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(BL小説)風のゆくえには~嘘の嘘の、嘘 2(浩介視点)

2016年11月05日 07時21分00秒 | BL小説・風のゆくえには~ 嘘の嘘の、嘘

*今回は若干具体的性表現があります。苦手な方ご注意ください*




 結局、また慶に会えなかった。
 夜には帰る、というので、翌朝直接出勤できるよう用意して、慶の住むマンション(慶の勤める病院の独身者用の社宅だ。病院の外門まで徒歩5分の距離にある)に泊まりに行ったのだけれども、朝になっても慶は帰ってこず……

「ウソツキ……」

 思わず出てしまう愚痴の言葉。
「2年目になったら少しはマシになる」という話を支えに、昨年一年間を乗り越えてきたというのに、2年目に入ってもちっとも状況は変わっていない。

「あーああ……」
 大きく大きくため息をついて、慶のために作った朝食を冷蔵庫に入れる。
 そして、鞄と書類を持って玄関に向かったところで、

「あ!」
 携帯が鳴った。慌てて通話ボタンを押す。

「慶?」
『まだうちにいるか!?』
「え」

 出るなり怒鳴るような声がしてきた。電話の向こうの慶、たぶん走ってる……

「うん、ちょうど今出ていこうと……」
『ちょっと待て!』

 タッタッタッタッタと電話の向こうから音がする。

「え、でも」
 もう、電車の時間が……と、言いかけたのにかぶせるように、

『鍵あけて待ってろ』
「え」

 それだけ言うと、電話を切ってしまった慶……

(鍵あけて……?)

 って、玄関の鍵のこと?? と頭の中ハテナだらけになりながら、玄関の鍵を開けて、その場に立ち尽くした……

 その数秒後、

「!」
 いきなり、すごい勢いでドアが開いた。同時に、これでもかというほどのキラキラした光が飛びこんできて……

「え」
 気がついたら、視界が天井になっていた。勢いよく抱きつかれ、尻もちをついたところを、そのまま床に押し倒されたのだ。


「け、慶……?」
「ただいま」

 おれの上に馬乗りになった慶の温かい手がおれの頬を囲んでくれ、それから優しい唇が落ちてくる。

(うわ……)

 嬉しさと安心と興奮と、色々なものが合わさって、涙が出そうになる。

 たぶんわざと、下半身の位置を合わせて擦るようにしながら、貪るように唇を求めてくる慶……
 久しぶりすぎて、余計に反応が良く……

(ああ、でもダメだ)

 体勢を逆にしたい誘惑にかられながらも、何とか理性を集めて、慶を軽く押し返す。

「慶……おれ、電車の時間」
「車で送ってく」

 慶の唇が耳に首に、落ちてくる。

「そしたら、あと10分はいられるよな?」
「ん……」

 10分……、最後までは無理だな……

 と、思ったおれに気が付いたのか、慶が突然「よし!」と立ち上がった。

「な、なに?」
「ベッドいくぞベッド」
「え」

 腕を掴まれ立たされ、そのままベッドの前に連れてこられる。

「とっとと服脱げ」
「………」

 言いながら、慶は棚の引き出しをあけて、小さな箱を取り出した。

「嫌だけどゴムする。そうすりゃ後処理楽だし、10分で家でられるだろ」
「…………」

 ホントにこの人、ムードというものを知らない……

「なんだ、なんか文句あんのか」
「いえ、なにも……」
「じゃ、さっさとやるぞ」

 慶がバサバサと服を脱いでいく。惜しげもなく晒される鍛え抜かれた美しい体……

(うわ……)
 このしなやかな肢体がこれから自分のものになるのかと思うと、体中が心臓になったかのように動悸が激しくなってくる。

「浩介」
「………っ」

 名前を呼ばれ、おいで、というように手を広げられ……もうそれだけで、恥ずかしいくらいそり返ってしまった。でも、慶も同じだから余計に嬉しい。


「慶……」
「んん」

 キスを続けながら、自分のものと、おれのもの、両方にゴムを付けてくれる慶。いつもながら本当に器用……

「我慢できね……」
「ん」

 綺麗な瞳が迫ってきて、そのままベッドに押し倒された。いつのまに持っていた潤滑のジェルをたっぷり塗りつけられてから、慶の入り口にあてがわれる。

「あ……」
 それだけで声が出てしまう。期待で体中が敏感になっている。

「……っ」
 でも、先が少し入った時点で、慶の綺麗な眉が一瞬寄せられた。

(久しぶりなのに、何の前準備もせずにいきなり入れて大丈夫……?)

