そもそもビールとは麦芽を煮沸した麦汁(モルト)にホップを加え、酵母の力で発酵させたものだ。ところが、酵母の種類によって上面発酵ビールと下面発酵ビールに大別される。下面発酵ビールの典型がラガービールで、発酵後下面に沈殿した酵母菌など老廃物を取り除き、更に殺菌処理などをして長期保存や輸送に耐えるようにしたもの。しかもこの酵母は10度以下の低温で発酵するため冷却処理が可能で、冷たくのど越しで飲むビールに向く。
上面発酵ビールの典型がイギリスのエールやベルギービールなどで、中でもエールは、発酵後上面に浮く酵母菌などをそのまま生かし、二次発酵をさせながら「生きたまま飲もう」というもの。この酵母菌は高温(20度から24度)で発酵し、その温(ぬる)いまま飲むので、イギリスのビールは温いといわれる。
つまり典型的なエールとは、日本酒でいうならば、濾過も火入れもしない「純米無濾過生原酒」のようなものと言えよう。
ただ、このような典型的なエールは樽でパブに持ち込まれても発酵を続けているので、それを管理するセラーマンを必要とするし、またおいしく飲めるのは一週間以内というからきわめて扱いにくい代物だ。従ってだんだん姿を消し、ラガーと同じように濾過、熱処理して保存や輸送に耐えるものに変わっていっているという。
もちろんそれだけに、頑固なイギリス人の中にはこの典型的なエールを守ろうと、CAMRA(Campaign for Real Ale)という組織が作られて運動が展開されているという。(白井哲也『パブは愉しい』62頁)
日本でも無濾過生原酒の人気が出てきたように、「リアル・エールに幸あれ!」と祈るや切である。残念なことは、私はこの典型的なエールを十分確かめて飲んでいない。しかしイギリスで飲んだビールはいずれも個性的な味があった。ドイツはラガー大国であるが、これもそれぞれに個性的な味があった。日本のビールで味を感じたことはあまりない。それは一部のビールを除き、麦芽とホップ以外に米やとうもろこしやスターチ(芋のでんぷん)などが混ぜられ無個性のビールになっているからであろう。
ドイツビールは「ビール純粋令」により麦芽とホップのみという原料規制が守られていること、イギリスエールは上面発酵法などにより素材を生かす手法が生きていること、などによるのであろう。
それにしてもいつの日にかイギリスの田舎を回り、リアル・エールを飲む「パブのはしご」をやりたいものだ。
※コメント投稿者のブログIDはブログ作成者のみに通知されます