体育祭が終わると、今度は文化祭の準備がはじまる。
おれの親友・渋谷慶は、体育祭が終わった翌週月曜日のホームルームで文化祭クラス委員に選出された。昼休みの文化祭委員の集まりに行った慶が、ようやく戻ってきたのは5時間目の学活が始まってからで………
なんだか、どよーん、とした表情をした慶………
「渋谷、お前まさか………。……浜野」
「…………」
同じく文化祭委員で、慶と一緒に遅れて戻ってきた浜野さんが、学級委員の長谷川にコクリとうなずいてみせた。
「マジか」
「悪い………やっぱり断り切れなかった……」
深々と頭を下げた慶に、みんながワアワア言い始める。
「だから言ったんだよ!渋谷は狙いうちされるって!」
「でも渋谷以外で出来る奴いないんだからしょうがなかっただろ!」
「結局誰か出すことになるんじゃ一緒だったじゃねえかよ!」
「だからそれは渋谷が逃げ切れば良かっただけの話だろ!」
???
みんなが騒いでいる内容が分からなくて、後ろの席の山崎を振り返る。
「どういうこと?」
「渋谷、たぶん委員長とか副委員長とかになっちゃったんだよ。そうすると、本部の仕事をしなくちゃならなくなるから、クラス委員の方は別の人間を選び直し………」
「桜井やれよ!」
「え?」
山崎の説明の途中で誰かの声があがった。
え? 今、おれの名前言われた?
「そうだな。桜井でいいんじゃね」
「ええ!?」
なんでおれ!?
「お前、渋谷の彼氏だろっ。彼女のカバーは彼氏がしろよ」
「誰が彼女だ!」
慶がバンバンッと教卓を叩いた。
「だいたい、こいつ、バスケ部と写真部もあるし!」
「そんなのみんな、何かしらあるんだから、断る理由になんねーよっ」
「じゃあお前がやれよ!」
「やるわけねーだろっ」
慶と前の方の席の男子達で言い争いが始まったけれども、
「まあ、待て」
冷静な委員長の声に一同口をつぐんだ。
「桜井はどうなんだ? やれないか?」
「え………」
一斉にクラスの視線が集まり、心臓が止まりそうになる。おれが……?
「桜井! 委員になったら、だーい好きな渋谷と一緒に仕事ができるぞー!」
「え」
溝部の調子のよい言い方に笑いがおこる。体育祭以降、溝部がそういうことを言うせいで、クラスの他の奴らもさっきみたいに慶とおれのことを変な風に言うようになってしまったのだ。
慶はニコリともせずに、
「適当なこと言うな溝部。本部委員とクラス委員はまったく別口だ。一緒に仕事をすることはない」
「でも、一緒の会議に出たりするじゃん。桜井ー、ほら、渋谷の議長姿見たいだろー?絶対かっこいいぞー?見たいよなー?」
「えっと………」
「あほかっ」
通りがかりに溝部の頭をはたいてから、慶がおれのところまでやってきた。
「おれも本部は初めてやるから、どこまでクラスの方に関われるかはわかんねえ。けど、お前がやってもいいって思ってるなら出来る限りのことはする。でも、無理ならはっきり断れ」
「………」
文化祭委員………みんなの意見をまとめたり、指示を出したり………そんなことがおれに出来るんだろうか……
(いや、出来るか、じゃなくて、やれるようにならないと………)
そうだ。おれは変わると決めたんだ。友達を支えることができる人間になるって……
「慶………」
大好きな親友の瞳を見上げる。
「おれに、出来るかな」
「浩介」
慶は目をみはって……それからニッと笑っておれの頭をくしゃくしゃとしてくれた。
「出来るよ。お前なら」
「慶……」
慶の力強い言葉にうなずく。
出来るかな、じゃなくて、やらないと、だ。
「じゃ、決定な」
委員長の一言に、わっと拍手がおこる。
拍手の中、委員長があっさりと言った。
「じゃ、さっそくだけど、ここからの司会は桜井と浜野でよろしく」
「え!?」
こ、心の準備が……っ
「浩介」
「け、慶」
慶に立たされ、前に連れていかれる。
慶は教卓の前に立つと、
