再び美由の部屋に戻り、腕立て伏せをこなそうとする。昨日までは平気で50,60回は当たり前だったのに、床に顎をつけてから腕を伸ばせない。今度は腹筋に挑戦するが、これも駄目だった。やはり、風呂場で感じた通りの、情けなく頼りない体だった。
男に戻りたい。急に込み上げてくるものを口を結んでこらえる。母や姉は今頃どうしているのだろう?沈痛とか無念を通り越した彼女たちの表情が脳裏をよぎる。早くに父を亡くし、女手ひとつで育ててくれた母。厳しくてケンカもしたけど、本当は心が温かく、僕を可愛がってくれた姉。あの二人はこの先、どうなるのだろう。考えると頭がおかしくなりそうだ。切り替えなければ。新しい家族のことを考えよう。
確かに外観は整っている。優しそうな父がいて、教育熱心な母がいて、そして大学生の美由、一心不乱に受験勉強に励む弟。父親はどうやら銀行員らしく、家も大きくて洒落ている。たった一日生活しただけでも、裕福であることは十分に伝わってくる。しかしその中身は、どこかすかすかで薄っぺらい感じだ。
美由にも同じ印象を受けた。大学でも家庭でも、接する人によって態度を変えて、相手に合わせようとする。だから光の三原色のようになって、自分というものを失ってしまう。彼女だけが僕を受け入れてくれた理由が分かったような気がする。優しいからではない。周りに振り回されて、いつの間にか美由自身が消えてしまったのだ。そこに僕が入り込むスペースが生まれたのだろう。
男に戻りたい。急に込み上げてくるものを口を結んでこらえる。母や姉は今頃どうしているのだろう?沈痛とか無念を通り越した彼女たちの表情が脳裏をよぎる。早くに父を亡くし、女手ひとつで育ててくれた母。厳しくてケンカもしたけど、本当は心が温かく、僕を可愛がってくれた姉。あの二人はこの先、どうなるのだろう。考えると頭がおかしくなりそうだ。切り替えなければ。新しい家族のことを考えよう。
確かに外観は整っている。優しそうな父がいて、教育熱心な母がいて、そして大学生の美由、一心不乱に受験勉強に励む弟。父親はどうやら銀行員らしく、家も大きくて洒落ている。たった一日生活しただけでも、裕福であることは十分に伝わってくる。しかしその中身は、どこかすかすかで薄っぺらい感じだ。
美由にも同じ印象を受けた。大学でも家庭でも、接する人によって態度を変えて、相手に合わせようとする。だから光の三原色のようになって、自分というものを失ってしまう。彼女だけが僕を受け入れてくれた理由が分かったような気がする。優しいからではない。周りに振り回されて、いつの間にか美由自身が消えてしまったのだ。そこに僕が入り込むスペースが生まれたのだろう。