この世界の憂鬱と気紛れ

タイトルに深い意味はありません。スガシカオの歌に似たようなフレーズがあったかな。日々の雑事と趣味と偏見のブログです。

新時代の戦争映画『ドローン・オブ・ウォー』。

2015-10-04 21:43:38 | 新作映画
 アンドリュー・ニコル監督、イーサン・ホーク主演、『ドローン・オブ・ウォー』、10/3、TOHOシネマズ天神にて鑑賞。2015年、34本目。


 新時代の戦争映画だ。
 そこには戦闘による高揚感もなければ、血生臭さもない。
 あるのはどこまでもゲーム的な、モニターを通した戦闘である。いわゆるドローン(作中「ドローン」という名称は用いられなかった気がする)、無人戦闘機による爆撃はわずかにタイムラグがあるものの、非常に精度が高く、何より遠隔操縦によって行われるので、仮に戦闘機が撃墜、もしきは墜落したとしても、パイロットが喪われることはない。
 これは極めて重要なことである。
 新谷かおるの漫画『エリア88』にも無人戦闘機が登場したことがある。
 作品の中で「戦闘機のパイロットの値段は戦闘機そのものより高い(一人前のパイロットを育てるには莫大な費用が掛かる)」という説明があった。
 つまり無人戦闘機の登場は人命の観点よりも経済的な理由によるものだった。
 しかしながら現代の戦争において無人戦闘機が重用されるのは、人命の観点も否定しないし、経済的な理由もあるだろうが、一番の理由は墜落した戦闘機のパイロットが敵国に捕縛されるのを恐れているのではないか、と思う。
 捕縛されたパイロットが、銃を持った敵国兵士に脅されながら、アメリカの犯した罪を読み上げ、最後には銃殺される、そんな光景がネットにアップされる。
 それが何度も続けば兵士の士気もやがて下がるであろうから、それをアメリカ政府は何より恐れているのではないだろうか。

 主人公のイーガン中佐は苦悩する。
 果たして自分たちのやっていることは正義なのかと。
 純粋に悪だけを正せるのであればよい。だが前述通り遠隔操作による爆撃はタイムラグがある。どうしたって無辜の市民を巻き込むことがある。幼い子どもや女性の命を奪う。
 これが正義の戦いと言えるのか…。
 最終的にイーガンは人間的な行動を取る。そして物語は幕を引くのだが、よくよく考えるとイーガンを主人公とする物語は終わったとしても、現実の戦争はまだまだ続く。
 その戦争の中で無人戦闘機を操縦するのはイーガンのように苦悩することなどない、ただ指令に対して盲目的なまでに従順であろう若者たちだ、ということだ。
 それは恐ろしいことだと思う。

 しかしさらに恐ろしいのは、これだけ非人道的なことをやっておいて(戦争というものは非人道的なものだが)、アメリカは対テロ戦争に勝利したというわけではないということだ。
 そう考えると背筋が寒いものが走る。
 どこまで非人道的になれば人は戦争で勝利を得られるのだろう?
 答えは出ない。

 
 お気に入り度★★★☆、お薦め度★★★☆(★は五つで満点、☆は★の半分)。
コメント
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