間宮林蔵と言えば、歴史の教科書に1~2行くらい樺太と大陸の間の間宮海峡を発見した人物として記されているくらいの知識しかありませんでした。
「そんなの行けばわかるじゃん」程度の認識でした。←アホです。
この本を読んだら、冒頭から、ものすごいことが起こる雰囲気がヒシヒシと伝わり、偉大な功績だったことが予感されました。
江戸時代後期、蝦夷地(北海道)や北方領土へ異国船の来襲が続き、ロシアと日本の間で摩擦が起きます。
林蔵が詰めていた択捉島の会所にロシア艦が襲撃してきます。
最後まで徹底抗戦を主張した林蔵でしたが、皆、恐れおののいてわずかに鉄砲を撃ち合っただけで逃げ出してしまいます。
最高責任者は逃亡中の山中で自刃、生き残った者も幕府の厳しい仕置きにあいます。
林蔵は徹底抗戦を主張したことが認められ無罪となり、樺太探検の命を受けることになります。
2回の探検により樺太が島であることを突き止めることになります。
なぜ、島であることが重要であったか……その地は西洋からもたらされた世界地図で唯一空白の地であり、測量に出かけた西洋の船も引き替えさざるを得ない状況にありました。
間宮海峡の水深は極めて浅く、船が近寄ることが出来ず、海流も流れてこず海も静かなので樺太半島と大陸の間にある湾であろうという見方が通説でした。
そして、ロシア船の来襲が、ロシア勢力が北方をどこまで支配しているか探ることを必要とさせたのでした。
蝦夷地で冬を越す和人は、水腫病にかかり命を落とす者が多く、その北方となれば、その危険が増すのです。
アイヌが水腫病にかからないことを知った林蔵はアイヌの生活をまねることにより危機を克服していきます。
そして、樺太の地は、南部こそアイヌが住んでいましたが、その北部は言葉が通じない異種族の領地であり、さらに大陸からはアイヌが恐れている粗暴な山丹人が渡ってくるのです。
異種族たちとの交流や敵対も緊張感を生み、冒険小説としては破格のリアリティで迫ってきました。
物語の前半は、樺太探検冒険譚となり、その辺の冒険小説よりずっとおもしろかったです。
後半は、探求心と健脚を生かし、日本全土に及ぶ隠密としての活躍が主となります。
浜松藩や薩摩藩の抜け荷を調査するなどの功績を残しながら、年老い息を引き取るまでの半生が書かれています。
農民の出で、役人の最下の雇の身分から、歴史に名を残したのですから、すごい人には違いありません。
また、この小説を読むと、副産物として、現代の国際社会で問題になっている北方領土問題や捕鯨問題の根本が理解できます。
国境が定かではない地域の冒険譚は、国の支配とは何か、国防とは何かを深く考えさせられました。
国際情勢に興味がある方も一読の価値ありです。
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