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(BL小説)風のゆくえには~嘘の嘘の、嘘 3-1(侑奈視点)

2016年11月07日 07時21分00秒 | BL小説・風のゆくえには~ 嘘の嘘の、嘘

✳未成年の飲酒は法律で禁止されています。作中に未成年の飲酒シーンがありますが、決して真似なさいませんようお願いいたします✳





 アメリカから日本に戻ってきたのは、小学校5年生の時。
 団地には、小学生が一人もいなかったため、一番近い戸建てに住んでいる男の子2人と一緒に登下校するように言われた。

 一人は、綺麗な顔立ちの子で、一人は、サルみたいな子。
 綺麗な子の方は、サルの後ろに隠れてひっそりと立っている感じの子。
 サルの方は……ガキ。わあわあうるさい。うるさいけれど……

「お前らユーナが可愛いからそうやってからかうんだろー!男なら男らしく好きって言え!」

 外国人風の容姿のことでからかわれていた私のことを、真っ先に庇ってくれた。あんな奴らを黙らせるなんて別に自分でもできたけど………でも、ちょっと嬉しかったことは、今でも覚えている。


 綺麗な子は、両親共働きで家にはお手伝いさんがいるだけだから帰りたくない、と言い、サルは、うちが大家族で居場所がないから帰りたくない、と言い、自然と学校帰りに私のうちに遊びに来ることが増えた。

 三人の空間はとても居心地が良かった。それぞれ、勝手に宿題をしたり、ゲームをしたり、お菓子を食べたり、時々お喋りをしたり……。
 母が亡くなったばかりな上に、父は忙しくて家に全然いなかったため、私にとって、二人は寂しさを癒してくれるこの上もない存在となった。家族のような兄妹のような温かい関係。ずっと三人でいられればいい。そう、思っていた。


 でも、そんな温かい関係でいられたのは、ほんの一時のことだった。
  
 小6になってから、声変わりもはじまり、一人ぐんぐんと背が高くなっていった諒……。その大人っぽい外見に加え、色気みたいなものも備わって、もう、クラスの男子なんか子供にしか見えない大人の男に成長してしまった。

 元々、諒はおとなしくて、サルの後ろにひっそり立っているような子だった。でも、とても優しくて、口調も柔らかい。そこが余計に大人っぽく思えた。少し寂し気な笑みを浮かべるところも魅力的だった。

 あの長身の綺麗な顔に見つめられ、ニコッとされた日には、どんな堅物の女の子だって落ちるに決まっている。5年生までは全然目立たなかったのに、6年生の秋には諒のことを好きな女子は掃いて捨てるほどいた。

(……なんで好きになっちゃったんだろ)

 そういう私も、そんなアホな女子の一人だ。ずっとただの友達としか思っていなかったのに、中学の入学式での諒の制服姿に目を奪われ……

「相澤、よく似合ってる。可愛いね」

と、制服姿を褒められ、頭をポンポンとされ、ニコッと笑われ……、それだけで、今までの諒と同じとは思えなくなってしまった。


 でも、変わったのは私だけではない。諒も変わってしまった。

 中一の夏に、女バスの先輩と付き合いはじめた……という噂が出たのを皮切りに、次々と彼女を変えていった諒。本人に言わせると、付き合っているつもりはない、という子も何人もいたけれども、キスした、だの、最後までした、だの噂は噂をよび……、でも当の本人はどこ吹く風。それがまたクールでいい、と余計にモテたりしていて……

 一方のサルは、まったく変わらなかった。ほんの一時期、諒とサルはギクシャクした時期があったけれど、すぐに仲直りしたようだった。男の子同士って羨ましい。

 諒とサルはバスケ部、私は吹奏楽部、それぞれ放課後は部活で忙しくなり、前みたいにうちで集まることもほとんどなくなってしまった。それでも、時々一緒に登下校することもあったし、テスト期間はうちで一緒に勉強することもあったから、周りからは〈仲良し三人組〉と認知されて、うらやましがられていた。

(仲良し三人組……)

