タナロット寺院は、満潮時に海の上にぽっかりと浮かぶことでも有名らしい。残念ながら、今日は曇っていて夕陽は見られそうも無い。夕暮れ時をタナロット寺院で過ごすか、ウルワツ寺院で過ごすか、どちらにしようか迷って、プナお勧めのウルワツ寺院へ。
道路わきに車を止めプナは車を降りるや、道の傍らの藪の中から枝振りの良い手ごろなサイズの枯れ枝を拾ってきた。ここ、ウルワツには夕方になると出てくるサルたちがいて、かなりのいたずらものらしく、そのサルたちを撃退するためのものだった。寺院の入り口で、プナがぼくの分と合わせて2人分の拝観料を払ってくれる。どうやら、現地人プライスのよう。仲間として認めて貰えたようでうれしい。
寺院では腰に巻く黄色いスレンダン(ヒモ)を貸してくれる。サロン布と帯紐を腰に巻くバリ人の正装の簡略版だ。
5分ほど歩くと石段と門が現れる。寺院の周りにめぐらせた階段の遊歩道を、ぶらぶらとジャランジャラン。実は、日本に帰ってきてから知ったのだが、この「ジャランジャラン」はインドネシア語で「散歩」の意味らしい。
ヒンズー教の寺院と言うことで、遊歩道にはインド人の参拝客が目に付く。次に多いのがコーリアンのカップル。プナは、メガネをかけたコーリアンの新婚カップルを追い越しざまに、サルに注意するよう声をかけていく。とくにメガネはサルの好奇心をあおるようで、飛び掛ってきて持ってかれてしまうようだ。ぼくはと言えば、でこぼこの石畳の道を松葉杖の音高らかに歩いていくので、いたずら好きのサルもさすがに怖がって寄ってこない。これも、松葉杖の威力。
ルフゥール・ウルワトゥ寺院(Pura Luhur Uluwatu)とダルム・ジュリッ寺院(Pura Dalem Julit)という、隣り合わせに建つ2つの寺院の総称がウルワツ寺院だ。ルフゥール・ウルワトゥ寺院は、ジャワの高僧ウンプ・クトゥランによって、9~10世紀ごろに、海の霊を崇拝するアニミズムの聖地として建てられたもので、後に高僧ダン・ヒャン・ニナルタが、バリ島の最高神であるサンヒャン・ウィディを祭るパドマサナを増築したと言われている。
バリの6大寺院の一つであるこの寺院は、ブキッ半島の南西の突端に建てられている。はるか彼方まで見渡すことのできるインド洋の水平線。そして70メートルの断崖に力強く打ち寄せる荒波。
壁沿いの上り階段の回廊を歩いていく途中に、見晴らしの良い場所があり、何人もの観光客が景色を見ながら一休みしていた。ぼくらもここで、一休みして記念撮影。海からの風に吹かれていると、なんだか、いろんなことがどうでも良くなってくる。自然と一体になれる、そんな感じ。
ここはサーファーには有名な波乗りポイントらしいのだが、海の中は岩場で危険とのこと。 海岸線で、数メートル級のビッグウェーブが白く砕けていた。向こうに見える入り江の先の広い崖の上には、見渡す限りの低木が生えていて美しい。
たむろしていたバリニーズのガイドたちが、ぼくの松葉杖に目を止めてどうしたのか聞いてくる。右手についたままの病院のIDタグを見せながら、パラグライダーで墜落したことを伝えるとみんなで同情してくれる。その中の一人が、向こうの丘の上もパラグライダーのランディングポイントだと言う。島のどこかのテイクオフから、オフショアの風に乗ってここまでフライトができるらしい。
それを聞いて、めちゃくちゃ心に火がついた。バリでもパラグライダーができるんだ。でも、グライダーを飛行機で運べるんだろうか?全部で30kgの重さがあるぞ。・・・・・・海に落っこちたらどうしよう。いくら、素潜りで息が続くとはいえ、水中でハーネスをはずすことができるのだろうか。海に落ちて亡くなったパイロットは結構いるぞ・・・・・・なんて。
バリニーズたちよ。ホワイトマジックをかけるのなら、英語じゃなくて、現地語でやってくれよ。さもないと、その気になっちまうだろう。まだ、ぼくにはバリ島以外にも、潜ってみたい海や、登ってみたい山があるんだ。だって、未だに不思議なのが、飛行機のランディングの際に、前方スクリーンに映し出されたバリ島は赤茶けた大地に見えたこと。いったい、どんなマジックを使って、緑豊かな土地に見せてるんだ?バリニーズたちよ。どうせマジックをかけらるのなら、・・・・・・若い娘からの方がいいんだけど。
ここでも、民族衣装を着たバリの人々がお祈りをしていた。古来の人間の記憶が呼び覚まされるような原風景。人類の祖先は、確かにここにいた。