tetujin's blog

映画の「ネタバレの場合があります。健康のため、読み過ぎにご注意ください。」

あとがき

2008-06-12 20:39:43 | 日記

バリから帰ってきて、その2週間後に再入院して、脛骨と腓骨を固定していた足首のボルトの除去手術を受けた。ボルトはレントゲン写真ではかなり太く見え、医者が言っていた「体重をかけて歩けば折れる」は、「折れることもある」だろうぐらいに思っていた。ところが、足首から抜いたボルトを記念にもらったのだが、見たらぞっとした。チタン60E種合金のボルトは、直径が3mmφぐらい。全長45mmに渡ってねじ加工がしてあって、表面は黒っぽい皮膜が形成されている。手に持つと、その軽さと、チタン特有の低熱伝導性から、まるでプラスチックのような感触がするが、精密な機械加工の後を見れば金属製であることが実感できる。
おそらく、表面は生体親和性を上げるため、陽極酸化の黒っぽい皮膜が形成されているのだろう。ねじ加工とあわせて、そのどちらもが表面欠陥としての亀裂の開始点となりうるため、こうしたチタン製のボルトが衝撃で折れるのは無理もない。骨癒合が起こっていない状態で荷重がかかれば、少ない荷重でもその反復によって疲労破壊が起こりえる。さらに、生体内の特殊環境を考えれば、腐食疲労破壊も発生する可能性がある。つまり、骨が固まっていない早い時期に体重をかければボルトは折れて当たり前なのだ。
さすがにバリでは、足首にまともに体重をかけるようなことはしなかったが、それでも、何かの拍子に少しだけ体重がかかることがあった。特に、雨の日のホテルの吹き抜けの廊下は濡れていて滑りやすく、松葉杖が滑って足で踏みとどまったりした。
こんなことを考えると、いくら海外旅行保険があるとは言え、やはり、松葉杖をついての海外旅行はリスクが大きいと言わざるを得ない。

骨折手術後のリハビリのため、海外のプールで筋力トレーニングをという人の参考になればと思い、松葉杖で旅したバリについて書いてみようと思ったのだが、考えてみたら松葉杖で海外へ行こうとする人なんているはずはない。というのも、怪我した時こそ、大手を振って家族に甘えられる時だ。怪我の不幸を家族で乗り越えることで、家族のきずなは強くなっていく。また、怪我で会社を休んでいる間に海外で羽を伸ばしていたともなれば、仕事を代行してくれている人たちにとって気分の良いものではない。だから、普通の人なら、松葉杖をついてまで海外へは行かない。どうやらぼくは、また誰も読んでくれない文を書き上げてしまったようだ。

最後に。バリ島に滞在中、バリニーズたちに「松葉杖でよく来たね」と言われた。
「バリ人だったら、骨折したらおとなしく家で寝ているよ」
と彼らは言う。彼らの言葉にぼくは気がついた。片足が不自由なのにもかかわらず、海外くんだりまで愚かにも足を伸ばすのは、何かトラブルがあっても最悪、お金で解決できると傲慢にもぼくは考えていること。ハンディキャッパーとして、誰かに助けてもらえると世の中を甘く見ていること。人として当たり前の生き方をするバリの人々に、ぼくは自分の傲慢さを教えられた思いがした。
それでも、バリの人々は嫌な顔一つせずに、ぼくと付き合ってくれた。だからこそ、彼らに対する感謝の気持ちで一杯だ。また、いつの日か、恩返しの旅に出てみたい。今度は、もっと積極的に地球を救えるようなイベントのプランを持って。