 ……なんて余計なことをいったら、ムキになって早急に入れようとしてくるだろうから、何も言わない。

(すっごい締め付け……)

 気が遠くなりそうな快感。
 ゆっくり、ゆっくり……慶が下りてくる。おれが貫いているというより、抱きしめられるように、その温かいぬくもりに包み込まれる……

「慶……」
「ん……浩介」

 入りきった時点で、慶がキスを求めるように顔を寄せてきたので、少し上体を起こして唇を重ねる……
 すべてが慶で埋め尽くされていく。

「慶……」

 大好きだよ。

 そういうと、慶は蕩けるような笑顔を向けてくれた。


***


 しかし……10分はやはり厳しかった……

 二人ほぼ同時に果てたなり、各自ですぐにゴムをとって、ウェットティッシュで拭いて、無言で速攻で着替えて……と何の余韻もないまま、バタバタと用意して、そのまま駐車場まで猛ダッシュ……


「あー、なんかおかしい」
 車が発進するなり、自分たちのしていることが可笑しくて笑えてきてしまった。

「でも、すっごい気持ち良かった~」
 言うと、ちらっとこちらをみて、「ばーか」と笑ってくれた慶……。ああ、かわいい……。


「おれ、今度の日曜フルで休めそうなんだけど、お前空いてる?」
「え、ごめん、部活。練習試合……」

 考えてみれば、おれもおれでこうして仕事が入るから余計に会えないんだ。何も慶だけのせいではない、と今さら気が付く。がっかりしていたところで、

「どこでやるんだ? おれ見に行ってもいい?」
「え?! 本当に?!」

 嬉しい申し出に飛び上がってしまう。

「うちの学校の体育館! 関係者用のパスあるから是非きて!」
「関係者って……いいのか?」
「大丈夫大丈夫大丈夫!! もう一人の顧問の早苗先生の旦那さんも前に見に来てたし!」
「旦那さん……」

 慶はうーんと唸って、

「それ、親族だもんなあ。でも、おれはお前の……」
「旦那さんでしょ」

 思わず言うと、慶はこれでもかというくらい眉間にシワを寄せた。

「旦那じゃねーだろ」
「んーじゃ、彼氏?」
「お前な……」

 信号のタイミングで、慶がおれの頬に軽く拳骨を合わせてきた。

「それ、よそで言ってねえだろうな?」
「………言ってないよ」

 すーん、と寂しさが落ちてくる。

 なんで言っちゃいけないんだろう。
 なんで隠さないといけないんだろう。

 おれ達の関係ってそんなにいけないことなのか?
 そんな後ろ指さされるようなことなのか?

 ただ、好きなのに……。ただ、愛しているだけなのに……

「分かってるよ……そんなこと」
「浩介」

 ぼそっと答えると、慶が、イイコイイコ、と頭を撫でてくれた。

「おれ達、親友兼恋人、だろ? 兼恋人、のところだけ、カッコでくくっておけ」
「……親友、カッコ兼恋人カッコとじ」
「そうそう」
「…………」

 黙っていると、慶がそっと手を絡めてつないでくれた。

「おれは呼び名はどうでもいい。一緒にいられればそれでいい」
「………慶」

 キュッと繋いだ手に力をこめる。

(でも、全然一緒にいられないじゃん……)

