旅のプラズマ

これまで歩いてきた各地の、思い出深き街、懐かしき人々、心に残る言葉を書き綴る。その地の酒と食と人情に触れながら…。

二十四節気の酒――立春

2009-02-04 09:35:54 | 

  今日は立春、まさに春立つ日である。今日から立夏(55日)までが暦の上では春である。四立(立春、立夏、立秋、立冬)の前日を節分とし、その日をもって季節を分けた。現在では、立春の前日の節分だけが残っており、行事として豆まきを行う。
 春といわれてもまだ寒い。2月の前半は一年で一番寒い時期と思っている。しかし、陽射しの明るさが明らかに違ってきていることも確かだ。寒さとは別に、季節が動き始めていることを実感する。

  この季節に必ず思い出す句がある。「妻も飲むあまくつめたき春の酒」という日野草城の句である。だから昨年のブログにも同じ事を書いている(08.3.7付「春の酒」)。読み返すと、「甘くという言葉に春を思い、冷たきに未だ残る冬の寒さを感じる」とある。日野がこの句を、いつ、どんな思いで詠んだかは知らないが、私にとっては、冬を引きずり寒さの残る早春の句である。
 ところで、日野草城の「妻も飲んだ」酒はどんな酒であったのだろうか? 当初、ひな祭りにささげる白酒を想像したが、それではちょっとさびしい。私はこの酒を「にごり酒」と断じている。薄くにごり、米の甘さが口中に広がるにごり酒を、日頃はあまり飲まない奥さんも、春の近きに引き寄せられてつい口に運んだのであろうと想像している。

  にごり酒と「どぶろく」は違う。どぶろくは“もろみ”のまま飲む(食べる?)ような酒だが、にごり酒は上槽(酒搾り)も行い“おり引き”もした酒だ。
 にごり酒で有名なのは、京都伏見の増田徳兵衛商店の「月の桂にごり酒」だ。最近ではいろんな蔵がにごり酒を出しているが、同店が最初に出したのは昭和30年代というから、今や古典的存在である。
 増田商店のホームページによれば、「上槽したばかりの生酒のオリを分離させ、1回だけ“オリ引き”したものがにごり酒」とし、同社の「『月の桂大極上中汲にごり酒』は、もろみが十分に醗酵し熟成した頃に、桶の中ほどからくみ出される酒」と書かれてある。同社が催す赤坂四川飯店の「にごり酒の会」で何度か飲んだが、ほどよい酸味と甘さが中華料理に合って美味しかった。

  先日、名古屋の居酒屋『かない』でにごり酒の話をしていたところ、店主が「にごり酒ならこれですよ」と、広島の「竹鶴」を出してくれた。これまた何とも洗練された味で、日野草城の詠う「あまくつめたき」という表現にピッタリで、立春の酒にふさわしい。
                             


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