三河湾に面する愛知県幡豆郡幡豆町に明治36(1903)年創業した山崎合資会社も、「酒もまた風土の産物」として『その地の酒』を追求し続けている。
銘柄は「尊皇」、「尊王」と呼ぶが、これは蔵のすぐそばにある古刹祐正寺の本堂に掲げられた額「尊皇奉仏」からとったもの。尊皇が特定名称酒など上級酒で、尊王が普通酒。
山田錦を使った「幻々」なども出しているが、平成14年、奥三河で契約栽培した高品質の酒米「夢山水」を100%使用した「奥(おく)」を初売、同16年には愛知県が五百万石と「あ系101」(先祖に雄町を持つ)を交配して育種した酒造好適米「若水」を100%使用した「焚火」を出した。水は三ヶ根山麓の良質伏流水に恵まれ、まさに「この地の酒」と誇る。
とくに「奥」がそのラベルの斬新さとともに人気を呼んでいる。黒字に金色の奥という字が幻想的に浮き上がり、深奥に引き込まれる想いがある。酒の深奥に迫ろうとしたのか? 奥三河の米を強調したのか? はたまた奥ゆかしい味を求めたのか・・・?山崎久義杜氏(自社杜氏)の胸には様々な思いが交錯しているように感じた。
同じく若水を使った純米酒「活鱗」なども、料理の邪魔をしないでいつまでも飲める米の酒、という感じでよかった。
その夜の宿、西浦温泉「銀波荘」の13種に及ぶ豪華な料理で、「奥」をはじめ様々な酒を飲んでいずれも素晴らしかったが、最後まで飲んだのは純米酒活鱗であった。
いずれにせよ、地元の風土の中で作り上げられた酒がそれぞれに個性を持ち、日本の酒文化を支えていくのだと改めて思った。
「奥」と使用米夢山水