●集団的自衛権巡る論点は
NHK 5月15日 22時27分
集団的自衛権の行使を巡って、安倍総理大臣が設置した有識者懇談会は15日、憲法解釈を変更し、行使を容認するよう求める報告書を提出しました。
戦後日本の安全保障政策の大転換となりえる議論が本格化することになりそうです。
安保法制懇とは
政府の有識者懇談会は、正式名称を「安全保障の法的基盤の再構築に関する懇談会」と言い、安倍総理大臣の私的諮問機関として議論を続けてきました。
メンバーは14人で、座長は柳井俊二元外務事務次官、座長代理が北岡伸一国際大学学長で、経歴を見ますと学識経験者が9人、元官僚、元自衛官が4人、財界人が1人となっています。
全員がこれまでに発表した論文などの中で、集団的自衛権の行使を容認することにいずれも肯定的な意見を明らかにしています。
報告書とは
報告書は、日本を取り巻く安全保障環境は一層厳しさを増しているとして、日本の平和と安全を維持するためには従来の憲法解釈では十分に対応できないとしています。
そのうえで、憲法上認められる必要最小限度の自衛権の中に集団的自衛権の行使も含まれると解釈すべきだとして、憲法解釈を変更し、集団的自衛権の行使を容認するよう求めました。
集団的自衛権を巡る論点
憲法解釈の変更による集団的自衛権の行使容認については、さまざまな論点があります。
主なものとして、1.憲法解釈の変更という手続きを取ることの是非、2.行使を容認した場合に歯止めが効くかどうか、3.今の解釈で認められている個別的自衛権や警察権でどこまで対応できるのか、この3点が挙げられます。
論点1.憲法解釈の変更という手続きを取ることの是非
憲法解釈の変更という手続きを取ることの是非について、慶應義塾大学の小林節名誉教授は、「集団的自衛権の行使容認という実質的な憲法改正を解釈の変更で行うことを許せば、将来、憲法を土台から壊し、権力者だったら何でもできるという独裁国家を生むおそれがある。集団的自衛権の行使を容認したいのなら、堂々と憲法改正を提起して、国民的な論争を経て、国民投票で可決してもらうのが筋だ」と批判しています。
一方、有識者懇談会のメンバーの1人で駒澤大学の西修名誉教授は、「今の憲法はそれぞれの国の固有の権利である自衛権を否定しているわけではなく、その自衛権の1つである集団的自衛権の行使のしかたを議論していくことは立憲主義に反しない。現代は、憲法で国家権力を制約するだけでなく、国家に積極的な役割を果たさせることが求められる」と話しています。
論点2.行使を容認した場合に歯止めが効くかどうか
行使を容認した場合に歯止めが効くかどうかについて、自衛隊のイラク派遣当時、内閣官房副長官補を務めた、元防衛官僚の柳澤協二さんは、「集団的自衛権を行使してほしいという他国から要請されて助けないとなったら、政治的なダメージは計り知れないため、結局、集団的自衛権は歯止めが効かない。自衛隊は発足以来、1人の戦死者も出さなかったが、集団的自衛権の行使が容認されれば、そうした犠牲を強いることになるという認識が必要だ。こうしたリスクやデメリットもすべて考慮して議論すべきだ」と指摘しています。
一方、駒澤大学名誉教授の西修さんは、「報告書では、国際法上の縛りに加え、『日本の安全に重大な影響を及ぼす可能性がある』といった条件を定めている。その範囲でしか行使できないようにすれば、歯止めになる。さらに、必要最小限の行使を容認していくのであり、政府、国会、国民それぞれが歯止めの在り方を議論していくべきだ」と話しています。
論点3.今の解釈で認められている個別的自衛権や警察権でどこまで対応できるのか
今の解釈で認められている個別的自衛権や警察権でどこまで対応できるのかについて、例えば、報告書で示された事例のうち、公海上で攻撃されたアメリカの艦船を自衛隊が守るケースなどは、個別的自衛権で対応できるという指摘があります。
安全保障が専門で、流通経済大学教授の植村秀樹さんは、「報告書には、日本が対応する必要がない事例や、個別的自衛権でも対応できる事例が含まれている。国民が集団的自衛権の行使容認を受け入れやすい事例を並べている印象があり、結論ありきで、世論をミスリードするおそれがある」と指摘しています。
一方、安全保障が専門で、拓殖大学海外事情研究所教授の川上高司さんは、「日本を取り巻く安全保障環境は激変しており、領海領空を巡る争いや、北朝鮮の弾道ミサイルなどの脅威が日に日に増している。ほかの国が日本を守ってくれているのに、日本がほかの国を守れない現状は改めていかなければならない。日米同盟を強化するためにも、集団的自衛権の行使容認は早急に必要だ」と指摘しています。
|