私は、かねてよりEUの成長発展に期待してきた。資本の論理と力の政策に頼るアメリカと距離を置き、多国間の広域経済統合を目指す方向に、資本主義の矛盾を克服する新しい道が見つけられないかと期待してきたからだ。
もちろんそううまくはいかない。リーマンショックによるアイスランドの例や、ギリシャをはじめとした財政危機など、EUは揺れに揺れている。その状態にたまりかねたように、ノーベル賞委員会は平和賞の授与を決めた。
20世紀の二つの世界大戦の悲惨さがEUを生み出したと言っていいだろう。欧州紛争の種であったアルザス・ロレーヌ地方の共同管理を決めた1952年の「欧州石炭鉄鋼共同体(CSC)」を発端とし、それが、58年の「欧州経済共同体(EEC)」を経て、67年の「欧州共同体(EC)」に発展。93年のマースリヒト条約で「る欧州連合(EU)」が発足、現在27か国が加盟、5億人を抱える政治・経済連合体として世界の一翼を担っている。
アルザス・ロレーヌを巡っては、ドイツとフランスは70年間に3度の戦火を交えている。その2国が今、EUの中心になっている。基本方針に一貫して平和を掲げ、軍事独裁体制が続いたギリシャ、スペイン、ポルトガルの新たな加盟にあたっては、「民主主義の導入」を条件とした。
ノーベル賞委員会は授賞理由の中で次のように述べている。
「欧州の平和と調和、民主義と人権の向上に60年以上にわたって貢献した」
「ドイツとフランスの戦争など、今日では考えられない。歴史的な敵が親密な仲間になった」
(本日付日経新聞一面より)
しかし同時に、EU内部の問題は前述したとおり厳しい。何とか崩壊しないようにと私などはハラハラして見ているのであるが、ノーベル委員会もその点は同じようで、「EUは現在、経済面での困難と社会不安に直面している」(同前)とあえて指摘して結束を促した。つまり、その結束の励みになるようにと平和賞を与えたというのが真意であろう。
そもそも、経済的基盤(下部構造)が十分固まりきれないうちに、理念が先行して政治(上部構造)的統合を行ったという感はぬぐえないが、なんとかノーベル賞委員会の期待に応えてもらいたいと願っている。