ざっくばらん(パニックびとのつぶやき)

詩・将棋・病気・芸能・スポーツ・社会・短編小説などいろいろ気まぐれに。2009年「僕とパニック障害の20年戦争出版」

肉体を盗んだ魂(13)

2016-09-02 22:40:06 | 小説
「好きなタイプは?」

「えっ?」

「美由の好きなタイプ、男の」

「え、ああ、そうだなあ」

僕も美由も困惑していた。

「ないの?タレントとかに例えてもいいよ」

「ええと、優しい人。それと知的で、ある程度男らしくて・・・」

僕は必死で思いつく限りの、ありきたりな言葉を並べた。すると麻理は嬉しそうに美由の肩を叩いてきた。

「あるじゃない。欲張りすぎるくらい。私、美由って男の人にあんまり興味がないのかと思ってた。だったら今度、合コンいこうよ。私たちって今、結構価値が高いんだよ」

「そうだね。今度参加してみようかな」

「約束だよ」

「うん、わかった。近いうちに」



その後も麻理は、僕のしぐさや言葉で、少しでも面白いものを拾い集めては、楽しそうに笑っている。その度に美由の体に触れてきたり、頭を肩に乗っけてきたりする。そして僕は顔を赤くしながら、鼓動を高鳴らせるのだ。



ふと気づくと、麻理の頭が美由の肩に倒れ掛かったままになっている。笑い疲れて寝てしまったのだろうか?授業中に眠るのなら、机の上に覆いかぶさるのが王道だろう。なのに麻理ときたら。僕をからかっているのか?ミディアムの茶髪から放たれる柔らかな香り、ゆらゆらと揺れながら伏せられている瞳が僕を苦しめる。苦しくて苦しくてどうしようもなくなり、僕は麻理を起こした。
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肉体を盗んだ魂(12)

2016-09-02 22:31:24 | 小説
外は緩やかな雨。大講義室の後方の席で、僕と麻理は二人きりになった。

「みんなどうしちゃったんだろうね、今日に限って。でもなんか嬉しい。美由と二人だけでゆっくり話がしてみたかったんだよね。意外とないでしょ。そういう機会が」

最初、不安げだった麻理の顔が次第にほころぶ。

「そう言われてみればそうだね。私も麻理と二人だけで話してみたかったよ」

声が自然と上ずる。

「なんか今日の美由、少し変だよ」

「そんなことないよ、全然」

黒目がちの瞳。透けるような白い肌。華奢な体。麻理の美しさが僕を不自然にする。

「美由は高校の時、クラブ活動、何やってたんだっけ?前にも聞いたと思うんだけど忘れちゃった」

僕は美由の過去は知らない。困っていると美由がフォローしてくれた。

「ええと、一応テニス部に入ったんだけど、すぐ辞めちゃった。後は塾通いばっかり」

「へえ、じゃあ勉強漬けの毎日だね」

「まあそうだけど、でも麻理だってそうでしょ?自分で言うのもなんだけど、ここの大学、結構、難関だし」

「けど私はそうでもなかったよ、いろんな意味で。部活はね、陸上やってた。今じゃなんであんなにも打ち込めたのか解らないけど、バカみたいに走ってばかりいた時期もあった」

麻理が遠い目をした。離れた壇上から熱弁をふるっている講師のずっとその先を見ていた。彼女の美しい横顔を眺めていたら、不意にこちらを向いた。


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肉体を盗んだ魂(11)

2016-09-02 21:59:31 | 小説
半年後、僕は美由の体でスーパーのレジと向き合っていた。嘘をつくぐらいなら本当にやってしまおうと思った。美由は嫌がっていたが。最初のうちはレジ前に行列を作ってしまったけれど、少しずつ仕事にも慣れてきた。



それは新たな大学生活でも同じだ。女子大生に囲まれる生活にも徐々に慣れていった。そんな中で好きな娘もできた。今野麻里。最初に話しかけてきた右隣の女の子だ。勿論、僕の中では友情ではなく、恋愛感情であることは間違いない。だから、どこへ行くにしても彼女と一緒なら、というスタンスを取っている。



麻里と過ごす時間は本当に楽しいけれど、同時にもどかしさもある。彼女は僕のことをよく褒めてくれる。「髪、ずいぶん切ったねえ。でも美由はショートの方がよく似合うよ。うん。ほんとよく似合う」とか「最近スカートはかないね。何か気持ちに変化あったの?私は今のボーイッシュな美由がお気に入り」とか、他愛のないこと。しかし、僕はその度に少し頬を赤らめているに違いない。そんな僕を美由は止めることもせず、冷めた眼差しで様子を伺っているだけだった。



麻里とデートしたい。付き合いたい。でもそれは叶わない。僕が女だから。何とか気持ちを抑えなければ。暴走すれば麻里にも、そして美由にも迷惑をかけてしまう。一緒にいるだけで幸せとしなければ。
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