昨年に引き続き,今年も,うちの玄関からラベンダーの咲く庭にかけてを縄張りにして,カマキリが住み着いた。昨年は,初秋に来て枯れかけたトルーラベンダーに卵鞘を産み付けてお亡くなりになった。しかし,今年はお早いお越しでほとんど丸裸のシークヮーサーの苗を無数にひしめくナミアゲハの幼虫から守っていてくれてる。
いつぞや,レンタルDVDを返しに,車に乗り込もうと思いきや,ドアの窓にコヤツが両足をかけて,行くならば俺を倒してから行けとばかりに構えておりやした。
カマキリと一緒にドライブする気は毛頭なく,さっそく家の中から箒とちりとりを持ってきて,丁寧にカマキリに移動をお願いした。
しかし,なにをトチ狂ったのかこのカマキリ,そろそろと箒を近づけるや,カマを振り上げ威嚇すると同時に,巨大な羽をばたつかせ,これでも食らえとばかり,僕の顔を目がけて飛んできた。
こんなにすばやく身をかわしたのは,中学校の剣道部での基本稽古以来であろうか。
後方に、はでにぶっ転び,たぶん,その場を第3者が目撃したとすれば,「ワイヤーアクションを彷彿させる人間離れした早業で,ひとりバックドロップをかました」と後の世まで語り継がれたであろうことは間違いない。
カマキリは攻撃的,好戦的で自分よりも大きな相手にも立ち向かうので,たいして力もない者が,強大なものに無謀にも刃向かうことを〈蟷螂(とうろう)の斧〉という。さすれば,箒とちりとりふりかざして蟷螂の攻撃にしりもちをつく,拙者を人はなんと言うのであろうか?
カマキリにイボをかじらせると治るという俗信は日本各地で昔からあったようで,イボムシリ,イボジリ,イボムシなどの異名が残っている。また矢じりが深く入って抜きにくい時に,この虫を陰干しにしたものの粉末(権法散という)を傷口に塗ると矢じりが自然に出てくるという。
南フランスのプロバンス地方の農民の間では,カマキリの卵嚢でしもやけをこすると直ると信じられ,またそれを身につけているだけで歯痛を免れるという迷信があったという。イギリスには,子どもが道に迷ったとき,カマキリに道をたずねると,虫が前肢をのばして方向を指示してくれるという言い伝えがあるらしい。
農薬など撒いた事のないハーブという名の雑草だらけの庭には,今日も,いろんな虫たちがやってくる。