今日は私の誕生日である。
新聞の読者のコーナーに川柳を投句したが、まったく一顧だにされなかった作句がある。
その作品がこの一句である。
「また来たか来なくていいぞ誕生日」
なるほど、さもありなん。これじゃ無理だわね。
「誕生日をどうして欲しい?」と配偶者が訊くので「何もせずに放ったらかしておいて欲しい」と答えると「ふ~ん」とやや不満気なリアクションだった。
夕方には帰ってくる、それから鍋にしょう。と、言って出かけてしまったので、本を読むことにした。
「七つの顔の漱石」出久根達郎(著)2013.5.20晶文社(刊)
先日の演劇「庭に一本なつめの金ちゃん」の開演前に脚本を書いている作者の出久根達郎氏が登場しての対談があったのだが、その際に紹介された新刊3冊の内の1冊である。
漱石については、いろいろ沢山な人が紹介しているので凡そは分かっているが、今回初めて知ったのは漱石が結構なスポーツマンで、器械体操は名手でテニスとかボートに卓球・乗馬・弓・水泳と何でもこなしており、そのレベルも相当なものだったらしいということだ。
もう少しこのスポーツを継続して、健康管理に役立てていれば血を吐いて苦しむようなことにはならなかったのではとも思うが、漱石の気質ではなるべくしてなったとしか思えない。
今ひとつは鏡子夫人の書簡が紹介されているが、字や文体がとても漱石に似ているということらしい。奥さんの書簡を通じて漱石の様子が窺いしれるとも作者は述べている。
漱石が熊本の五高に教授として赴任後当地で結婚しているし、市内をあちこち転居しているが現在保存されている。
2つの旧居については、配偶者と共に訪れたことがあるので、何となく親しみがもてる。
鏡子夫人は悪妻だったと思われている節もあるが、東京の都会から言葉も不便な田舎の熊本での新婚のスタートは不安と不満があるのは当たり前で、慣れない土地でよく頑張っていたのではあるまいかと思う。
二男七女というから、夫婦仲が思わしくなくて出来る子供の数ではない。
そう言えば、我が夫婦も初めての子供は北海道に赴任して最初の冬に誕生したので、初産と初めての土地と初めて迎える北海道の寒さに不安がいっぱいだったのを思い出した。
その時の息子も大きくなって、何年か前には自分の産まれた土地を見てみたいと北海道に飛んでいったことがある。
我が家は一男一女、漱石夫妻には及びもつかないがそれなりに生き延びている。
などと書き連ねていたら、配偶者が帰ってきたようだ。
今日の鍋の具には、少こ~し気合いが入っている予感がする。
折角だから、いつもより少し多めのお酒を頂きながら「来なくても良い誕生日」を祝うとしようか。