 そんな文句も何とか腹の中にしまいこむ。
 慶の負担にはなりたくない……


 その後、信号の繋がりもよく、予定通りの時間に学校近くまで着くことができた。

「じゃ、関係者用のパス、日曜日までに届けるね」
「おお。頼む」
「行ってきます」

 車から出て、手を振る。見送られるのも嬉しいものだと、内心ホクホクしながら路地を出たところで、

「あれ、桜井先生」
「高瀬、君」

 バッタリと、バスケ部2年の男子と出くわしてしまった。高瀬諒という背の高い男子。

「先生、変なところから出てきましたね」
「あー、ちょっと車で送ってもらって……」
「車?」

 高瀬君の横からヒョイと顔をのぞかせたのは、この4月から世界史を受け持つことになったクラスの男子生徒。「日本語がわからない」とウソをついた相澤さんと仲の良い子だ。その翌日一緒に悪ふざけを謝りにきてくれた。

 これ以上突っ込まれないために、わざと話を振る。 

「二人、一緒に登校してるんだ? 家近いの?」
「うん」

 高瀬君の友達が嬉しそうに肯いた。

「家、隣同士なんだ。小学一年生からの親友」
「へえ……」

 親友。親友か……

 さっきまで慶と話していた内容を思い出して、少し複雑な気持ちになる……と、


「浩介!」
「え」

 声の方を振り返ると、その親友・慶が颯爽とこっちに向かって走ってきている姿が目に入った。走る姿もめちゃめちゃカッコいい。2人がいるのに思わず見惚れてしまう……と。

(え………あ)

 その手に、書類の封筒!
 ハッとした。車の中に忘れてしまったらしい。

「うわ、ごめん……っ」
「じゃ」

 封筒を渡してくれるなり、慶はすごい勢いで車に戻っていってしまった。駐車禁止区域なので慌ててる。速い。そして爽やか……


「今の人……芸能人?」
 高瀬君の親友君の呆然としたような声に我に返る。いかんいかん見惚れてる場合ではない。

「いや、違うよ。お医者さんだよ」
「へえ。先生の友達?」
「………うん」

 ここで、「恋人だよ」と答えられたらどんなにいいだろう。なんて思っていたら、

「友達? 恋人かと思った」
「え」

 高瀬君の冷静な声にぎょっとする。

「なんか愛おしそうに見てたから」
「え……」
「何言ってんだよー諒ー」

 えいっと高瀬君に体当たりする高瀬君の親友君。

「綺麗な顔してたけど、あの人男だったぞ? 男が恋人なわけねーだろ」
「…………。分かってるよ。言ってみただけ」

 プイッと高瀬君が歩きだし、「わー待てよー」と追いかけていく親友君……。
 その後ろ姿を見ながらひとりごちる。

「……男が恋人なわけない、か……」

 そりゃそうだよな………
 あああ、と再び大きくため息をついたところで、

「……?」
 携帯の着信に気が付いた。こんな朝から誰だろう……

「え」
 ディスプレイに表示されたのは、庄司さん。
 父の弁護士事務所で働いている弁護士の一人だ。おれより15歳年上の頼れるお兄さん風の先生。

 こんな時間に、庄司さんから電話、ということは……

(嫌な予感がする……)
 不安になりながら、電話に出ると……やはり、嫌な予感は的中していた。


 父の母親……祖母が亡くなったそうだ。


(ああ……防波堤が決壊する……)

 祖母が亡くなったという悲しみよりも先に、そんなことを思ってしまったおれは、本当に冷たい人間だ。
 祖母の介護で忙しいため、ここ数年、母のおれに対する干渉は激減していた。この防波堤がなくなってしまったら……

「慶………」

 あの束縛の日々が、またはじまる……




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お読みくださりありがとうございました!

浩介が勤めているのは、都内の私立高校です。
実家の近くには勤めたくなかったため、地元の採用試験は受けず、
転勤で慶と離れるリスクを避けるため、東京都の採用試験も受けず、
慶の大学のわりと近くの私立高校を、大学卒論担当の教授から紹介していただけたので、迷いもせずそこに決めたのでした。

明後日は、相澤侑奈ちゃん視点でお送りいたします。

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