 そう言われる度、内心複雑だった。諒にとって私は仲良しの友達にしか過ぎず、彼女に昇格できる見込みはない、という現実を突き付けられるからだ。

 それでも、〈仲良し三人組〉をやめることが出来なかったのは、諒のそばにいたいという気持ちが強かったからだと思う。 

 それに、諒がどの彼女に対しても本気でないことは分かっていたので、本気にされない彼女になるよりは、特別な友達の方がずっといい、という気持ちもあった。

 だから、諒と関係のあった子やファンの子から嫌がらせをされても、耐えることができた。元々気は強い方なので、負けるつもりもなかったけれど。


***


 諒への気持ちを隠したまま、中学を卒業し……私達は高校生になった。3人同じ高校だ。
 私が推薦で先に合格していた高校に、二人が後から一般受験で合格したのだ。

「一緒の高校に行こうよ」

と、サルを誘ったら、昔から私の頼みを断れないサルが志望校を変えてくれた。 

「じゃ、オレも同じ高校行く」

 案の定、諒も志望校を変えた。
 大人っぽくてクールな諒だけれども、サルへの依存度がいまだに高いことを私だけは知っている。作戦勝ちだ。


 でも、高校生になっても、諒は相変わらずだった。女の子に優しく声をかけてその気にさせて、何度か関係を持つと、また違う女に……ということを繰り返していた。

「ありゃ病気だな」

 サルは呆れたように言っていたけれど、私はわりと本気で諒が心配になっていた。

 中学の時よりも、さらに節操がない。
 まるで何かから逃れるために女に走っているような……



「セックスてそんなに気持ちいい?」

 高一の10月の終わり頃、諒と二人きりになれた時に直球で聞いてみた。

 すると諒は、うーんと唸り………、ポツリと言った。

「精神安定剤……かな」
「…………」

 精神安定剤……?
 意味がわからない……

「…………私もしてみたい」

 思わず言ってしまうと、

「何いってんの」
「……っ」

 ポンポンと頭を撫でられ、泣きたくなってきた。諒がふんわりと笑って言った。

「相澤には必要ないでしょ」
「……必要だよ」
「相澤?」
「だって……っ」

 その手を掴み、必死に見上げる。
 そして、言ってはいけない言葉を口にしてしまった。

「諒と、したい」
「………………」

 諒の目が見開かれ……すうっと口元から笑みが剥がれた。
 冷たい……冷たい目が見下ろしてくる……
 ちょっと……怖い……

「諒……?」
「相澤とはしない」
「…………」

 なんで?
 
 聞いた私に諒は言った。

 泉が相澤を好きだから。相澤に手を出したら泉が悲しむから。だからオレは絶対に相澤とはしない、と……。


***


 それから2ヶ月……
 ただひたすら辛かった。せっかく今まで必死に守ってきた諒との関係を、一時の衝動でぶち壊してしまった。諒のあの冷たい目……。もう、取り返しがつかない。

 顔が見たくなくて、諒のことはもちろん、サルのこともずっと避けていた。
 サルが私を好きだから「しない」……。サルとの友情を優先したいということだ。私はサルに負けたということだ。

 サルの気持ちは知っていたし、正直それを利用していたところもあったけれど……。でもこうなってしまうと、サルに対して怒りが湧いてくる。ただの八つ当たりだ。でも、そうでもしないと理性が保てなかった。


 そして訪れたクリスマス。

 クリスマスパーティーと称して、クラスの派手なメンバーと一緒にカラオケボックスで騒いでハイになって、その帰りに大学生にナンパされて付いていって、そして、お酒を飲まされたことまでは覚えている。

 自暴自棄になっていた。もうどうでもよかった。セックスが精神安定剤になるというのなら、誰とでもいいからしてみたい、とまで思っていた。

 だから、知らない男に抱えられるようにして、ラブホテルの入り口に立っている自分に気がついたときには、ようやく楽になれる……と思った。

 思った、のに………

「ユーナ!」
「!」

 サルの声……
 振り返ると、サルが真っ赤な顔をして立っていて……

「相澤」
「…………諒」

 諒が悲しいような、辛いような顔をして立っていて……


「なんでここに……」
「お前のクラスの奴から連絡もらった。お前何やってんだよ」

 サルが「帰るぞ」と言いながら、無理矢理、男から私を引き離した。

「ちょっと、君ら何……」
 言いかけた男の前に、ずいっと諒が立ちふさがる。

「すみません、彼女そういう子じゃないので」
「…………」

 長身の諒に見下ろされ、男は怯んだように後ずさると……

「だったらついてくんなよバーカッ」

 吐き捨てるように言って、立ち去っていった。


「…………」
「ユーナッ」

 途端に足の力が抜けて、倒れそうになったところを、サルが抱えてくれる。

「大丈夫か?」
「泉……」

 サルの……泉の優しい声にコックリと肯く。
 ああ……知ってる。泉はいつでも私をこうして守ってくれる。サルのくせに。

「無事で良かった」
「…………」

 安心したように息をついた諒。
 その声も、全部全部、大好き。やっぱり大好き……


 ラブホ街から出て、駅前の広場にきたところで、泉が私のことを覗きこんだ。

「お前、何があったんだ? 最近ずっとオレらのこと避けてるから心配してたんだぞ?」
「…………」

 諒、泉に何も話していないんだ……
 泉のまっすぐな瞳……嘘をついてはいけない気がする……

「……泉」
「ん?」

 心を決めて、泉に告げる。泉にとっては聞きたくない話かもしれないけれど、でも、言わなくてはならない。

「私ね……」
「おお」

「……諒のことが好きなの」
「………」

 泉がキョトンとした顔をした。その後ろで諒は下唇を噛んでうつむいている……

「でも、フラれちゃって……それでちょっとヤケになってたっていうか……」
「そう……なのか?」

 泉に振り返られてもなお、諒はうつむいたままだ。

「でも、もう、元に戻りたい」

 諒にも聞こえるように大きな声で言う。

「仲良し三人組に戻りたい」
「ユーナ……」
「……………」

 しばらくの沈黙の後……

「戻るもなにも、オレ達ずっと仲良し三人組だろ? な?」

 泉が明るく言ってくれて……

「そうだね」

 諒も静かに肯いてくれた。

 


-----


お読みくださりありがとうございました!
あいかわらずの真面目な話でm(_ _)m

最後の方で「諒のことが好きなの」とユーナに言われた泉がキョトンとするのは、泉は中学生の時からとっくに気が付いていたからなのでした。なので、何を今さら?っていうか、バレてるって知らなかったんだ? の「キョトン」でございました。泉君、サルサル言われてますが、ちゃんと色々考えてます。

上記の最後は高校1年のクリスマスのお話。
明後日は、初回の関係(高校2年。諒と侑奈がしている音を、泉が盗み聞きながら外を見張る、という異常な関係)になったキッカケのお話になります。


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コメント (2)
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