✳未成年の飲酒は法律で禁止されています。作中に未成年の飲酒シーンがありますが、決して真似なさいませんようお願いいたします✳
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お正月。
父は仕事に行ってしまった。新聞記者には昼も夜も盆暮れ正月もない、というのが父の言葉だ。
でも、寂しくなかった。今年もいつものように、2人が来てくれたから……
こたつでお節を食べて、お正月番組をダラダラと見て……、幸せで穏やかな時間。まるで小学生に戻ったみたい。
家にあった日本酒をみんなでチビチビと飲んでいたら、泉が早々に真っ赤になり、そのうちテーブルに突っ伏して眠ってしまった。お酒弱いな……
「……寝ちゃったね」
「これだけしか飲んでないのに……」
「………」
「………」
元に戻る宣言をしたとはいえ、やっぱり、諒と二人きりは気まずい……
「わ、私もちょっと寝てくる~~」
明るくいって、襖の向こうの自分の部屋に逃げ込む。
(やっぱり気マズイ……)
二人きりになると、余計に、どうしても、諒を好きだという気持ちが隠せなくなってしまう。
諒の女遊びはまだまだ続いていた。
諒……どんな風に女の人を抱くんだろう。かりそめの愛を囁いたりするんだろうか。
あーあ……と思いながらベッドに横になったら、本当に寝てしまい、気がついたら30分近くたっていた。
(……泉、起きたかな……)
隣室からはテレビの音しか聞こえてこない。まだ寝てるんだろうな……
そう思って、こっそりと襖を開けて………
「…………………え」
その光景に、我が目を疑った。
諒が、眠っている泉の髪をすいている……愛しそうに大事そうに……こんな表情の諒、初めて見た……
「………あ」
ハッとしたようにこちらを振り返った諒。
でも、その顔はいつものクールな諒だった。今のは見間違い……?
「……少しは眠れた?」
「うん……」
うなずいて、諒の正面に座る。諒は何事もなかったかのように、日本酒のつがれたお猪口を舐めている。色っぽい……
見ているとドキドキしてしまうので、誤魔化すために泉に視線を落とす。
「泉、まだ寝てるんだね」
「昨日深夜に家族で初詣にいって、帰ってきたの明け方だったからね」
「え、そうなの?」
そんなこと泉、何も言ってなかったのに……
諒は「ああ」とうなずくと、
「家、隣だからさ。出かけていくときの声とか聞こえたから知ってるだけ」
「あ……そっか」
それなのに、朝からうちに来てくれたんだ……
「言ってくれれば、午前中からなんて誘わなかったのに……」
「オレ達に気を遣って言えなかったんじゃない? 家族で何かするって、相澤もオレもほとんどないからね」
「…………」
確かに……。諒に魅かれるのはそういう共通点のせいもあるかもしれない、と今さら気が付く。
「泉は優しいからね」
ふっと笑った諒。お酒が入っているせいか、少し外の壁が崩れている感じがする。
今だったら、なんでも話せそう。今だったら……。そう思って、言ってみた。
「諒って、ホント泉のこと好きだよね」
なんの他意もなく言ったのに………
「……………え?」
ギクッとしたように手を止めた諒。
………何?
諒が……いつも冷静なあの諒が、明らかに動揺している。
「え……」
それは……何?
その動揺は……何?
「諒……」
ふっと頭をよぎる、さっきの光景。愛しそうに泉の髪をすいていた諒……
「諒、まさか……」
「…………」
すいっとこちらを向いた諒の目……私が「諒としたい」と言った時と同じ冷たい、目。
「諒……」
「…………」
「…………」
ああ……そっかあ……
当然、のように体の中に染み込んでくる真実。
(諒、泉のことが好きなんだ)
そう思ったら、何もかもに合点がいった。
いつも泉の後ろにひっそりと立っている諒。
女を抱くことが「精神安定剤」といった諒。
出口のない想いを抑え込むために「精神安定剤」が必要だったんだ……
そして、同時にもう一つ、気が付いてしまった。
諒が私を冷たく拒否するのは、本心の裏返しだ。
本当は、私を欲しいと思っている。
だって………泉が好きなのは私だから。
諒は昔からそう。
泉の好きなものは何でも欲しがった。共有したがった。お菓子でもゲームでも何でもだ。泉が好きなものを自分も好きであろうとした。
それは単なる依存の友情の現れかと思っていたのだけれども、友情を超えた想いだと解釈した方がよっぽど納得がいく。
だから、諒は本当は私のことも欲しいはず。
でも、理性でそれを押しとどめようとしている。だから冷たくあしらおうとするのだ……
「……諒」
手を伸ばし、お猪口を持っている手にそっと触れると、諒はビクッと震えた。
「……やめろ」
「諒……」
私たち……利害は一致してるよ?
