慶と付き合っていることが両親にバレてから1ヶ月たった。
初めの頃は毎日毎日、母に呪文のように、
「男の子同士でそんな関係はおかしい。早くやめなさい。学校側に知られたらどうするの」
等々言われ続けて、頭がおかしくなりそうだったけれども、ある時ふと、
「でも、お父さんは放っておけっておっしゃったんですよね?」
そう確認すると、母は気まずい顔になり、それ以来、時折嫌みを言う程度になったので助かった。
あれが続いていたら、そのうち力づくで母を黙らせようとしてしまっただろう。最近、衝動性が強くなっているようで自分で自分がこわい時がある……
**
第一回進路希望調査票の提出があった。
もうすぐ受験生になる、と思うと、足元が崩れ落ちていくような感覚になる。
大学は父と同じところに、というのが母の希望だ。おそらく父も、同じ大学ならば文句は言わないだろう。あれで実は愛校心のある人だ。母校の出るスポーツの試合は必ず見ている。
私立大学のトップクラスの学校だけれども、家庭教師の先生に言わせると「今のままいけば確実に受かる」そうで、「東大も目指せる能力はあるよ」とも言ってくれている。
でも、それに甘んじている場合ではない。確実に受からなければならない。これで受からなかったら……
「桜井君っ」
「え」
いきなり呼ばれ、我に返る。見ると、顔は見たことはあるけれども名前は知らない他校の女の子……
(またか……)
辟易してしまう。けれども、普通の顔を装って「なあに?」と聞くと、女の子は真っ赤になっていった。
「今日も渋谷君、応援にくる?」
「………」
今日はバスケ部の交流試合のため、近隣の3校がうちの高校に来ている。
バレンタインが近いせいか、昨年同様、他校の女子生徒が慶の居場所を聞いてくるのだ。今日はこれで三人目……
「もう少ししたら来ると思うけど……」
「あ、ありがとう」
女の子は真っ赤のまま、女子の群れに戻っていってしまった。
「かわいそうに……」
思わず一人ごちてしまう。
慶は昨年も、こんな感じで他校の女の子からチョコを渡されそうになり………
(あああああ!!!)
記憶を辿っていたら、とんでもないことに気が付いて、悲鳴をあげそうになってしまった。
(そうだ……そうだよ……)
昨年、慶はどの子からのチョコも一切受け取らなかったのだ。
「お返しするのめんどくせー」
そう言っていたけれど、女の子達は「お返しはいりませんっ」と言って渡してきてたのだ。だから、
「もらってあげればいいのに。女の子達かわいそう」
なんて余計なことを慶に言って、「いいんだよ。うるせーな」って蹴られたんだ。
(そりゃ、蹴るよな……)
思い当たって、頭を抱えたくなってきた。
そりゃ、蹴りたくもなっただろう。
だって、その時すでに、慶はおれのことが好きだったんだから……
「………」
そう思ったら、顔がニヤケてきてしまった。
あれだけモテている人が、おれのことを1年以上も想い続けてきてくれていた。
そして今、おれ達は恋人同士で……
「………あ」
入り口近く、キラキラオーラの慶がいる。慶は毎試合見に来てくれるのだ。
(あ、さっきの……)
先ほどの女の子が慶のところに行くのが目に入った。
「でも……残念でした」
思わず声が出てしまう。
「ほらね」
慶が丁重にお断りしている様子に、喜びが抑えられない。
何人来たって同じ。慶は絶対に受け取らない。だって……
「あ」
こちらをみた慶と目があう。嬉しそうに手を振ってくれる慶。
慶はどんな子からのチョコも受け取らない。
だって、慶が好きなのはおれだから。
**
帰り道、2人で並んで歩きながら、昨年のことを確認してみた。
「あれって、去年もおれのために受け取らないでくれてたの?」
「まあな」
素直に肯いてくれた慶。
わかっていたけれど、嬉しい。
「ごめんね。それなのにおれ、女の子がかわいそう、とか言って……」
「そうそう。ありゃ凹んだ」
「ごめん……」
知らなかったこととはいえ、そういうことたくさんあったんだろうな。
それなのに、ずっと好きでいてくれた慶……
「……慶って、本当におれのこと好きなんだね」
「なんだそりゃ」
慶がぷっと吹き出した。
その唇にキスしたいけど、我慢我慢……
「バレンタイン、おれのチョコは受け取ってね?」
「当たり前だろ」
肯いてくれた慶。ああ、愛おしくてたまらない……
バレンタインには、大きなチョコをプレゼントしよう。
大好きの気持ちをこめてチョコを渡そう。
あと他に何を渡せばいいのかな……
**
その日の帰り、慶の家に寄ったところ、慶の妹、南ちゃんがコッソリとプレゼントをくれた。
「バレンタインに間に合うように、そろそろと思いまして」
と、意味の分からないことを言った南ちゃん。「お兄ちゃんには内緒ね!」というので、帰ってから開けてみたところ、
「??? なにこれ?」
単行本が一冊と、箱に入った容器が一つ……
頭の中が?でいっぱいのまま、ざっとその小説に目を通し……
「………え」
固まってしまった。
そこには、男性同士が性交渉をする様が具体的に書かれており、想像もしていなかった方法で一つになる二人の姿はそうとうに衝撃的で……
「……あ。ま、まさか……」
思い当たって、一緒にもらった箱から容器を取りだし、本格的に固まってしまう。
そこには、作中に出てきた、行為をスムーズに行うためのジェルが入っていて……
「バレンタインに間に合うようにって……」
南ちゃん……
それはハードル高すぎだよ……
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お読みくださりありがとうございました!
こうして、R18読切『初体験にはまだ早い』に繋がるわけございます。
次回はこの読み切りの、浩介視点。R18にはならない感じで!
次回もどうぞよろしくお願いいたします!
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