでいた。
いったい何の歌か私にはわからなかったし、歌っている本人にもそれは同様だろう。キッチンに置いてある食材や調味料をどう組み合わせたところで毒にはなるまい。彼女に料理は出来ない。そこまでの知能レベルはない。
おそらく、たまに私が料理しているのを見て、彼女なりに真似しているつもりなのだろう。
採掘作業が予定通り進行しているか、デスクモニターにスケジュールを呼び出してチェックをしていると、セレンがキッチンからやってきて、賞状でも手渡すかのように、一枚の皿を私に向かって差し出した。
皿の上には一応何か料理らしきものが盛ってあった。
「私に・・・、作ってくれたのか・・・?」
そう尋ねるとセレンが照れたような笑みを浮かべ、ンンと頷いた。
ありがとう、と礼を言ったものの、食べても大丈夫なのだろうかと内心不安になった。彼女の好意を無下にするつもりもないが、かといって皿の上のものは到底人間が口にするものには見えない。黒い、溶岩のようなものとしか表しえない何か。
死にはしないさ、そう腹を括り、えいと一切れそれを口の中に放り込んだ。なんとも形容しがたい味だった。泥土で作ったマシュマロ、といったところだろうか。
私はそのマシュマロを咀嚼もせずにぐっと飲み込み、ありがとう、と繰り返した。
「美味しかったよ・・・」
お世辞が通じたのかどうか、彼女はなおもマシュマロの乗った皿を私に押し付けようとする。勘弁してくれよ、そう心の中で呟きながら、私は腹をポンポンと叩いて満腹であるという意思表示をした。
どうやらその意図を理解してくれたようで、彼女は私に皿を手渡すと、小鳥が物音に驚いて飛び立つように、パッと駆け出した。
再びスケジュールチェックに取り掛かり、厄介な演算処理をはじめようとしたとき、セレンが私の前に影を作った。
彼女はにっこりと笑うとデスクに置きっぱなしだったマシュマロに、手に持っていたチューブからチョコレートソースと辛子入りのマヨネーズをたっぷりと捻り出した。
さあ、召し上がれといわんばかりに彼女は皿を私に鼻先に突きつけた。
私は彼女の顔と、チョコレートとマヨネーズにまみれたマシュマロとを交互に眺め、ありがとう、セレン、そう言ってから、彼女に聞こえないように、そっとため息を漏らした。
sideA-2へ。
いったい何の歌か私にはわからなかったし、歌っている本人にもそれは同様だろう。キッチンに置いてある食材や調味料をどう組み合わせたところで毒にはなるまい。彼女に料理は出来ない。そこまでの知能レベルはない。
おそらく、たまに私が料理しているのを見て、彼女なりに真似しているつもりなのだろう。
採掘作業が予定通り進行しているか、デスクモニターにスケジュールを呼び出してチェックをしていると、セレンがキッチンからやってきて、賞状でも手渡すかのように、一枚の皿を私に向かって差し出した。
皿の上には一応何か料理らしきものが盛ってあった。
「私に・・・、作ってくれたのか・・・?」
そう尋ねるとセレンが照れたような笑みを浮かべ、ンンと頷いた。
ありがとう、と礼を言ったものの、食べても大丈夫なのだろうかと内心不安になった。彼女の好意を無下にするつもりもないが、かといって皿の上のものは到底人間が口にするものには見えない。黒い、溶岩のようなものとしか表しえない何か。
死にはしないさ、そう腹を括り、えいと一切れそれを口の中に放り込んだ。なんとも形容しがたい味だった。泥土で作ったマシュマロ、といったところだろうか。
私はそのマシュマロを咀嚼もせずにぐっと飲み込み、ありがとう、と繰り返した。
「美味しかったよ・・・」
お世辞が通じたのかどうか、彼女はなおもマシュマロの乗った皿を私に押し付けようとする。勘弁してくれよ、そう心の中で呟きながら、私は腹をポンポンと叩いて満腹であるという意思表示をした。
どうやらその意図を理解してくれたようで、彼女は私に皿を手渡すと、小鳥が物音に驚いて飛び立つように、パッと駆け出した。
再びスケジュールチェックに取り掛かり、厄介な演算処理をはじめようとしたとき、セレンが私の前に影を作った。
彼女はにっこりと笑うとデスクに置きっぱなしだったマシュマロに、手に持っていたチューブからチョコレートソースと辛子入りのマヨネーズをたっぷりと捻り出した。
さあ、召し上がれといわんばかりに彼女は皿を私に鼻先に突きつけた。
私は彼女の顔と、チョコレートとマヨネーズにまみれたマシュマロとを交互に眺め、ありがとう、セレン、そう言ってから、彼女に聞こえないように、そっとため息を漏らした。
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