私は諒が好き。だから抱かれたい。
諒は泉のことが好き。だから泉が欲しがっている私が欲しい。
だから……だから。
「諒……」
「…………」
そっとその手を包み込み……
「だからやめろって!」
「!」
怒鳴られ、勢いよく手を弾かれた。
「せっかく元の三人に戻れたのに、今さらかき乱すなよ!」
今まで聞いたことのない諒の怒鳴り声。荒れた口調……諒の本当の顔、だ。
「わかってんだろ? 泉はお前のことが好きなんだよ!」
「………」
「そんなお前にオレが手出すわけにいかないだろ!」
「諒……」
あの諒が、震えている……
「オレは泉が大切なんだよ。泉を守るためなら何だってする。泉のためならどんな我慢でも……っ」
諒の悲痛な叫びにかぶさるように……
「なにそれ?」
「?!」
鋭い声が私たちの間に投げ込まれた。いつの間に、泉が起きていた。
「泉っいつから起きて……っ」
「ああ? たった今だよ。耳元で大声出されれば誰だって起きるだろ」
あああ、と呑気に欠伸をしてから、泉は諒を振り返った。
「お前、今、変なこと言ったな?」
「………え?」
変なこと? 諒も私も固まってしまう……。が、泉はとんでもないことを言い出した。
「お前もユーナのこと好きなのに、オレに遠慮して我慢してるって?」
「え?」
「は?」
え?
そういう解釈?
素早く先ほどまでの諒とのやり取りを思い出す。
確かに、後半だけ聞いていたら、そう解釈できないでもない、というか、そういう解釈になるかもしれない……
「オレのせいで両想いのお前らがくっつかないのはごめんだぞ」
「え、泉、その……」
「泉……」
困ってしまった私と諒を置いて、泉はうんうんうなずくと、
「お前らオレに遠慮せず付き合えよ」
「………」
「ただし、条件がある」
「条件?」
なんだ?と思ったら、いきなり泉は諒の両頬を囲って、こつんと額を合わせた。
(……わ)
あのクールな諒が、ぱあっと赤面した。
(諒……本当に泉のこと好きなんだ……)
思い出してみると、諒は泉の前ではクールさを保てないことが多かった。それは恋愛感情ゆえのことだったんだ……
「条件……って?」
「ユーナと付き合うからには、もう他の女には手を出すな」
「………」
「他の女とやったりしたら、ぶっ飛ばす」
「………」
泉……
「そしたらさ……」
諒が乾いた声でいった。
「オレが相澤とやっても……いいの?」
「………」
ドキッとする。
泉は一瞬黙ってから、
「当たり前だろ。何なら今からでもいいぞ」
「痛っ」
ゴンッとオデコをぶつけられ、諒が悲鳴をあげる。
って、今、泉、とんでもないこと言った……
「泉、今からって……」
「善は急げっていうだろ」
善? いや、善ではないような……
「でも、お父さん帰ってきちゃうかもしれないし」
「オジサン、バイクで出かけたんだろ? オレ、ここから帰ってこないか見張っててやるよ」
「え」
さすがの諒もギョッとしたように聞き返した。
「泉、本気でいってんの……?」
「おお。本気だぞ。今までオレに気を遣ってくっつけなかったことへのせめてもの詫びだ」
「そんなの……」
泉はカバンからゴソゴソとCDウォークマンを取りだして、耳にイヤホンを付け始めると、
「オレこれ聞いてるから。だから何も聞こえないから安心してやってくれ」
「泉……」
「あ、でも」
安心、で、思いだした!と泉が慌てたようにいった。
「諒、お前、あれ持ってる?あれ……持ってないよなあ……買いに……」
「ああ、持ってる」
「………」
諒があっさりとカバンから、小さな袋を取りだした。
「…………」
「…………」
コンドーム、常備してるんだ……さすが……
思わず感心してしまったところ、
「わー!もうお前嫌い!さっさと行け!」
泉はわーわー叫んで、ゲシッと諒に蹴りを入れて、ぐいぐいぐいっと襖の向こうの私の部屋に押し入れた。
そして、私を振り返ると、にっと笑った。
「ユーナ」
「うん……」
「良かったな。ユーナ」
「………」
そのまま背を押されて、私も部屋に押し入れられ、バンッと勢いよく襖を閉められた。
泉……
泉の消えた襖をジッと見つめていたら……
「相澤」
「……っ」
後ろからフワリと包まれた。夢にまでみた、諒の腕の中……
「後悔、しない?」
「………」
耳元で囁かれた言葉に、コクリと肯く。
後悔なんか、するわけがない。諒の気持ちが他を向いていたって、この時間だけは私のものになるはずだから……
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お読みくださりありがとうございました!
前回から合わせて侑奈の小5から約6年間のお話でした。
諒は諒で色々考えてることがあって……それはまた次の次に。
今の若い子はCDウォークマン知らんですかね?
CD用のポータブルオーディオプレーヤーです。はい。
次回は浩介サイドのお話です。暗いです。
明後日更新予定です。よろしくお願いいたします。
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