1月27日(水)雨のち曇り。
まだ牡蛎とそれほどの深い付き合いのなかった30年ほど前の頃。すし屋で隣り合わせになったのが、歳の頃は30を少し出たくらいか、ゾクっとするような色気のある美人だった。どう見てもカタギではなく、同伴(多分)の男の人と一緒だった。その女性が生牡蛎を注文した。「紅葉おろしやさ三杯酢ではなくハーフにカットしたレモンを下さい」。出てきた牡蛎に、握ったレモンをギュッと絞って、三本の指で器用に牡蛎を持って、チュルっと吸って口に入れた。食感を楽しむかのように、目をつむった姿が色っぽくて、また垢ぬけていた。
彼女たちが帰った後、私も同じように牡蛎とレモンを頼んで、同じ仕草で食べてみた。大げさではなく、海に溺れて行くような感じがして、以来、牡蛎が好きになり、レモンで食べるようになった。板前に、「今度来たら、どこのお店か聞いておいてよ」と頼んで帰ったが、後日、その女性が、横浜のさる任侠の親分の彼女と知って、鼻の下を伸ばさなくて良かったと、思ったものだ。以来、殻付きの牡蛎を食べる時の女性の仕草が気になるようになった。
閑話休題。昨日、山平さんの『昭和を紡いだ東洋一のナイトクラブ、赤坂「ニューラテンクォーター物語」を読了した。昨年の11月に山平さんから署名入りでご恵送頂いたものだ。昔から、好きな本と料理と女性は慌てて食べないようにしている。本もイッキ読みしないで、楽しみながら少しずつ読む。「ニューラテン物語」は、消えかけている昭和のアルバムを見ているような気がした。モノクロームのものや、カラーで蘇るものもある。芸能史でもあり、経済史、あるいは任侠史、またあるいは昭和の風俗史でもある。描かれている人たちは一流の人たちばかり。読了した時には、何か、自身の昭和のアルバムを閉じた、という喪失感に包まれた。オンザ・ロックにとても合う本でもある。ロックグラスの中身は、さすがに焼酎ではなく、ウイスキーがいい。まっ銘柄は貴方任せだが。