白雲去来

蜷川正大の日々是口実

秋の思い。

2020-09-21 06:57:21 | 日記
9月10日(木)曇り。

野村先生の『銀河蒼茫』の「秋の句」の中に、「拝啓と書いてしばらく聴く時雨」と言うものがある。好きな句である。時雨とは、主に秋から冬にかけて起こる、一時的に降ったり止んだりする雨である。時雨が降る天候に変わることを「時雨れる」ともいう。先生は、この時、誰に手紙を書こうとしていたのだろうか。日々の生活の中に何の感動もなく、単に日にちを消化して行くだけの獄中生活の中で敏感に感じるのは季節の移ろいである。

娑婆では、なし崩しに季節が変わって行くが、獄中では、季節と季節の間に区切りがあって、そのドアを開けるといきなり秋色に包まれるのである。秋思と言う言葉がある。いい歳をした男が使うと、何か気恥ずかしいが、人生の中で、その思いを一番実感するのが獄中ではないかと思っている。ちなみに「秋思」とは、秋に感じるものさびしい思い。

 克明に夜の蟲鳴く 別離以後
 秋風の 夜汽車は壁を ひた走る
 あるときは無聊 野分を聴くばかり
先生の句である。

李白は、西域に従軍している夫を思う妻の気持ちを「秋思」と題してこう詠んだ。
 
燕支 黃葉落つ,妾は望んで 自ら臺に登る。
海上 碧雲斷え,單于 秋色來る。
胡兵 沙塞に合し,漢使 玉關より回る。
征客 歸える日無し,空しく 蕙草の摧くるを悲む。

秋に感じて、酔狂亭にて独酌。酒が避けられない。

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