車はクタを経由、スーパーマーケットによって貰って、バリのチョコレートを土産に購入。そして、南に向かって快調に走っていたのだが、本日のハイライトである夕暮れのウルワツ寺院でケチャダンスを見物するまでには、まだまだ時間があるとのことで、コーヒーブレークを提案される。そこでプナにお願いして、道路沿いにあるジンバランの24時間営業のマクドナルドに行ってもらうことに。ヒンズー教のバリ島で、マクドナルドはどんなハンバーガーを提供するのか興味をもったからだった。なんせ、島民の90%はヒンドゥーのバリだ。宗教による食のタブー、すなわち、牛肉のタブーをいかにクリアしているのだろう。
マクドナルドの駐車場に車を入れたプナは、車のブレーキがおかしいと言ってボンネットを開けた。一緒に中を覗いて見ると、ブレーキオイルのリザーブタンクが空に。彼は、近くのカー用品の店でブレーキオイルを購入するから、コーヒーを飲んで待っててくれと言う。一緒にマクドナルドの店内に入って、コーヒーを注文。プナは、テーブルにコーヒーのカップを置いたまま車の修理へ出て行った。
マクドナルドの駐車場には、大学の集会のような催し行事があり、大勢の若者がいたのだが、店内には数組の客しかいなかった。バリのマクドナルドのメニューは、チーズ、マックチキン、フィレオフィッシュ、ビックマックと日本にあるのと同じ。レジに並んだ客たちは、ソフトクリームを注文していた。
黒のポロシャツにパンツルックのオネエサンの接客は、バリのレストランと同様だった。日本のような、はじけるようなスマイル0円のサービスはない。コーヒーはごく普通、コーヒー豆が沈殿したバリコピではない。普通にスティックシュガーとミルクポーションが付いてくる。ちなみに、牛はシヴァ神の乗り物として神聖な動物で、殺したり虐めたりすることはタブーなのだが、牛乳やソフトクリームなどの乳製品は神の恵みで口にしても問題ないらしい。もっとも、マックのミルクポーションはミルクから作られたものではないのだが。
ほどなくして、プナが車の修理を終えて帰ってきた。コーヒーを飲みながら一緒にまったりのつもりが、どうも、プナの様子がおかしい。どうやら、宗教による食のタブーが、彼をくつろげさせないでいるようだ。
「バリニーズはマクドナルドに行かないの?」
聞くと、黒い顔を青くして、
「マクドナルドに行くのはジャワの人たち(モスラムの人)だけ」
彼は、あたりを見回して言う。彼に言わせれば、バリニーズとジャワ人は簡単に見分けがつくそうだ。ジャワ人の方が色が黒く、険悪な顔つきらしい。穏やかな性格も含めて日本人に似ているバリニーズとは、性格も異なるとのこと。
彼の居心地の悪そうな様子に、ぼくは彼にマクドナルドに誘ったことを謝って、さっさと店を出た。彼は、しきりにマクドナルドでゆっくりできなかったことを詫びていた。食のタブー。本当に難しい問題だ。