司法書士内藤卓のLEAGALBLOG

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吸収型組織再編において対価を全て自己株式とした場合

2021-08-24 09:58:29 | 会社法(改正商法等)
 募集株式の発行等においては,交付された株式のうち,自己株式の処分に対応する部分は,その他資本剰余金としてのみ計上することができ,資本金及び資本準備金として計上することはできない。したがって,自己株式の処分のみの手続においては,資本金の額を増加させることはできず,登記事項の変更も生じない。

 しかし,吸収型組織再編において対価を全て自己株式とした場合においては,資本金の額を増加させることができる場合があり得る。

 この点,公刊されている書籍においては,

「吸収合併では,合併対価をすべて存続会社の自己株式とした場合でも,計算規則35条による場合には,自己株式処分益が出る限り(自己株式の帳簿価額を控除しても株主資本等変動額がプラスである場合),株主資本等変動額の範囲内で,資本金を増加させることができる。他の組織再編においても同様の整理がされている」(小松岳志・和久友子「ガイドブック会社の計算 M&A編」(商事法務)82頁)

「存続会社の資本金の額は,存続会社が株式を交付したときに限り,株主資本等変動額の範囲内で存続会社が吸収合併契約の定めに従い定めた額だけ増加する」(松井信憲「商業登記ハンドブック(第4版)」(商事法務)543頁)
※ さらりとした記述であるが,「株式を交付したときに限り」がポイントである。

「吸収合併の対価として吸収合併存続会社の株式をまったく交付しない場合には,資本金の額を増加させることはできない。ただし,「発行しない場合」ではなく,「交付しない場合」であり,募集株式の発行等の場合と異なり,自己株式の処分のみを行う場合であっても,資本金の額を増加させることが可能である(拙編著「会社合併の理論・実務と書式(第3版)」(民事法研究会)488頁)
※ 拙編著「会社分割の理論・実務と書式(第6版)」(民事法研究会)494頁)も同旨。

と解説されている。


 令和元年改正会社法において導入された「株式交付」においても,同様であるが,研修会やセミナー等のレジュメにおいて,「株式交付においては,対価として交付する株式が自己の株式であるとき(新株の発行を行わないとき)は,株式交付親会社において,登記事項の変更を生じないことになる」と記述していた。不適切であり,お詫びして訂正します。
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