四年に一度のオリンピックは、四年に一度しか味わえない感動を、必ず幾つか与えてくれる。始まったばかりのモントリオール冬季五輪は、早くもその一つを与えてくれた。
モーグルの上村愛子選手が流した涙である。
上村に、止まらぬほどの涙を流させたものは何だろう? 「微妙なタイミングミスはあったが、滑り自体に悔いはない」という滑りを終えて暫定2位、そのあと一人が上位を取り最終走者カーニー(優勝者)を迎えて暫定3位・・・、彼女は正直に「このまま3位で居たい・・」と思ったと言う。カーニーの見事な滑りで優勝が決まった瞬間、上村はメダルを逃し、あふれ出た涙はいつまでも止まることはなかった。
「悔しいから」と言ってしまえばその通りだろうが、そんな単純なものではない気がする。「なんで一段一段なんだろう」という彼女に言葉に、その「止まらぬ涙」の原因があるようだ。この彼女にとって一番解けない謎が、彼女の涙をいつまでも絶やさなかったのではないか?
既に彼女は涙を流し続けてはいないだろうが、この謎は未だ解けてはいないだろう。努力をし尽くし、新技術を磨き上げ、幾多の大会で勝利を手にしながら、4回にも及んだオリンピックだけが「どうしても与えてくれなかったメダル」の謎は誰にも解けない。
しかし、4回もオリンピックに出場し、四回とも入賞し且つその都度順位を上げていった選手なんて世界に何人いたのだろう? こんな名誉と喜びを持つ人間は、どこまで幸せなんだろうとも思う。しかし彼女は、「4回の入賞を全てお返しするので、1個のメダルをください」と言っているのかもしれない。それが「なんで一段一段なんだろう」という言葉に凝縮されている。
努力をし尽くし、世人には近づくことも不可能な栄光にチャレンジし続けた者だけが味わう境地であろう。そこには当然、誇りも満足も混在する。それだけに彼女の流し続けた涙は清らかで、見るものに清清しい感動を与えたのであろう。