ざっくばらん(パニックびとのつぶやき)

詩・将棋・病気・芸能・スポーツ・社会・短編小説などいろいろ気まぐれに。2009年「僕とパニック障害の20年戦争出版」

天童荒太「悼む人」

2019-07-13 19:23:07 | 
主人公の坂築静人は殺人、事故、自殺など、あらゆる死を遂げた人々を悼むための旅を続けている青年です。彼の人を悼むスタイルは独特です。死者たちが「誰を愛し、誰に愛され、何を感謝されたか」ということに絞り、近所の人たちに聞いて調べ、独特のポーズをとって自らの胸に刻みます。

彼がなぜ、このような行為をするに至ったかは、雑誌記者が静人の母である巡子に直接聞くのですが、結局、いくつかの思い当たるふしはあるにしても、決定的な理由は母にも、また静人本人にも、もっと言えば作者自身にも分かりかねるところなのかもしれません。先天的に死に対する感受性の強い静人が、いろいろな出来事を通して、ついにこのような行動をとるに至ると理解するほかありません。

例えば、このような行動を動画にでもアップすれば、その行為はたちまちネットの餌食になるでしょう。それを言葉の一つ一つの積み重ねで、理解できるような気がする、こういう人間がいてもいいのではないかという気持ちにさせるのは天童さんの力量であり、文学の力なのだと思います。

こないだNHKで秋葉原無差別殺傷事件の加藤智大死刑囚のドキュメント番組を見ましたが、例えば彼のような人間でも悼むのかという読者の問いに静人なりのルールを設置して悼むのです。そして加藤死刑囚であれ、誰を愛し、誰に愛され、何を感謝されたかを調べ独特のポーズで胸に刻みます。ここは意見が分かれるところでしょう。

もう一つの物語の軸は末期がんに侵された静人の母・巡子と妹・美汐の妊娠です。つまり消えゆく命と新たに生まれる命が重なり合います。特に前向きな性格の巡子が静人が帰ってくることを願いながら、徐々に自分でできることが限られてゆく過程が彼女の心情も交えて丁寧に描かれていました。

そして物語の最後にこの二つの物語が融合されます。小説のテーマはストレートに生と死。よって重い話ではあるのですが、その分、読者は深くそれについて考えさせられます。さすが第140回直木賞受賞作です。
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