白雲去来

蜷川正大の日々是口実

旅路・カサブランカ。

2023-02-21 16:59:05 | 日記

2月19日(日)晴れ。

良く、「野村先生と旅行で、一番良かった国は何処ですか」と聞かれることがある。訪れた街は多いが、国となると何カ国もない。当然ながらどの国も街も忘れ難いが、やはり先生が自決なされる二ヵ月前に旅したモロッコでの最後の街となったカサブランカか・・・。

マドリッドから、ロイヤル・エア・モロッコ航空に乗り、カサブランカのムハンマド五世国際空港に着いたのは、平成五(1993)年八月十日午後のことだった。マドリッドでの緑豊かな景色を見慣れた私には、着陸直前に機内から眺めた、赤茶けた大地の広がるモロッコという国が、あらためてアフリカの一部であることを実感した。11日間にわたる旅の終わりはカサブランカだった。

カサブランカ(白い家)と名付けたのは、ここに城塞を築いたポルトガル人だった。反対にモロッコ第三の都市であるマラケシュは赤一色に染まった建物の外壁から「赤い町」と呼ばれている。国連広場に面したホテル「ハイアット・リージェンシー」に我々が着いたのは午後二時。窓からモロッコ最大のハッサンⅡ世モスクが見える。

北アフリカの太陽が容赦なく照りつけ気温は四十度近くまで上がっている。その暑さにあおられてこの国特有の羊を焼く匂いが人々の体臭と入り混ざって旅の間中、私の体にまとわりついて離れなかった。映画「モロッコ」の中で、酒場の歌手役のディトリッヒが、宿の窓を開けると、「砂漠の匂いがするわ」というセリフを思い出し、旅装も解かぬままにホテルの窓を開けてみた。当然のように、砂漠の匂いなど感じられず、目の前のカスバ(旧市街)の塵埃と雑踏、そして道路には無秩序なままの車の洪水とクラクション、この全ての喧騒がいきなり熱波と共に部屋の中に入り込んで来た。  

彼方に視線を移すと大西洋が陽炎に揺れていた。街へ出てみた。港に続く道には観光客目当ての土産物屋が軒を並べている。三十分程歩くと港に突き当たった。このカサブランカ港はアフリカ最大の港で、大西洋航路の客船や貨物船が出入りし、大西洋で捕れた新鮮な魚貝類などを並べた市場などがあって活気に満ちている。潮騒に吹かれるまま港を歩けば、沖では小さな漁船がカモメと戯れるように波間に見え隠れしていた。(『師・野村秋介ー回想は逆光の中にあり』)より。※ホテルの部屋から見たカサブランカの街。左側にハッサンⅡ世モスク、右側に海が見える。

 


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