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(BL小説)風のゆくえには~嘘の嘘の、嘘 7(泉視点)

2016年11月22日 07時21分00秒 | BL小説・風のゆくえには~ 嘘の嘘の、嘘

 中1の夏から約3年半も続いていた諒の女遊びは、侑奈と付き合うようになってからピタリと止んだ。もう丸5ヶ月経つけれど、一度も浮気していないようだ。

(やっぱり諒の本命は侑奈だったんだな……)

 二人がオレに気を遣って今まで付き合えなかったのかと思うと、複雑だ……。

「お前いつからユーナのこと好きだったんだ?」

 一度諒に聞いてみたんだけど、

「内緒」

 そう言って、教えてくれなかった。拳骨で背中をグリグリしても、横腹をくすぐっても、両頬をムニムニしても絶対に口を割らないところをみると、かなり前からだったのではないか……と思って、さらに複雑な気持ちになってくる……。


 二人が付き合うようになってからも、〈仲良し三人組〉は健在だ。むしろ前よりも一緒にいることが増えた気もする。

「お邪魔虫」

 最近、クラスの奴らにそう言われる。
 侑奈とオレは2年生は同じクラスなれたので、諒がうちのクラスに遊びに来ることが多い。恋人同士の諒と侑奈の間にいるオレは、はたからみると邪魔者以外の何者でもないらしい。

「ちょっとは遠慮したら?」
 侑奈とわりと仲の良い、小野寺という女子が特にウルサイ。

「侑奈が、諒君と二人きりの時間が全然ないって愚痴ってたよ」
「…………」

 そうなのか? 愚痴ってるのか?
 その割には、侑奈の方から誘ってくるんだけど……
 それに乗っかるオレもオレなのかもしれないけど……


 そうして、今日も侑奈に誘われ、買い物に付き合ってから、家に上がりこみ、買ってきたケーキを食べながら三人でウダウダと話したりして……

「今日、お前らする?」
「んー、どうしよう? 諒は?」
「どっちでも」
「じゃ、する」
「ん」

 この5か月で当たり前のようになった恒例のやり取りのあと、諒と侑奈が侑奈の部屋に消えていき、オレは隣室でCDウォークマンを聴いているフリをしながら、その物音に耳をそばだてる。

「………」
 衣擦れの音の後、遠慮がちにはじまる侑奈の喘ぐ声……

(小野寺のせいだな……)
 いつもだったら、それを聞いた途端に自慰をする気満々になるのに、小野寺に言われた言葉が気になってそんな気になれない。

(愚痴ってるって……だったらなんで誘うんだよ)

 そう思ってから、はたと気が付いた。

(そうか。この見張りのためか)

 オレは、侑奈の父親が急に帰ってこないか見張る、という名目でここにいるのだ。まあ、この5か月で最中に帰ってきたことなんて一度もないけど。

(………。それなら終わったらすぐに帰ってやるか……)

 そんなことを思いながらぼんやりと隣室の声を聞く。

「ユウ……」
「あ……っんっ諒っ」

 愛しさをこめて侑奈を呼ぶ諒の声。いつもの諒とは全然違う声。侑奈の余裕のない、でも可愛い、喘ぎ声。いつもの侑奈からは想像できない声。……ゾクゾクする。

(あ……やっぱ勃ってきた)

 苦笑してしまう。どんなAVよりも効果てきめんだ。
 でもする気にならなくて、本当に、かなり大きめにCDをかけて窓の外を見る。気が紛れてものもおさまってきた。

(お邪魔虫……か)

 そうだよなあ……小学生中学生じゃないんだから、いい加減〈仲良し三人組〉は卒業しないといけないのかもしれない……
 そんなことを考えながら窓の外をジッと見ていたら、

「泉?」
 終わったらしい諒がオレの横にストンと座ってきた。

「どうかした? 今日、なんかちょっと変じゃない?」
「あー……」

 のぞきこまれて詰まってしまう。さすが小学校一年生からの親友。イヤホンをはずしながら答える。

「別になんもねえよ」
「そう……?」

 二人に「オレは邪魔なんじゃないか」と聞いたところで、二人とも「そんなことない」と答えるに決まっている。だったら、オレのほうから身を引いてやるべきなんだよな……

「あのさ」
「うん」

 コクンと肯いた諒。オレのことを頼りきったような瞳。背はずいぶん高くなったけれど、こういうところは出会った頃と変わらない。その瞳を直視できず、立ち上がりながら告げる。

