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BL小説・風のゆくえには~月光2(慶視点)

2016年02月09日 07時21分00秒 | BL小説・風のゆくえには~ 月光

「この学校、出るらしいですよ」

 写真部の一年生、橘真理子ちゃんがいたって真面目な顔をしていった。

「出るって?」
「何が?」

 聞き返したおれと桜井浩介に、今度はおれの妹であり、同じ写真部の渋谷南も真面目な顔で、

「出るっていったら、あれしかないでしょ」
「あれって………」
「これ?」

 両手を顔の前でぶらんと下げて見せる。すると、真理子ちゃんと南が仲良くコクコクとうなずいた。

「そう。それ」
「………マジか」

 ゆ、幽霊!?

「しかも、この階」
「えっ」

 なぜそれを合宿当日に言う!! 今日は学校に泊まるっていうのに、そんなの聞かされたら………

「受験に失敗して首吊りした男子生徒の霊、らしいよ」
「写真部員でも合宿中に毎年一人は必ず遭遇するんですって」
「必ずって……」

 勘弁してくれ………

 血の気が引いたところへ、南がニヤニヤと言った。

「お兄ちゃん、怖いでしょ?」
「……………別に」

 ムッとして答える。でも南はさらにニヤニヤと、

「またまた強がっちゃって。小学生の時も、夏休みの怖いテレビみたあとは一人で二階に上がれなくて、お姉ちゃんについていってもらってたくせに」
「な……っ」

 子供のころの汚点をばらすなっ。

「何年前の話してんだよっ」
「え、そうなの? 意外……」

 浩介が目を丸くしている。

「慶、そういうの信じてなさそうなのに……」
「いやいや、お兄ちゃん幽霊とかホント苦手で……」
「南っ」

 睨み付けたけど、効果はない。一方、浩介はなぜかニコニコ嬉しそうに、
 
「え~可愛いね~~」
と、おれの頭をグリグリ撫でてきた。

(……うわっ)

 ドキンッと心臓が高鳴る。

 親友である浩介に片思いをはじめて10か月近くたつけれども……こういう行動にまだまだいちいちときめいてしまうおれって、自分で言うのもなんだけど、ホント健気というかなんというか……。
 浩介は最近さらにスキンシップ度が上がってきて、甘えてくることが増えてきている。そこがたまらなくかわいい。
 その、笑顔を向けられるとギューッと抱きしめたくなるし、優しく見つめられるともう……なんてことは置いておいて。

「可愛い言うな!」
 バシッと手を払いのける。嬉しいけど人前ではやめてくれっ。顔がにやけるのを誤魔化すのが大変だろっ。

「だって可愛いんだもーん」
 でも、浩介は気にせずまだグリグリ撫でてくる。南までもがなぜか嬉しそうに、

「浩介さん、お兄ちゃんのことよろしくね。トイレとか連れていってあげてねっ」
「わかった! 慶、一緒に行こうねっ」
「あほかっ!トイレぐらい一人で行けるっつーのっ」

 3人でぎゃあぎゃあ騒いでいたところ、窓の外を見ていた部長の橘先輩が、こちらを振り返った。

「布団屋きたから取りにいくぞ」

 布団はレンタルで、男子3人(橘先輩、浩介、おれ)は、この部室で、女子2人(南、真理子ちゃん)は、1階の茶道部の和室にひいて寝るらしい。

「あーあ。みんなで雑魚寝するんだと思って楽しみにしてたのに」

 真理子ちゃんがまだブツブツと言っている。おれだけが偶然知ってしまったのだが、真理子ちゃんは実の兄である橘先輩に本気で片想いしているのだ。
 もちろんそんなこと知るわけもない橘先輩はバッサリと、

「男子と女子が同じ部屋なわけないだろ」

 冷たく言い放ってからこちらを向いた。

「渋谷と桜井、どっちか一人きてくれ。で、残った方は床の雑巾がけ」
「え……」
「じゃ、女子2人も行くぞ」
「はーい」

 はしゃぎながら真理子ちゃんと南が、橘先輩の後をついていく。

(雑巾がけ……) 

 戸惑っていたところに、ポンと肩に手を置かれた。

「じゃ、おれ雑巾がけしておくよ」
「え」

 振り返ると、浩介がニコニコしている。

「慶、部室に一人で残るのが怖いんでしょ?」
「………」

 ず、図星……。

 恥ずかしさ紛れに軽く蹴ると、浩介がおかしそうにケラケラと笑いだした。

 ムカつくっ! ……けど、その笑顔がかわいいから許す!



