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BL小説・風のゆくえには~将来6ー1(浩介視点)

2016年04月14日 07時21分00秒 | BL小説・風のゆくえには~ 将来

前回は3月初旬の話でしたが、時を少し遡り……一月中旬からの話になります。


ーーーーー


 写真部の廃部が決定した。

『年明けにOBの先輩方も集めて話し合いをする』

 との橘先輩の言葉通り、三学期がはじまって2週目の土曜日に、現役5人(橘先輩、橘先輩の妹の真理子ちゃん、慶、慶の妹の南ちゃん、おれ)に加え、OB・OGが8人も来てくれて話し合いが行われた。でも、それは話し合い、というより、決定事項の連絡のようだった。橘先輩は冬休みの間に心を決めていたようだ。

 当然OBの方からは反対意見がでた。

「そんなに急いで廃部にしなくても、来年新入部員がたくさん入るかもしれないし」
「渋谷君が部活オリエンテーションで説明すれば、渋谷君目当ての女子が入ってくるよ、絶対」
「確かに!」
「え」

 そりゃそうだけど、そんなの嫌だっ。
 おれや慶が何かを言う前に、橘先輩が淡々と、

「まあ、そうですね。新入部員の件はそれでいいとしても、指導員がいなければただの渋谷を囲う会になってしまいます」
「えー……」
「渋谷も桜井も女子二人も、まだはじめて半年ちょっとで、ようやくカメラの扱いに慣れてきた程度の腕前です。人に教えるような技術は持ち合わせていません」
「…………」

 厳しいけれど事実だ……。

「例えば、先輩方が交代で指導にきてくださるとか、そういうことができれば……」

 橘先輩が先輩方を見渡すと、一斉にみなブンブン首を振った。

「あたし無理っ!もう忘れちゃった!」
「オレ、就職活動はじまるしなあ」
「今のサークルとバイトで手一杯だから……」

 皆さん「無理無理」のオンパレードだ。

「そういう橘はどうなんだよ? 自営業なんだろ? 都合つかないのか?」

 合宿にもきていた橘先輩の一つ上の男の先輩が言い出した。

 おれも、橘先輩は大学進学はせず、実家の印刷会社に就職する、と聞いている。が。

「すみません。夜間の大学に通うので、時間的余裕がありません」
「え」

 夜間の大学? 初耳だ。

 ザワッとした中で、

「じゃあ、もう、廃部決定で」

 あっさりとそう言い切ったのは、OBの五十嵐先輩。

「手かしてやれないのに、口だけだすのは違うだろ」
「それは……っ」
「だいたい、現役が廃部っていってんだから、OBのオレ達があーだこーだ言う話じゃない……と思いませんか?」
「え、ああ……」

 一番年長のOBの先輩が肯くと、五十嵐先輩が苦笑を浮かべて橘先輩の肩をたたいた。

「勝手に廃部にしても良かったのに、こうしてOB集めてお伺いたてるあたり、橘、真面目だな」
「いえ……力及ばず、申し訳ありません……」

 橘先輩が深々と頭を下げる。するとOBの方々が慌てたように、口ぐちに言いはじめた。

「そんな、橘君、いいよー」
「君が悪いわけじゃないんだから」
「もともと人数増やせなかったオレらの責任もあるしっ」
「しょうがないよ、廃部になってもっ」

 一気に形勢逆転で全員が廃部容認派に回った。ひとしきり賛成の意見が出そろったところで、橘先輩はすっと顔をあげると、きっぱりと言いきった。

「では……申し訳ありませんが、写真部は今年度で廃部とさせていただきます」

 それから、ついで、のよう言葉を付け加えた。

「部室に残っているご自分の作品を持って帰っていただいてもいいでしょうか」
「…………」

 視線の先にはダンボールに入ったパネルの数々……

(これが目的だったのか……)

 吹き出しそうになってしまった。話し合いだと集めておいて、結局は部室の物の整理が目的だったようだ。



 なんだかんだとOBの方々は楽し気に荷物の整理をすると、この場にいないメンバーで連絡のつく人の作品まで持って帰ってくれた。

「結局のところ、こうして廃部を急いだのは、妹ちゃんに迷惑かけないためってことでしょ?」
「シスコンも大概にしなよー橘」

 帰り際、女性の先輩方に冷やかされても、「何とでもいってください」と平然と返した橘先輩はカッコよかった。真理子ちゃんもちょっと嬉しそうに小さく笑っていた。

 確かに、遅かれ早かれこの部は人数不足で廃部は免れなかっただろう。その廃部の処理を真理子ちゃんにやらせるのを避けるために、橘先輩は自らが悪役を買って出たということだ。

 そもそも、真理子ちゃんは元々カメラに興味があったわけではなく、お兄さんのいる写真部を潰さないために部員になっただけだし、おれ達も頼まれて入ったものの「センスがない」と橘先輩にバッサリ言われてしまうような腕前だし、南ちゃんは……

「渋谷妹は、目的達成できたからもういいんだろう?」
「はい! バッチリです」

 橘先輩の問いかけに、ニコニコで答えた南ちゃん。目的ってなんだろう……。


「渋谷と桜井は……、まあ、あと3ヶ月で受験生になるしな」
「はい……」

 肯いてから、ふと、思いだした。

「先輩、夜間の大学に行かれるんですか?」
「ああ……まあな」

 橘先輩は軽く肩をすくめた。

「行くつもりなかったんだけど、母方の祖父が気にしてくれてな。学費援助してくれるって言うから、行くことにしたんだよ。これから受験準備しても入れる大学はあるようだし」
「そうですが……」

