今日は雨水・・・
立春を過ぎ徐々に陽気が増して、これまでの雪はとけて雨となる時節である。つまり、降り来るものが雪から雨に変わる微妙な頃合いを指している。
ところが、最近の季節の移ろいにそのような変化は見当たらない。第一、雪が降らない。冬を通じて降り来るものは雨であり、そこに変化はない。もちろん雪国は違うであろうが。
加えてこのところの異常高温は何か? この13日は全国的に6月ごろの暑さとなり、夏日(25度以上)のところも現れた。雪が雨に変わるどころの話ではない。
ただ、さすがに一昨日の夜から急に冷え込み、本来の季節に戻ってきた。日本海側は雪の予報であるので、季節は最後の雪を降り積もらせ、それは次第に雨に変わり、雨水を実感させてくれるのかもしれない。
ある飲み屋の店主と、「雨水の酒は何か・・・?」を語り合った。
店主は即座に「うすにごり酒」を主張した。私が立春の酒を「甘く冷たき“にごり酒”」と書いたことを知っている店主は、「雪がとけて雨となるごとく、濁りはうすくとけていく」として、長野県佐久は伴野酒造の「棚田うすにごり」を注いでくれた。店主の説明どおり「棚田に舞う雪のようなうすにごり」で、これは美味しい酒であった。
最近は「にごり酒」も種類がひろがり、いわゆる「濁り酒」から「にごり酒」、「うすにごり」、「かすみがけ」などと様々な酒が出てきた。今の節気にふさわしい変化を感じる。
この時節、私はふるさと臼杵にいた。そこは、雨水をはるかに超える時節にあった。 春の陽気は高まり、今が旬と誇る“ふきのとう”は弾けるように開いていた。その新鮮な苦味を含んだ天麩羅とともに飲んだ酒は、大分の誇る「西の関“立春初しぼり特別純米生原酒"」であった。それはもはや「にごり」を超えた「清酒」であったが、やはり「立春の酒」であり、「初しぼり」、「生原酒」という早春の酒であった。
「西の関」を造る萱島酒造は、今でこそ市井で飲まれているがかつては門外不出とされていた吟醸酒を、他に先がけけて世に出すなど(昭和30年代のこと)現在の日本酒文化を築いた先駆的な蔵の一つである。
それだけに、しっかりした酒を造る。雪解けを待って他に先駆けて芽をもたげる“ふきのとう”の強烈な個性――新鮮な苦味と香りを、がっちりと受け止める力を持った酒である。
ふるさとに帰り、ふるさとの誇る酒で、ふるさとの味を味わった。それは、既に春たけなわの陽気ではあったが、雪が消えて春に向かう「雨水の酒」にふさわしかった。