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リヨンのことでどうしても書き残しておかねばならないことは、トラボウレス(TRABOULES)という通路のことだ。結論から言えば、これは「建物の中を通過する道」のことである。しかもその建物は公共の建物ではなく、それぞれ個人の所有する建物である。
ある通りに面した4~5階建ての建物に、狭い、暗い通路が開いている。人の家の中に入るようにその通路に入って行ってドアを押すと、狭い中庭みたいな空間に出る。周囲には4~5階の住宅が聳えていて、それぞれ螺線形の階段が昇っている。その広間には井戸などがあるから、それを共同で使っているのだろうか?
入ってきた反対側のドアを押すとまた狭い通路があるので、そこを歩き突き当たりのドアを押すと、全く別の通りに出る。
「これはアナザーストリート(さっきと別の通り)だ」
と、わが友セルジュ君は通りに出る度に誇らしげに語った。また
「わが町もドイツ軍にパルチザンを組んで戦ったが、ジャーマン・ソルジャー(ドイツ兵)は、この通路で常にわれわれを見失い、また中庭に迷い込んだ奴らは周囲から絶滅された」
とこれまた胸を張って語った。
街の美しさを称えると、セルジュ君は「俺はここで生まれ育った。両親もリヨンで生きた」と胸を張るし、歴史遺産のどれをとっても誇り高く語った。
私は、想像を絶する悪事が絶えない日本の現状を振り返り、自分の街に誇りを持つ彼を、本当にうらやましく思った。
素晴らしいことですね。