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(BL小説)風のゆくえには~嘘の嘘の、嘘 8-1(浩介視点)

2016年11月24日 07時21分00秒 | BL小説・風のゆくえには~ 嘘の嘘の、嘘


 文化祭一日目が無事に終了した。

 今回は嬉しいことに、慶が遊びに来てくれて、少しだけ一緒に回ることができた。高校生に戻ったみたいにはしゃいでしまったおれ。バスケ部の生徒にもからかわれたくらいだ。
 慶が仕事の時間になり帰った後も、思いだしては頬が緩んでしまい、隠すのが大変だった。慶がいてくれると、景色が変わる。すべてが輝く。昔からそうだ。慶との記憶は全部キラキラしてる。

 浮かれたまま帰宅し、早々にご飯も食べて、久しぶりに高校の卒業アルバムを本棚から引っ張りだした。

「あー……慶、めちゃめちゃかわいいしかっこいい……」

 一緒に写っている修学旅行のページを見ながら、一人なので遠慮なく全開でニヤニヤしていたところ、

「………ライト?」
 
 メールの着信があった。ライトからだ。ライトはおれが大学時代に所属していた日本語ボランティア教室で知り合った17才の男の子だ。今日の文化祭にもあかねと一緒に来てくれていた。

 メールを開き……

『浩介先生の学校の超かわいいハーフの子がオレに会いにきてくれたー!お持ち帰りしてもいい?』

「は!?」
 思わず叫んで、画面を二度見してしまった。

「超かわいいハーフの子って、相澤さん……?」

 そういえば今日、二人が一緒にいるところを見かけた……。しかし、ライトは今日は渋谷のカラオケボックスで夜9時半までアルバイトのはずだ。今、9時40分。と、いうことは、相澤侑奈がこの時間に渋谷でフラフラしているということになる。

(このままだと校則違反になる)

 この学校では、保護者同伴以外の夜10時以降の外出を禁止している。相澤侑奈の担任の学年主任の吉田先生は厳しい人だ。容赦なく停学処分を下すだろう。そうなると明日の文化祭2日目に参加できなくなってしまう。

(吹奏楽部、明日もステージあったよな……)
 相澤侑奈はソロをやっていた。抜けられたら困るだろう。それに何より、このために頑張ってきたであろう相澤侑奈の努力が無駄になってしまう。

『家出してきたんだってー帰りたくないんだってー』

 なんだそれは……
 メールの続きを読み、頭を抱えてしまう。
 
 吉田先生は、神経質そうな眼鏡の50過ぎのベテラン教師で……少し父に似ているので余計に苦手なのだ。

 本当はすぐに報告すべきなんだろうけれども………

「………あーーー……」

 ごんっとテーブルにオデコを落とす。

「………上野先生」

 そのゴンッという衝撃で、ふいに思い出した高校時代の恩師。自習時間にトランプで遊んでいて、ゲンコツをくらったことがあるのだ。あの頃のおれは、慶のおかげで初めてクラスに馴染むことができて……。

 おれを暗闇から救ってくれた慶。その慶と同じクラスになるよう裏で手を回してくれ、陰から見守ってくれていたのが、バスケ部の顧問だった体育教師の上野先生だった。

(先生だったらどうするかな……)

 おれが尊敬する先生は二人いる。一人は上野先生。そしてもう一人は小2の3学期だけ担任だった佐藤先生。二人に共通していることは「生徒に寄り添ってくれる先生」ということだ。おれもそんな先生になりたくて、教師を目指したはずだった。

 ところが、今のおれはどうだろう。生徒の名前と顔を成績という数字と結びつけて覚えるような教師で……。教師になりたての頃は、もっと情熱を持って生徒と向き合っていたはずなのに……。

「…………。家出かあ……」
 家出をしたいなんて、おれも何度思ったかわからない。それを実行する勇気も覚悟もなかったけれど。

「相澤侑奈………」
 英語でこちらに突っかかってくるくらい強気なくせに、ふっと寂しそうな表情をする女の子だ。どうして家出なんてしたんだろう。……おれはどうしたらいいんだろう。

(慶だったら、どうするかな……)

 そんなことを思ったら、ふっと、高校時代に慶に言われた言葉が頭の中に蘇ってきた。

『お前がどうしたいかにかかってるんじゃねえの?』

 おれがどうしたいか………

 相澤侑奈が家出をした理由は分からないけれど、家出をしたいという気持ちは分かる……

 卒業アルバムに写っている愛しい慶を指で撫でる。

 おれは高校時代、生徒に寄り添える先生になりたいと思っていて……
 慶は、患者と患者の保護者と一緒に戦うような小児科医になりたい、といって、今も休みなく頑張っていて……

『お前がどうしたいかにかかってるんじゃねえの?』

 本来は学年主任に報告すべき案件だ。そして校則違反として罰するべきだ。

 でも……でも。

 きっと、慶だったら……上野先生だったら……佐藤先生だったら……

(いや、違う)

 おれが。おれが、どうしたいか。

『お前がどうしたいか………』

 おれがどうしたいか。
 おれは……おれは、相澤侑奈に手を差し伸べたい。

 卒業アルバムをパタンと閉め、立ち上がる。

「……慶」

 あの頃なりたかった自分に、おれも少しでも近づきたい。



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お読みくださりありがとうございました!

この続きも書きかけていたのですが、
昨日夕方に役員関係でトラブルが発覚し、徹夜で作業にあたり(眠い~~)…………でも結局終わらず、こちらの続きにも手をつけられず……
12月4日の月曜日から再開……できなくとも、この日に何らかのお知らせをさせていただこうと思います。


あ、引っ張る話でもないので、ネタバレを一つ書かせていただきます。
侑奈の家出の直接の原因は、お父さんの再婚です。
そして間接的原因として、前日の諒と泉の抱擁があったのでした。
そんな話を次回も浩介視点で。浩介先生頑張って^^って感じです。

クリックしてくださった方、読みにきてくださった方、本当にありがとうございます!!
次回12月4日(月)。よろしければどうぞお願いいたします!

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してくださった方、ありがとうございました!

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コメント (10)
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