「オレ、帰るわ」
「え?!」

 びっくりしたようにこちらを振り仰ぐ諒。

「え、何で? 何かある?」
「あー、ちょっとな。お前はゆっくりしてけよ」
「泉が帰るなら帰るよっ」
「何言ってんだよ」

 呆れてしまう。

「お前、ちゃんと侑奈と二人の時間作ってやれよ」
「………今、二人だった」
「あのなー」

 こらえきれなくて、くしゃくしゃくしゃ、と諒の頭をかきまぜる。

「お前と侑奈は恋人同士。おれは単なる友達。いつまでも今までみたいにはいられないだろ」
「……………やだ」
「え? ちょ……っ」
 聞き返したのと同時に、いきなり、腰に手を回され引き寄せられた。

「りょ……っ」
 力強すぎ……っ。腰に回された腕にぎゅうっとすごい力が入っている。諒は座ったままなので、オレの胸のあたりに頭がある。

「前もそう言った」
「………え?」

 諒が額をグリグリと押しつけながら言ってくる。

「何の話……」
「もう、中学生だから、小学生みたいなことするなって言った」
「…………」

 なんでそんな昔の話……
 戸惑うオレを置いて、諒は小さく言った。

「どうして、今のままじゃいけないなんて言うの?」
「え………」

 口調が小学生の頃に戻っている。
 なんだ? どうしたんだ? 諒……

 諒は小さいけれど、ハッキリとした口調で、言った。

「オレ、三人一緒にいられないなら、別れるから」
「は?!」

 なんだその脅しみたいなセリフ。

「だから……」
「…………」

 なんなんだろう……
 諒……まるで怯えているような……

「諒……」
 ゆっくりと頭を撫でてやる。頭を撫でるのはすごく、すごく、久しぶりだ。

「お前……バカ?」
「うん……」

 さらにぎゅうっと強く抱きついてくる諒……

 侑奈が部屋から出てきたのは、いつもよりもずいぶんと時間が経ってからだった。


***


 翌日、文化祭が行われた。毎年6月の第一土日に行われているらしい。
 クラスの出し物(景品付きボーリング場だ)の係の合間に、侑奈が所属する吹奏楽部のステージを諒と一緒に観に行った。今回、侑奈はソロを任されているそうで、余計に楽しみだ。

 体育館にひきつめられたパイプ椅子の客席はかなり埋まっている。前方の端の方に座ってはじまるのを待っていたのだけれども、入り口のあたりが妙にザワザワしているので、振り返ってみたら……

「あ! 渋谷さん!」
「おー」

 入り口に立っていた渋谷さんが手を振り返してくれた。渋谷さんは諒の所属するバスケ部の顧問である桜井先生の親友だそうだ。先々月、一緒に練習試合を観て知り合いになった。
 渋谷さんは、芸能人ばりにカッコいい。だから普通に一人で立っていても注目を集めてしまうんだけれども、今回はそれだけではなかった。

「すごい、派手な集団……」
「だな」

 諒とも肯きあってしまう。
 そのカッコいい渋谷さんの横に、背の高いものすごい美人。そして、その隣に、黒褐色の肌の高校生くらいの男子がいる。

「あの美人、何者だろう?」
「ああ、桜井先生の彼女だよ。中学校の先生って言ってた」
「げ」

 桜井、あんな美人の彼女がいるのか。親友もあんな美形で彼女もあんな美人。どうりで侑奈の美貌にビクともしなかったわけだ……。

「あの外人は?」
「さあ?」

 二人で首をかしげていたら、ちょうど桜井先生もやってきて、四人揃ってオレ達の方に歩いてきた。

「ここ空いてる?」
「あ、はい」

 もう4席連続で空いているところはなかったため、オレ達の前の列に彼女と黒褐色の男子が並んで座り、その斜め前の席に桜井先生と渋谷さんが並んで座った。

(桜井先生……彼女とじゃなくて、親友の隣に座るんだ?)