「お前ら、仕事押し付けたって自覚持てよ? こいつのこと困らせたりしたら、わかってんだろうな?」
「渋谷、過保護過ぎ」
委員長に冷静に突っ込まれ、慶がムッとする。
それから、浜野さんとおれに、今決めなくてはならないことを手短に説明すると、ポンポンとおれの手の甲をたたいてから席に戻っていった。
「じゃ………はじめに、何をやりたいか……意見をお願いします」
息を大きく吐いてから、クラスメートに向かって問いかける。みんなの目がこちらを向いたのを感じて、足が震える。
『出来るよ、お前なら』
慶の言葉を胸に、慶の触れた手の甲をぐっとつかみ、逃げ出したくなる気持ちを押さえつける。
「何か、ありませんか?」
「お化け屋敷!」
溝部の声に、女子から「えー」とブーイングがおこる。でも、それをきっかけにどんどん意見が出てきた。
「喫茶店!」
「ゲームセンター!」
「占い!」
活発に出てくる意見を、浜野さんが黙々と黒板に書きだしていく。その隙に、慶から渡された資料にざっと目を通す。
明日の放課後までに、第三希望まで書いて提出。なぜなら………
「お化け屋敷は2団体まで、飲食店は、屋内は5団体、屋外は3団体まで、です。おそらくこれらは第一希望で出しても厳しいし、第二希望で出したらまず通らない、と思い、ます」
「えー」
おれが説明すると、喫茶店、と意見を出した鈴木さんが、ブーと言った。
「じゃ、絶対喫茶店を第一希望! 抽選外れたら諦めもつくし」
「何勝手に言ってんだよっ。お化け屋敷だって第一希望にしないと通らない……」
「お化け屋敷なんて絶対にヤダ!」
鈴木さんと溝部がいがみ合う中、他のクラスメートもワアワア言いはじめた。
これは冷静に一つ一つの意見を吟味した上で多数決を取るのが定石だ。……と、思うんだけとみんな好き勝手に喋ってて……
「あの………」
誰も聞いてくれない……
どうしよう……
(…………慶)
クラスを見渡していたら、慶と目が合った。慶は透明な瞳でジッこちらを見ている。見守るように……
(慶)
たぶん慶だったらすぐにこの場をどうにかすることができるだろう。でも……それをせずに、任せてくれている。見守ってくれている。
『出来るよ、お前なら』
そう言ってくれた慶の言葉を裏切りたくない。
出来る。出来る。おれは……出来る。
呪文のように唱えながら、意を決して顔をあげ…………そして。
「静かにしてください!」
わあん……と自分の声が教室に響き渡り、自分でもぎょっとする。バスケ部仕込みの腹から声だす応援練習の効果があった。
ビックリするくらい、教室内がシンッとなって、余計に心臓がドキドキしてきた。けれども、何とか冷静に言う。
「それぞれ、推薦理由の発表をお願いします。まず、お化け屋敷の溝部君」
「おわっおれかっ」
慌てて立ち上がった溝部のたどたどしい発表を聞きながら、慶のことを見る。
(………慶)
こちらを見てくれていた慶は、おれと目が合うと、ニッと口の端をあげて笑ってくれた。
(慶………)
慶がいてくれるから、おれは大丈夫。
おれもいつか慶を支えられる男になるから、それまでちょっとだけ待っててね。
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お読みくださりありがとうございました!
長くなったので、切ることにしました。
なんか……ボーイズラブって名乗ってるのが申し訳ない<(_ _*)>
今さらですが、浩介視点って普通の青春物語なんですよね……。中学時代イジメが原因で引きこもりになっていた少年が、高校で出会い親友となった少年に助けられながら、成長していく物語!みたいな……
いや、でも、そろそろ、ボーイズラブ方向に進む………はず(^-^;っ
また明後日、よろしくお願いいたします!
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