tetujin's blog

映画の「ネタバレの場合があります。健康のため、読み過ぎにご注意ください。」

ワイルドストロベリー

2007-05-21 19:48:49 | herb, plant

日本では幸運と幸せを運んでくれると人気のワイルドストロベリー。ネットで調べると、ヨーロッパの花言葉は be alert; it also signifies innocence :注意深い、無実。その昔、女性が愛する男のために草の茎を敷き詰めたそうな。
スカンジナビア地方では、幼くしてなくなった子供の魂を神がストローベリーの中に隠して天国へ連れ去ると信じていた。バイエルンでは、豊作を祈って牛の角に実を結び付けていたらしい。
スウェーデンでは、”野いちごの場所”とはお気に入りの場所を表す。

そういえば、スウェーデンを代表する映画監督のイングマール・ベルイマンの作品に「野いちご(Smultronstället) 1957」がある。 
老医師が旅をする。その途中、老医師は、夢と回想の中で自分の人生を振り返る。そして、そんな夢と回想に、旅の道中で道連れと成った若者達との対話が重なる。ただそれだけの物語の中に、老人の死の予感や不安、人生のむなしさなどを、さまざまな夢や幻想を織り交ぜながら感情の起伏が丁寧に美しく描かれる。自分の人生はいったいなんだったのだろうと。
回想の中で若き日の悲恋の相手サラが言う。
「野いちごはもうないのよ」
老医師にとってお気に入りの場所は、もう手の届かない遠い場所になってしまったのだ。

野いちごには、いくつか種類がある。よく見かけるのはヘビイチゴ。無毒で果実は食べられるものの、あまり味が無いため食用には好まれない。ぼくの子供の頃は、ヘビイチゴという名前から連想するのか、毒があるから食べてはいけないと言われていた。子供の間では、これを食べると体にうろこ状のできものができると、まことしやかに信じられていた。一方、キイチゴはよく日のあたるやぶに自生していて、初夏に真っ赤な実をつける。見つけ次第、カメムシのついていないことを確認して、片っ端から口に放り込んでいたものだ。あの頃、口にした野いちごは、もう見つけることが難しくなってしまったのだろうか?
園芸用のワイルドストロベリーは、幸せをつかむラッキーアイテムとして大人気だ。どうやら、人気は日本だけのことのようだが、ワイルドストロベリーにとっても日本での人気は非常に幸運なことにちがいない。


午後にはシネマとお茶を

2007-05-20 19:59:41 | herb, plant

長い歴史を通して、 "不老長寿のハーブ" と言われてきたセージ。中国、ペルシア、ヨーロッパには「庭にセージを植えれば、老いることなし」ということわざまであるらしい。このセージの刺激のある強い匂いは、好き嫌いが分かれるところだ。精油の量は全草に対して1~2.8 %で、精油の主成分はツヨン(thujone)52.5%、シネオール(cineol)7.8%,ボルネオール6.5%、カリオフィレン4.7%,カンファー、リナロール、ピネン、チモール、レサルペンなど。タンニン、ロスマリン酸、ピクロサルビン、有機酸、フラボノイド、フェノール酸など。このうちツヨンは強力な防腐効果、フェノール酸は抗菌効果をもたらすほか、他のポリフェノール類もアンチ・エイジングすなわち、抗酸化作用の源となっているのだろう。

一般に、植物中に含まれている精油は
①種の保存(受粉など)のための昆虫誘引
②他の植物の排除。生存競争に勝ち残るため。
③気温の変化から我が身を守る。
④自己の傷口の保護、抗菌など。 
などの作用から植物自身が進化の過程で身に付けたものだ。つまり、効果のある精油を多く生成する個体が、過酷な生存競争に打ち勝ってきたのだ。

セージは肉料理と相性がよいために、手作りソーセージの中にみじん切りにして入れたり、葉を乾燥してハーブ・ティーにして飲んだりする。ちょっと高級そうなソーセージには、セージが入っているのでおなじみだろう。それ以外にも、イタリアなどでは、ほうれん草とリコッタチーズ、卵、パルメザンチーズ、小麦粉、ナツメグを混ぜてラビオリにしたものが、セージとバターを加えたトマトソースなどで出てくる。

