先週の木曜日に整形外科クリニックから四肢の疼痛・筋力低下の76歳男性が紹介された。筋原性酵素上昇と炎症反応上昇を認め、また画像上間質性陰影があり、多発性筋炎の疑い・間質性肺炎として希望する総合病院のリウマチ膠原病科に紹介した。
今日家族が報告に来て、翌日に受診してそのままその病名で入院したという。当院受診日に提出していた外注検査でも抗核抗体640倍、抗Jo-1抗体500U/ml以上だった。診断としては合っていた。
抗ARS抗体の方がというコメントをいただき、知らなかったのでちょっと検索してみた。ARS(aminoacyl tRNA synthetase)はアミノ酸とtRNAを結合させてアミノアシルtRNAを合成する酵素。20種類のアミノ酸に対応する20種類のARSがある。
抗ARS抗体はそれぞれのARSに対する抗体。多発性筋炎・皮膚筋炎ではこれまで8種類の抗ARS抗体(抗Jo-1抗体・抗PL-7・抗PL-12抗体・抗EJ抗体・抗KS抗体・抗OJ抗体・抗Zo抗体・抗体Ha抗体)がわかっている。検査キットの抗ARS抗体は、このうち5種類(1番目から5番目まで)の抗体に対応する。当然抗Jo-1抗体単独よりも、多発性筋炎・皮膚筋炎での感度が高い。どの抗体が陽性かによって、病状に違いがあるそうだ(まだ研究室レベル)。
抗ARS抗体検査は当院のオーダー画面の外注検査項目になかったので、さっそく入れてもらうことにした。これまで診た多発筋炎・皮膚筋炎は前にいた病院での2例のみだった。1例は30歳代女性で、「痛くて動けません」と言って診察室に倒れ込むように入ってきた。Snap diagnosisそのもので、ヘリオトロープ疹とゴットロン徴候が素人目にもわかった。院内で検査できる筋原性酵素と炎症反応の上昇を確認して、即リウマチ膠原病科に紹介した(患者さんとかかわった時間約1時間)。もうひとりは70際台男性で、ある病院のリウマチ膠原病科の先生とケンカして、こちらで処方してほしいと突然受診してきた。病状照会で、診療情報提供書をいただくとamyopathic DM・間質性肺炎と診断されていた。今の病院に移るまで外来でプレドニンを処方していた。年齢の割にこれしか経験がないのは、ちょっとさびしい。