 不思議……
 オレ達もああいう風に見えるのかな? そしたら渋谷さんがオレと同じ「お邪魔虫」だ。

 桜井先生と渋谷さん、仲良さそう。二人くっついてプログラムを見ながら楽しそうに話してる。桜井先生の彼女はそれを気にする様子もなく、黒褐色の男子と話してて……。

(お邪魔虫に見えない……)
 と、思うのは、美人彼女に負けないくらい渋谷さんがカッコいいからだろうか。

(オレはダメだな……)
 吹奏楽部の演奏がはじまり、隣に座る諒の整った横顔と、舞台上の侑奈の綺麗な顔を見て、あらためて思う。

(オレじゃ、釣り合いがとれない……)

 だから「お邪魔虫」になっちゃうんだな……



「ねーねーねーねー!!」

 吹奏楽部の公演が終わった途端、前に座っていた黒褐色の肌の男子がこちらを向いて、パタパタと手を振ってきた。

「あのフルートのソロの子、知り合い? 戻る時、キミ達に向かって手振ったよね?!」
「え?」

 外見は外国人そのものだけど、日本語話せるらしい。侑奈と一緒だ。なんだか大興奮している。

「めっちゃくっちゃ可愛かったよね! 友達? 紹介してよ!」
「あー……」

 そういうことか。

「それは残念。あの子、こいつの彼女」

 オレが諒を指さすと、「げげげげげっ」と一回怯んだものの、そいつはますます前のめりになり、

「それでもいいから紹介して! 可愛い子の友達は可愛いに違いないっ。友達紹介してほしー」
「ライト」

 コン、と桜井先生の彼女がそいつの頭を小突いた。

「彼氏に向かって何言ってるのよ。……ごめんなさいね」
「あ……いえいえ」

 こちらに微笑んでくれた桜井先生の彼女に慌てて手を振る。完璧な美人のわりに話しやすい感じなのは学校の先生だからだろうか。

 そこにタイミング良くだか悪くだか、侑奈がやってきた。途端にライトと呼ばれたその男子が「おおお!」と叫んだ。

「わー!近くで見るとますます可愛いー!!」
「ライト」

 再び桜井先生の彼女に小突かれた。侑奈がキョトンとしている。

「誰?」
「ヤマダライトでーす」

 ニコニコのライト。名字、山田っていうんだ……意外。

「キミ達、高1?高2?」
「高2……」
「おお!同じ歳ー!でもオレ高校行ってないけど! ここでバイトしてるから来ってね~」

 さっさっさっと手慣れた様子で配ってくれたのは、渋谷にあるカラオケボックスの割引券。

「特に可愛い子大歓迎!お友達と一緒に是非是非」
「…………」

 侑奈が困った顔をしていると、桜井先生の彼女が再々度ライトを小突いた。

「ほら、困ってるじゃないのよ。ホントごめんなさい」
「いえ……」
「もう始まるから前向いて」

 彼女がライトを前に向かせたのと同時に、次の演劇部がはじまるとのアナウンスが入った。友達が出演するので観たい、と侑奈がいう。

「じゃ、オレは……」
「泉も観よう?」
「………」

 二人の邪魔をするのも……と思って立ちかけたのに、諒に腕を掴まれ座らさせられた。侑奈は諒の反対側の隣にちょこんと座っている。並んで座った二人は本当にお似合いで……

(だから、オレはお邪魔虫なんだって……)

 体育館の中が暗くなり、ステージにスポットライトが当たった。オレの目線上に、桜井先生と渋谷さんの後ろ姿がある。

(渋谷さん……あれだけカッコいいんだから、彼女とかいるんだろうな……)

「泉? どうした?」
「………」

 諒に耳元でささやかれ、軽く首を振る。

(オレが今から渋谷さんみたいにかっこよくなるのは無理だけど……せめて彼女ができて、4人で遊ぶようになれば、お邪魔虫じゃなくなるかな……)

 そうしたら、オレ、これからも一緒にいてもいいかな……。



 侑奈が家出をした、と侑奈の父親から連絡があったのは、この日の夜のことだった。




-----


お読みくださりありがとうございました!

ちなみに、侑奈は別に愚痴ってません。
「今までみたいに三人で遊んでる」と言ったのを、小野寺さんが拡大解釈(?)しただけです^^;

次は、浩介視点です……が、書き終わっていません……。今回でとうとうストック切れてしまいました。早くて明後日……どうぞよろしくお願いいたします。

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