セージは、現在の主産地のユーゴスラビアや、トルコ、アメリカなど多くの地域で栽培されているが、ユーゴスラビアのダルマチア地方のものが最高品質だ。高温多湿に弱いセージは、日本では今の季節がベストシーズンなのだろう。いろいろなハーブが咲く我が家の庭で、セージは一際目立つ暖かみのある紫色の花を咲かせている。


5月のラベンダー

2007-05-19 18:36:38 | herb, plant

5月。本格的な夏の訪れはもうすぐそこまで来ている。5月晴れの陽に照らされて、色んな花が咲き揃い蝶や蜜蜂や昆虫達がせっせと蜜を稼ぐ。自然の営みが微笑みをもたらしてくれる季節だ。
我が家のラベンダー、初夏の日差しの中で、幻想的な紫色の花穂を林立させていて、よく蝶が集まってくる。イギリスにラベンダーを伝えたのはローマ人だ。 16世紀頃からイングリッシュ・ラベンダーの栽培が行われ、それ以来、イギリスでは盛んにラベンダーの栽培が行われるようになったらしい。

美しい風景を背景に、ふたりの老姉妹の人生を描いた「ラヴェンダーの咲く庭で」の舞台となるのは、1930年代のイギリスのコーンウォール地方で、ある70代の女性が孫の年齢ほどの青年に恋をする話。出会いはラベンダーの咲く頃。いい年をして、となじる姉に、「私は恋愛も結婚もできなかった(戦争のために)」と言い返す。そんな時、青年との別れは突然訪る。青年の旅立ちを、苦しみながらも受け入れる老姉妹。短いけれど夢のようなひとときを過した2人は、冬が訪れる頃、青年の人生から立ち去ってゆく。

ラベンダー(英:Lavender)はシソ科の背丈の低い常緑樹であり、ハーブ、アロマセラピー、観賞用にされる。春に紫や白、ピンク色の花を咲かせる。紫色の花がもっともポピュラーであり、ラベンダー色とは薄紫色を意味する。原産は地中海沿岸といわれる。ラベンダーの語源はラテン語の「ラヴァレ(洗う)」からきており、古代ローマ人がラベンダーを入浴の際に使用していたことに由来する。

ラベンダーオイルは、手間ひまかけて約1年育てられたラベンダー150kgからほんの1Kgの精油しかとれないらしい。ラベンダーには墨汁のような香りを持つ「ボルネオール」という成分が含まれている。
映画『時をかける少女』(筒井康隆原作)で、西暦2660年の未来からケン・ソゴルがやってくる。ラベンダーの香りを利用して人間のタイム・リープ能力を引き出す薬品の実験中に、誤ってこの時代にやってきたのだ。この香り。今は亡き父を思い出す。父が使っていた整髪料が、ヒマシ油と蜜蝋で出来たポマードで香りはラベンダーだった。優しかった父の思い出につながるこの香りが今でも好きだ。
ラベンダーの香りが、においのきつかったポマードを連想させるため、不快に思う人も多いようだ。「ラヴェンダーの咲く庭で」も、同様に老人の恋を綴っており、こちらも評価が2分する。でも、年齢がどうであれ、別れは必ずやって来る。だれにでも心の痛手は訪れるのが宿命だ。


