昨日、岩森榮助さんのリサイタルに招待されて千駄ヶ谷の津田ホールに出かけた。
実にご本人25回目のリサイタルであった。前回は傘寿を記念して4年前に開かれた。日本歌曲を中心にした非常にさっぱりしたリサイタルで、アンコールの最後に歌った石川啄木の『初恋』の印象を含め、このブログの2008年10月3日付けで書いた。その時の参加者の声は、「80歳でこれだけ歌えるのはすごい。しかしいくら岩森さんでも、今回が最後であろう」というものであった。
ところが先日、リサイタルの案内状を受けて驚いて出かけた次第だ。しかも今回のテーマは、シューベルトの『美しき水車小屋の娘』。このメンタル性に富むな歌曲に、84歳になってなお取り組もうというところに、芸術家としての執念を感じた。
さすがに、声に従来の響きはなかった。しかし、全20曲、途中休憩することもなく1時間10分、歌い続けた。何とも誠実に歌い終えた、という印象は地味な岩森さんの姿をいつまでもとどめることとなったであろう。
聞けば、毎日4時には起きて(これは年寄りだから目が覚めるのかも知らないが)、周囲を何時間も歩き体を鍛え続けているという。歌の練習はもとより、ここまで来ると体力、体調の維持が勝負かもしれない。
どんな芸術も人間の力の発揮からしか生まれない。そのことを強く感じさせられたリサイタルであった。