 そういえば、橘先輩って実力テスト学年首位だったって、田辺先輩が言ってたっけ……。

「将来のために大学出ておけってさ。将来っていっても、親の会社継ぐだけなんだけどな」
「………先輩は」

 ぐっと拳に力が入ってしまう。

「先輩は、親の後を継ぎたくないって思ったことないんですか?」
「あるよ」

 あっさりと、先輩は言った。

「でも、結局、継ぐしかないっていうか……、まあ、与えられた場所で力を発揮するのもいいかな、と思ってな」
「…………」

 与えられた場所で………

「まあ、それを蹴ってまでやりたいことがなかった、ってことかもしれないけどな」
「…………」

 蹴ってまでやりたいこと……

 ぐるぐると頭の中に色々な言葉が回っていく……


「桜井」
「え」

 急にドアの方から声をかけられビックリして振り返ると、もう帰ったと思っていた五十嵐先輩が立っていた。

「先輩?」
 駆け寄ると、はいっと紙を渡された。見ると、駅近くの焼肉店のクーポン券……

「オレのバイト先。今度渋谷と食べに来てくれよ」
「わ、ありがとうございます!」

 高級路線の店なので行ったことがないのだけれど、このクーポン券を使えば高校生の小遣いでも何とかなりそうな感じだ。慶、喜ぶだろうな。そう思ってニヤけると、五十嵐先輩はなぜかうんうん肯き、

「お前……変わったな」
「え」

 聞き返したおれの腕をバシバシ叩いてきた。

「何かちょっと自分に自信がついてきた感じ? いいじゃん」
「え、そんな」

 そうだろうか? そう見えるだろうか?
 
「頑張れ、高校生」
「………はい」

 力強くうなずく。

 写真部の合宿での五十嵐先輩との出来事のおかけで、おれは変わろうと思うことができた。そして『憧れの渋谷』というフィルターを外すことができた。
 写真部に入っていなかったら、おれはまだまだ遠回りをしている最中だったかもしれない……


「なに見とれてんだよっ」
「痛っ」

 五十嵐先輩の後ろ姿を見送っていたら、いきなりゴッと背中に衝撃が走った。

「見とれてなんか……」
「じゃあ見るな」

 振り返ると、ぷうっとふくれている慶の顔があって……

「………慶」

 ああ、この人の好きな人は本当におれなんだな、と感じられて嬉しくなる。それがおれの最大の自信に繋がっているのだと思う。

「何話してたんだよっ」
「………気になる?」
「…………………」

 ムッととがらせた慶の唇………かわいすぎ。キスしたいけど我慢我慢……

「誘われただけだよ」
「はああ!? 何に!」

 怒り出した慶の鼻先に先ほどのクーポン券を突きつける。

「バイト先なんだって。渋谷と食べにきてって言ってたよ」
「焼き肉っ」

 現金に目を輝かせた慶。

「なんだーそうならそうと早く言えよっ。いいとこあるじゃん。五十嵐先輩!」
「慶ってば………」

 変わり身早過ぎる。おかしくて笑ってしまう。


「写真部……楽しかったね」

 感慨深くつぶやくと、慶がニヤリと笑った。

「まだ活動日あるぞ? 残ってるフィルム使いきれって橘先輩が」
「うわっそうなんだ!」

 まだ結構残っていたような……

「橘先輩が卒業するまでに、一枚でもいいから認めてもらえる写真撮りたいなあ」
「お。お前前向きだな。おれはもう諦めた」
「えええっ一緒に頑張ろうよー」

 そう。一緒に。一緒の思い出をたくさん作りたい。


 こうしてそれから1ヶ月半ほど写真部は活動を続け、三月初めの卒業式を区切りとして廃部となった。おれ達が使わせてもらっていたレンタルカメラは、学校保管となるそうだ。今後、カメラに詳しい教員が入ってきたら復活するかもしれない、ということらしい。


「ところで、南ちゃんの目的達成って……」
「決まってるじゃなーい!」

 南ちゃん、目をキラキラさせて言いきった。

「お兄ちゃんと浩介さんくっつけること!そしてそれを観察すること!同じ部活だったからたくさんみられて良かったよ~」
「…………。どうしてそれを橘先輩が知ってる?」
「だって観察仲間だもん」

 ケロリとして言った南ちゃん。

「橘先輩も二人のこと観察して楽しんでたんだよ~」
「………なんだそりゃ」
 慶がボソッとつぶやいた。呆れて言葉も出ないという感じ。と、そこへ。

「あ、ほら、橘先輩来た!」
 昇降口からワラワラと出てくる中に橘先輩の姿があった。胸についている花が卒業生であることを示している。

「ご卒業おめでとうございまーす!」
 みんなで声をそろえて言うと、珍しく先輩が照れたように笑った。清々しい、すべてをやり切った充実感、みたいなものが漂った笑顔。

 来年の今頃、おれもこんな表情ができているだろうか……


 


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お読みくださりありがとうございました!
前回同様、将来のことについて色々思う高校二年生の日常、でございました。
マッタリした話ですみません…。あ、合宿の話は『月光』編になっております。
そういうわけで。次回もどうぞよろしくお願いいたします!

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