電車の中の道化師

2007-05-18 21:58:48 | プチ放浪 都会編

電車のドアが開いて、その二人の女の子は乗ってきた。車内の誰もが最初は珍しそうに、あるいは懐かしそうに見ていた。そして、その子たちにジロリと睨み返されるとあわてて目をそらすそんな感じだった。彼女達のまだらに光る白色のヘアーが、より一層、ガングロをよりガングロにひきたてている。口紅の白は、縁辺対比で唇に立体感を示しまさにメダツ。ミニスカートにお馴染み「厚底ブーツ」のいでたち。あの渋谷で死に絶えた山姥ギャルを久々に目の当たりにする非同時代性。恐さよりもむしろ懐かしさが先に来る。彼女たちのいる車内の光景はつかの間の違和感があったものの、電車が動き出しありふれた日常の再開。スゲェ風貌だが、都会では他人からの刺激感受性はすぐに鈍化していくのだろう。ギャル達はつり革につかまって「マジつまんねーシーッ」とか言い合っていた。

高田馬場を過ぎたあたりで、乗客の間で緊張が走った。それは電車の中に響いた怒号によるものだった。
「何ジロジロ見てんだよ? オォ? 眼球に液体ムヒ塗ってやろうか コラァァァ!!! おメェーなんてアレだ! カレーうどんの中にケータイ落とせっ!!」
見ると山姥ギャルの一人が、同じく新宿から乗ってきて近くのつり革につかまっていたサラリーマン風の男に吼えていた。
ガングロだから表情はよくわからないが、怒声からするとマジにぶちギレしているようだ。おそらく、その40代のサラリーマン風の男にガンを飛ばされたので、威嚇しているのだろう。

サラリーマン風の男は、始終、無言だった。男は、ジェスチャーで胸を押さえ、苦しそうにしてみせる。男のやや大げさな、どちらかといえばシャープな身振りに、最初は同情していた周りの乗客も彼のパントマイムを見るように見とれてしまう。男は無言で両手を目の前で合わせ、お願いのポーズをとる。
山姥ギャル達は、あっけにとられたように男を見つめ、そして手にしていたケータイの電源を切った。彼女達も男の身振りの意味するところに気づいたようだ。男の要求を受け入れてケータイの電源を切った山姥ギャル達の行動に、電車の中はみるみる緊張がとけた。そこのスペースにはあったかい空気が流れた。少なくともぼくは、自然と笑みがこぼれていたから、居合わせた乗客のほとんどが同じ気持ちだったのだと思う。ただ、乗客たちの中には、あいかわらず自分のケータイのメールを読み続けるものが多くいたのだが・・・・・・。

電車は、池袋の駅に到着し、男と山姥ギャル達は他の乗客に混ざって降りていった。
彼らが降りた駅のホームで、ぼくは、男と山姥ギャルたちが笑顔でハイタッチをするのを見逃さなかった。あわてて電車を降りて、彼らを追いかけようとするぼくの目の前で電車のドアが閉まった。ジャーナリストの端くれとして、彼らの話を聞くチャンスを逃してしまったことを後悔した瞬間だった。

彼らは、いったい何者だったのだろう。何の目的で、あんなパフォーマンスをしていたのだろうか?考えれば考えるほど、不思議だ。あの駅のホームで見せた彼らのハイタッチは、彼らが以前からの顔見知りで、しかも電車の中のイザコザがすべては筋書き通りの芝居だったことを物語っているとしか考えられない。一体、彼らは何故・・・・・・。

走りだした電車の窓越しに、ホームに並んだ男と山姥ギャルたちと目が合った。男は、ぼくに向かって深々と頭を下げた。山姥ギャルたちはミニスカートのすそを片手でちょっとつまみ、笑顔を振りまいた。まるでパリのオペラ座(オペラ・ガルニエ)で公演でもしたかのように(ry。


17歳のカルテ(Girl, Interrupted)

2007-05-17 20:28:59 | cinema

境界性人格障害(Borderline Personality Disorder, BPD)は、不安定な自己-他者のイメージ、感情・思考の制御の障害、衝動的な自己破壊行為などによって特徴付けられる、思春期あるいは成人早期より生じる精神障害だ。うつ病などの気分障害(感情障害)に似た症状を持つ。境界性というのは、神経症の症状と精神病(特に統合失調症)の症状の境界の症状から来ている。