 レンタル布団はふかふかだった。
 橘先輩が敷布団を2枚持ってくれて、おれは敷布団1枚と掛布団3枚を持った。それでも前が見えにくい。

 橘先輩は和室に寄るというので、おれだけ2階の部室階に戻ってきたんだけど……ホントここ、薄暗くて怖いんだよな……

 若干ドキドキしながら進み、布団で前がよく見えないまま、なんとか部室の前まできた。でも両手がふさがっていてドアを開けられない……

「こーすけー、ドア開けてくれー」

 自分の声だけが廊下にコダマする。怖いって……
 でも、返事がない……

「浩介ー?」

 いないのか? 雑巾洗いにいったとか?? ……と思ったら、

「ちょっと待って!」

 あわてたような声が聞こえてきた。
 そしてガタガタガタっという音の後に扉が開く。

「おまたせ……、あ、ありがとう」
「お、おお。……?」

 なんだろう? 浩介の顔色、少し悪いような……?

「どうし……」
 言いかけたところで、後ろから橘先輩の声がしてきた。

「さっさと入ってくれ」
「あ、すみません」

 慌てて中に入る。布団を部屋の端に置くと、橘先輩は持っていた敷布団を一つだけその上に乗せてから、あっさりといった。

「オレは暗室で寝るから、ここで君らは二人で寝てくれ」
「え?!」

 ふ、ふたりで?!

「人と同じ部屋にいると眠れなくてな。去年も一昨年も一睡もできなかったんだ。今年は寝かせてもらう」

 橘先輩はそう宣言すると、さっさと暗室のドアを開けて自分の分の布団を運びこんでいく。

 浩介と二人きり……布団並べて寝るって……

「………」

 うわーーーうわーーーどうしようっ。

 あらぬ想像をしてしまい、赤面してくる。

 いやいや、落ちつけ、おれ。どうしようって、別にどうもしないだろ。

 でも、万が一ということが……。いや、万が一もないか……

 いやでも! でもでもでも……


「……浩介?」

 おれがそんなアホな妄想と戦っている間も、浩介は心ここにあらずでボーっとしている。
 なんだ?どうしたんだ?

「浩介? どうした?」
「……あ、え?!」

 頬っぺたをつついてやると、浩介がハッとしたようにおれを見下ろしてきた。

「慶……」
「なんだ?」
「あの………」

 浩介が何かを言いかけた、その時……

「お前ら、一年かー?」
「え?」

 戸口の方からやや高い男性の声。振り返ると、小柄な(とはいってもおれよりは背が高そう)男の人がこちらをのぞいていた。ぎょろぎょろとデカイ目が印象的。

「いえ、二年生です……けど」
「なんだ。二年からの入部か」

 つかつかつかと中に入ってくる。あ、やっぱりおれよりちょっと背が高い……とついつい小柄な男を見ると背比べをしてしまうおれ。

「えーと……」
「ああ、オレ、ここのOB。一昨年卒業」
「一昨年ってことは……」
「あれ? 五十嵐先輩?」

 暗室から出てきた橘先輩が、男性をみてビックリしたような声をあげた。

「いらっしゃるなら連絡くださればよかったのに」
「急にバイトのシフトが変わって時間が空いたんだよ」

 一昨年卒業ということは、橘先輩が一年生の時の三年生ということだ。

「暇だから来ただけだから気にするな。オレはいないものとして活動してくれ」
「なんですか、それ」

 橘先輩はちょっと笑いながらこちらを振り返った。

「OBの五十嵐先輩。こいつら、渋谷と桜井です。あと女子が二人……」
「5人か。ギリギリだな」
「ええ、まあ……あ、時間なので、もう行きます」

 目で合図され、おれ達も撮影の道具をまとめる。今日もこれから、いくつかの部活の撮影をするのだ。

「じゃあ、先輩、オレ達行きますけど……」
「おー。懐かしいから部室の中ちょっと見てから、そっちいくわ」
「はい。じゃ、あとで」

 さっさと出ていってしまった橘先輩の後を追いかけて、五十嵐先輩に会釈をしてから部室をでる。

(………浩介?)

 浩介はやっぱりまだ様子がおかしい。何か心配事があるような顔をして部室の方を振り返り……大きなため息をついてからまた歩きだした。

(……ま、まさか……)

 今、部室で一人で雑巾がけをしている間に、例の幽霊と遭遇した、とか言わないよな……?

 今夜は浩介と同じ部屋二人きりで布団を並べて眠る。それもドキドキするけれども……幽霊がいるかもしれないと思うと、違うドキドキも止まらない……

 


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お読みくださりありがとうございました!
浩介の様子がおかしい理由は次回の浩介視点で……
また明後日、よろしくお願いいたします!

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コメント (4)
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