昨夜、サントリー・ホールで、今や世界一のバリトン歌手であろうホロストフスキーを聴いた。この、声や風貌は頭にこびりついているが名前の覚えにくい歌手については、わが家で度々話題になっていた。そしてその都度、ニューヨーク・メトロポリタンのガラコンサートのビデオをかけて、同じ場面の歌(「ドン・カルロ」のロドリーゴ役)を聞いてきたので、「声と風貌が頭にこびりついて」いたのである。
その憧れの声を昨夜聞くことができた。「これだけは何としても・・・」とワイフが、2階の9列目の席を3枚購入(一枚1万2千円)、娘と3人で出かけた次第。声楽をやる娘によれば、「この席は“良い声”なら一番良く聞こえる席」ということだ。
正確には『スミ・ジョー&ディミトリー・ホロストフスキー』というジョイントコンサートであるが、われわれのお目当ては全てホロストフスキー! 特に娘とワイフがスミ・ジョーをあまり好きでないようで、会場にもなんとなくホロストフスキーに拍手が傾く空気があって、スミ・ジョーには気の毒なコンサートであった。しかし相手が相手だけに彼女も覚悟していたであろう。
彼女も、線の細さは否めないが、高い細い声は素晴らしくきれいであった。しかし、一曲でも多くホロストフスキーを聴きたいという願望と、最大の不満であったドン・カルロがプログラムに無かったことが、彼の単独コンサートなら組まれたのではないか、という勝手な憶測まで加わって、スミ・ジョーの美しい声は不当に評価されたのではないかと思った。
それにしてもこの大バリトン歌手の歌唱力は素晴らしい。野太い、鋼鉄のような鋭い声はロシア人にしかないものではないか? 単に声だけではなく、そこに醸し出される芸術性も、これはロシアが長年にわたって築き上げてきた独特の文化の上に立っているのであろう。それぞれの国に、それぞれの声も芸も生まれるのであろう。
その点、韓国人スミ・ジョーの声は東洋的繊細さを持っていると思った。両者を際立たせた点にも狙いがあったとすれば、このジョイントは成功したのであろう。私のような素人には分からない、はるかに高い水準で計画されたものであったのかもしれない。
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