この映画の原作は、1994年に出版されたスザンナ・ケイセンによる自伝。主演のウィノナ・ライダー自身も境界性人格障害で精神科に入院したことがあるらしい。そんな経験から、自らからこの映画の制作総指揮をしている。
大学に進学しないのは自分だけ、世間体を気にする両親にも理解されない17歳のスザンナ(ウィノナ・ライダー)は、多量のアスピリンとウォッカを摂取したことで精神病院に入院。衝動的な自己破壊の脆弱性をかかえ、スザンナの心は揺れ動く。 しかし病院で出会った女性入院患者たちとふれあうことで彼女は自分自身を取り戻す道の模索をはじめる。

感情はどこからくるのだろうか?神経細胞のニューロン間で信号(刺激)をやりとりするために必要な物質を神経伝達物質と呼ぶ。50種類以上の神経伝達物質が確認されているが、その働きが比較的解っているのは20種にすぎない。精神活動で重要なのはγ-アミノ酪酸(GABA-ギャバ)、ドーパミン、ノルアドレナリン、セロトニンなどだ。特にドーパミン、ノルアドレナリン、セロトニンは総称してモノアミン神経伝達物質と呼ばれるが、これらは情動(emotion)に大きく作用すると同時に脳内の多数の部分に大きな影響を及ぼす。
人を含めた動物は、何らかの刺激を受けるとまず大脳でその刺激を解析し、その信号は海馬に送られる。信号はさらに海馬から「パペッツの回路」と呼ばれる各部位をめぐる流れに乗り、そこで感情が生まれる。生まれた感情はふたたび大脳に取りこまれ長期記憶になる。

感情はモノアミン伝達物質の組成から成り立つ。悲しいけど、つらいけど、楽しくないけど、神秘的じゃないけど、それが事実。

脳内麻薬様物質(オピオイド)は交感神経系の興奮によって、GABA神経系から分泌されるエンケファリン、β-エンドルフィンなどを指す。これらはモルヒネなどの麻薬に極めて近い構造を持つ。オピオイドの大量分泌により、精神活動の麻痺や感情鈍麻といった状態に入る。これは、闘争も回避もできない深刻なストレスにさらされた動物(感情を持つもの)に、最期の救いをもたらす。精神活動の麻痺や感情鈍麻が起こり、現実感のなさが例えば死の恐怖から動物を救う。

長期間反復的に回避不能のストレスにさらされた動物(感情を持つもの)は、脳内オピオイド受容体の感受性が上昇する。そしてそのストレスが急になくなれば禁断症状を引き起こす。そのため、オピオイド受容体の感受性が上昇した生物は、自分で自分の命を危険に晒したり、リストカット(リスカ)など自分の身体や心を痛めつける強烈なストレスなくしては生きていけなくなる。

映画では、その治療として自分の体験、感情を思うままに書き綴ったり、絵として表現する方法エモーショナル・リテラシーが出てくる。自分の閉ざされた感情を再認識するだけでなく、感情の発散の仕方を学ぶことで脳内オピオイド受容体の感受性を低下させていくことができるらしい。

看護婦のヴァレリーがスザンナに、病気と立ち向かう方法を話すセリフ。

Susanna: How the hell am I supposed to recover when I don't even understand my disease?
Valerie: But you do understand it. You spoke very clearly about it a second ago. But I think what you've got to do is put it down.
Put it away. Put it in your notebook. But get it out of yourself. Away, so you can't curl up with it anymore.
 スザンナ: 自分で理解できない病気が回復すると思う?
ヴァレリー: 理解してるでしょ。今はっきりと口にした。それを書き留めなさい。あなたのノートに吐き出すの。そうすれば立ち向かえる。

最後に、どうしても書きたいこと。ぼくのブログへ訪れてくれた若い人たちへ。
「私は、あなたがひどく落ち込むたびに血の涙を流しました。私は、もう痛いのはヤです。これ以上私を切らないでください。お願いです、私をもっと大切にしてください。私だって生きたいんです。どうか私を見捨てないで下さい。もっとあなたに愛されたいんです。私は、あなたの手首です。」