tetujin's blog

映画の「ネタバレの場合があります。健康のため、読み過ぎにご注意ください。」

タッチ・オブ・スパイス A TOUCH OF SPICE

2006-10-09 14:57:23 | herb, plant

1959年、子ども時代のファニスはトルコのイスタンブールに住んでいる。スパイスに囲まれた祖父の店で、多くの知恵を祖父から授ったファニス。そして幼なじみのサイメとの初恋。しかしトルコとギリシャの間の紛争のため、一家は祖父を残し、アテネに移り住むことに。

トルコでハーブの”Thyme"(タイム)はなんと発音するのだろう?残念ながらトルコ、ギリシャに知り合いがいないので確かめられないでいるが、ファニスの初恋の相手の名前サイメは、ハーブのタイムから来ているのかもしれない。

タイム(タチジャコウソウ)は、小さい葉と可憐なピンクの花を咲かせるハーブで、トロイ戦争のヒロイン、へレナの涙から生まれたという言い伝えがある。又、古代ギリシアの山々は、タイムの芳香で包まれていたとか。タイムの香りは神経を鎮める働きがある為、戦場へ出陣する男達はタイムを入れた浴場で身を清めて、精神を落ち着かせたと言う。

映画タッチ・オブ・スパイスは、おじいさんが孫である少年(主人公)にスパイスを使って人生を説くという構成である。こういう映画を見ると、食は文化だということがよくわかる。食材を吟味し、スパイスを調合し、調理する。そして匂いを嗅ぎ味わい、心通わせる人々と大いに楽しみ食す。その一つ一つの場面に、「美食(ガストロノミー)には宇宙(アストロノミー)が宿る」との主張が見える。また、スパイスは、人間関係においても重要な隠し味である。「肉団子にクミンは当たり前だが、時にはシナモンを入れるような意外性も、人生の重要な時には必要なのだ」。そんなおじいさんのセリフを聞いていると、自分でも料理を作ってみたくなる。

さて、ギリシャと隣国トルコの間には複雑な歴史がある。長い間トルコの支配下にあったギリシャが独立して以来、高まる民族主義は衝突を繰り返し、今まで平和に共存していた人々が、住む土地を奪われることになった。この物語の主人公ファニスの一家のように、トルコに居住していた多くのギリシャ人が追放されたが(逆にギリシャにいたトルコ人も同じような目にあっている)、同胞であるはずのギリシャ人は彼らを暖かく迎えるどころか、見下して冷たく扱った。

このラブストーリーで、成長しアテネの大学で天文学を教える中年となったファニスは、幼い頃の初恋を何年も抱き続けていたのか?それとも、何十年ぶりかの初恋の相手との再会によって、忘れていた心に火がついたのかは知る由がない。ただ、何十年経っても故郷への愛は断ちがたく、それは可憐な少女への幼い恋と記憶を同じくする。少女は見事に美しく聡明な女性へと成長し、少年もまた魅力的な中年になっていた。再び出逢った彼らが恋に落ちることになんの不思議もないのかもしれない

「振り返るな、ホームで振り返ると再会の約束になる。」
・・・サイメの娘が振り返って微笑むシーンが忘れられない。

♪冬は早く来る あなたの町の方が
最後に会ったときのコートを着ていますか
五年 いえ八年たってたずねたなら
声もかけられぬほど輝く人でいてほしい♪ by ユーミン

コメント
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