旅のプラズマ

これまで歩いてきた各地の、思い出深き街、懐かしき人々、心に残る言葉を書き綴る。その地の酒と食と人情に触れながら…。

わが国最古の酒蔵「須藤本家」を訪ねる

2018-01-25 21:05:17 | 


 何十年ぶりかの大雪に襲われ、雪に弱い東京都民としてはややたじろいでいたが、予てから計画していた須藤本家(茨城県笠間市)の酒蔵見学を実行した。大雪の翌々日、24日は雲一つない快晴であったが、路面凍結のため高速道路の乗り入れが禁じられ、ようやく乗れた美郷インターまで一般道を走るトラブルはあったが、約1時間遅れの行程で、無事に蔵見学を行うことができた。
 須藤本家は、開業が永治年間、1140年年代というので平安末期、900年近い歴史を誇る日本最古の酒蔵である。残念ながら、その蔵と歴史を共にする樹齢9百年の欅は、先の北日本大震災で倒壊したというが、樹齢を誇る樹木で覆われた屋敷は何とも歴史を感じさせる。
 予てからお願いをしておいたが、55代蔵元須藤源右衛門氏のお出迎えを受け、我々5人のために蔵元直々のご案内を頂いた。この蔵は生酒主体の製造のため、雑菌を恐れ蔵の内部の見学はできないが、ガラス越しに「米の蒸し器」の作業が見える部屋で、スライドなども使用しながら、蔵の歴史、酒造りの工程、酒米や酒の種類など、蔵元の直々の説明を受けた。
 歴史や酒造りの一般論はさておき、その中で語られた蔵元の「酒哲学」が心に残った。その主要点だけを記しておく。
・酒は米、米は土、土は水が育てる。つまりその地そのものが、その地の酒を育てる
・酒は、その地に特有のものであって、その地の米がその地の酒を育む
・当社は、蔵の半径5キロ以内で作られる米で生産する。主な種類は亀の翁系のコシヒカリ
・酒というと山田錦となるが、これは兵庫の米、この地に持ってきてもうまくは育たない。この地の水に合うはずがない。雄町は岡山県、五百万石は富山の米だ。酒造好適米など、近時に作った言葉で、そのような言葉は信じない。飯米であろうが何であろうが、その地の米で造るのが一番いいのだ。マンゴーがおいしいからと言って日本で作っても育たない。
・酒は、その地の神にささげるために造る。だから神酒(みき)という。「みき」の「き」は「気」に通じる。その地の気候、気風、空気……、つまり、酒はその地の「気を醸す」のだ。もっと言えば、「その地の風を醸す」のだ

 これらの話を、スパークリングに始まり、純米大吟醸の生酒と火入れ酒の3種類の利き酒をさせてもらいながら語ってくれtた。その後、樹齢何百年という樹々が囲むお庭を案内してくたが、実に夢のような2時間であった。
 酒の美味しさは、これまで味わったものと種を異にし、まさに筆舌に尽くしがたく、それこそ、この地を生かした酒造りという源右衛門氏の酒哲学が生み出したものだと思い知った。

 

         

  
  「酒は、その地の風を醸すのだ」と語る須藤蔵元


 
 酒の命は水…、900年続く三つの井戸の一つ。あと二つは内井戸
           
     屋敷内にある松尾神社(酒の神様)
   
  ポールの向こうの落葉した木は、ハナミズキの巨木

  
    55代須藤源右衛門蔵元を中心に記念撮影


 
 


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4 コメント

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酒蔵「須藤本家」を訪ねる (シメさん)
2018-01-26 20:37:15
ブログ拝見しました。

参加する予定の一人でしたが、体調不良で参加することができず、
ブログを拝見しとても残念な気持ちでいます。

創業が平安末期(1140年)900年近い歴史ある酒蔵であり、
是非行ってみたい所であった事と、もう一つ首藤さんと一緒に訪問できるチャンスだったので。

スライド付きで、3種類の利き酒を楽しみながら、
蔵元直々に説明を受ける厚遇はうらやましい限りです。(蔵元と共に記念撮影まである)

ブログを読んでいて、蔵元の須藤さんと首藤さんの会話を聞いてみたい気持ちになりました。
どんな話を二人の間で交わしたのか、その場に立会えなかったことを悔やみます。

ブログの写真を見ると庭や屋敷も案内してくれたようで、
私も参加していれば庭・屋敷は見たいと思っていました。
(900年の歴史的価値を感じたいと思っていました)

蔵元の須藤さんの酒哲学 良いものをつくる 本物をつくる 
神にささげる酒を造る 並大抵のことではないと考えます。

シメさん(松木幹治)
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シメさんありがとう (tabinoplasma)
2018-01-26 21:55:57
貴君が参加していれば、どんなに感激していたことかと思います。日本最古の蔵の55代蔵元が語る「酒哲学」は、雪の困難に挑んで蔵訪問をした値打ちがありました。
お会いして、ゆっくりお話しいたしましょう
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当日の天気の様に心が晴れやかに (エイチ・エム)
2018-01-30 11:20:12
当日ご一緒させて頂いたエイチ・エムです。

首藤さんとご一緒させて頂くといつもいろいろ教えて頂く事が多く、又美味しいお酒と料理で楽しませて頂いています。
今回はそれだけでなく、須藤社長、お蕎麦屋さんでのおかみさんとの対話でなんとも心が洗われました。

説明して頂いた部屋で、「ここからそちらが350年、此処が250年、そしてそちらが150年前の建物です。
土台に靴を履かせ、その下は小石が敷き詰められている免震構造です。
今はなんでもコンピューター制御の時代ですが、酒造りでは、コンピューターは役に立ちません。
その年その年で米の出来具合、水、気温等が違うのでコンピューターに記憶させてもなんの役にたちません。」
囲碁の世界でもコンピューターが囃されている現代に、ビックリなお話でした。

同行した方が社長の艶やかなお顔を拝見し、「何かされているのですか?」のお返事は「何もしていません。なるべく添加物等を取らず自然のものを食べているからかもですね」

首藤さんのおっしゃる様にまさしく自然の力、そして人間の叡智を思い知らされたひと時でした。

お酒の美味しさとお蕎麦の美味しさの上に、気がつかない大自然に囲まれているのを感じました。

首藤さん、利き酒が出来なかった運転して下さったYさん、楽しくお相手をして下さった女性陣ありがとうございました (*´∇`*)
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Unknown (tabinoplasma)
2018-01-30 13:09:52
蔵元の言葉を正確に記憶され、書き綴っていただき有難う。私のつたない記録を補完してくれて余りあります。今回の酒蔵見学が、貴女に、当日の天気のような晴れやかな印象を残したことを、企画者として大変うれしく思います。今後も私のブログにコメントをくれるとうれしいです。
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