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BL小説・風のゆくえには~将来6ー2(浩介視点)

2016年04月16日 07時21分00秒 | BL小説・風のゆくえには~ 将来


『おれ達にはどんな将来が待ち受けてるんだろうなー?』

 修学旅行中、松陰神社の敷地内で、委員長が空に傘を突き上げ叫んでいた言葉が頭の中で再生される。


 おれの将来は小さい頃から決められていた。父のように弁護士になり、父の事務所を継ぐというものだ。

『与えられた場所で力を発揮するのもいいかな、と思ってな』

 おれと同じように、家業を継ぐことを決められている橘先輩がいっていた。
 与えられた場所で力を発揮する……おれにそれができるのだろうか。

『まあ、それを蹴ってまでやりたいことがなかった、ってことかもしれないけどな』

 それを蹴ってまでやりたいこと……。それはおれにもない。
 でも、だからといって、弁護士である自分の姿は全く想像がつかない。


 第一回進路希望調査書は、法学部で提出した。
 自分で考えることを放棄した、とも言える。
 ただ、今は、何も難しいことは考えず、生まれて初めて得られたこの充実した学生生活を思う存分満喫したいと思ってしまっている。

 初めてできた友達、親友、そして恋人。クラスの仲間たち。部活。委員会。今まで体験したことのない数々のこと。
 小学校、中学校の頃とはまったく別人のおれ。下を向かず前を見て、たくさんの人と話して、笑って。

『おれ達にはどんな将来が待ち受けてるんだろうなー?』

 どんな将来かは分からない。でも、もう、昔のおれには戻らない。うつむかない。おれにはそれができる。

(だって)

 おれには慶がいる。慶がいてくれれば、おれは真っ直ぐ前を向いていられる。



***


 修学旅行から帰ってきてからずっと、慶が今だかつてないほど元気がない。

 妊娠中だったお姉さんが、おれ達が修学旅行に行く前日深夜に出産したそうで、里帰りをしているのだけれども……

「4月22日出産予定だったのに、3月4日に出てきちゃって、その上肺に異常があるとかで、生まれて早々に大きい病院に救急車で運ばれて……って大変だったらしい」

 おれは修学旅行中だったから全然知らなかったんだけどな、と気落ちした様子で慶が言う。

 赤ちゃんは一度は生死の境を彷徨ったものの、無事に回復して、今は新生児集中治療室とかいう特別なところに入院しているそうだ。赤ちゃんの両親しか面会できないので見に行ったことはないのだけれども、お姉さんの話によると、保育器にいれられ、人工呼吸器をつけられ、小さな体のあちらこちらに管をつけられていて、見ていて涙が出てくるほどかわいそうな状態らしい。

 お姉さんは、お腹が少し張っていたのに仕事に出てしまい、途中で倒れてそのまま入院、そしてすぐに出産、となってしまったため、自分のせいで赤ちゃんがこんな目に合っている、と自分を責め続けているらしい。 

「おれ、椿姉に何言ってやればいいのか分かんない……」
「……何も言わなくていいんじゃないかな……」

 うつむいている慶の肩をそっと抱き寄せる。

「ただ、一緒にいてあげるだけで、充分だと思うよ?」
「………うん」

 そういうおれも、かける言葉が見つからず、ただそばにいることしかできない……。


 慶は気を抜くと、お姉さんのことに意識が行ってしまうようだった。あのスポーツ好きの慶が、学年最後のスポーツ大会にもほとんど参加せず、体育委員の仕事だけを黙々とこなしている。精神的ダメージは相当なもののようだ。


「渋谷、具合悪いのか?」
「あ……うん、ちょっとね……」

 同じ体育委員の1組の山口が話しかけてきたので驚いた。
 山口は2年になってすぐの球技大会のあとに、9組の島津を仲間外れにしようとして、慶に注意された。それ以来、おれ達を避けていた節があったので、個人的に話しかけてきたのは初めてのことなのだ。

「そっかあ……やっぱ元気ないもんなあ……」
 山口はうーん、とうなると、

「実は今日で体育委員みんなでやる仕事最後だから、打ち上げやろうと思ってるんだけど」
「あ……そうなんだ」

 球技大会後のことを思い出して、ぞわっとなる。あの時、山口は「島津には内緒で……」とコッソリ言ってきたのだ。
 おれの顔がこわばったことに気がついたのか、山口が苦笑した。

「今回はちゃんと全員誘うから」
「あ………」
「コーコーセーなんだから、ハブにするとかそんなガキっぽいことしねーよ」

 半笑いで言った山口のセリフに笑ってしまう。あの時、慶が言ったのだ。「高校生にもなって誰かハブるなんて」って。

「あれはもう忘れてくれ」
 山口はボソリと言ってから、表情を真面目なものにあらためた。

「桜井、来られるか?」
「うん。おれは大丈夫だけど……」

 慶はどうだろう……

「渋谷にも聞いておいてくれるか? 詳しいこと決まったらまた連絡する」
「分かった。企画ありがとう」

 肯くと、山口はなぜか、ふっと笑った。何?と聞くと、感心したように、

「なんかさー桜井、変わったよなあ」
「え」

 2ヶ月前にも写真部のOBの先輩から同じことを言われた……。

「球技大会の頃は、オドオドして渋谷の後ろにくっついてたのに、今じゃ横並んでる感じ」
「え……」

 横並んでるって……ホントに?
 目を瞠ったおれを見て、山口は「あ」と口を押さえた。

「ごめん。オドオドって言葉悪いな。えーとなんつーのかな、ほら、こういう誘いも渋谷に聞いてから返事するって感じだっただろ? でも今、自分だけで即答したし……」
「あ、うん。オドオドで大丈夫。自分でもそうだったと思う」

 あの頃のおれは、色々なことが怖くて、何もかもに自信がなくて……でも、今は違う。

「お前、あれから何があったんだ?」
「うーん………」

 山口の質問にうなってしまう。
 何がって、とても一言では言いあらわせない………けれども。要約すると。

「渋谷のおかげ、だよ」
「………。なるほど」

 山口は大きくうなずき、「なんか分かる気がする」と言って笑った。

「でしょ?」

 おれもつられて笑ってしまう。
 すべては慶のおかげ。何もかもが慶のおかげ。

 だから今度はおれが支えてあげたいんだ。


 



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お読みくださりありがとうございました!
途中ですが時間なのでここまでで更新します。
あともう一回だけ浩介視点になります。それで浩介視点は最終回のはず。
本当は今回で終わらせたかったんだけど、書き終われませんでした…。
次回もどうぞよろしくお願いいたします!

クリックしてくださった方、本当にありがとうございます!こんな真面目な話なのに、、、すみません。感謝申しげます。今後ともどうぞよろしくお願いいたします。ご新規の方もどうぞよろしくお願いいたします!

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コメント (4)
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