学校法人の理事長が欠けた場合の「理事長の職務を代理する理事」に関する登記についての私見である。
寄附行為に理事長の職務代理に関する規定がある場合,理事長に事故があるとき(疾病による職務遂行困難等)や理事長が欠けたとき(死亡等)には,寄附行為の規定により,理事のうち理事長の職務を代理することが定められた者が理事長の行うべき職務を行うこととなる(私立学校法第37条第2項)。
私立学校法
(役員の職務)
第37条 理事長は、学校法人を代表し、その業務を総理する。
2 理事(理事長を除く。)は、寄附行為の定めるところにより、学校法人を代表し、理事長を補佐して学校法人の業務を掌理し、理事長に事故があるときはその職務を代理し、理事長が欠けたときはその職務を行う。
3 【略】
そして,この「理事長の職務を代理する理事」については,都道府県知事(私立学校法施行規則第13条第1項)又は文部科学大臣(同条第3項)に対する届出事項とされている。
私立学校法施行規則
(登記の届出等)
第13条 私立学校法施行令(昭和25年政令第31号。以下「令」という。)第1条第2項の規定により都道府県知事に届け出なければならない事項は、理事又は監事が就任したときに係るものである場合にはその氏名及び住所並びにその年月日、理事又は監事が退任したとき並びに理事(理事長を除く。以下この項において同じ。)が理事長の職務を代理し、又は理事長の職務を行うこととなつたとき及び理事長の職務を代理する理事が当該職務の代理をやめたときに係るものである場合にはその氏名及びその年月日とする。
2~4【略】
また,理事長が欠けた場合に「理事長の職務を代理する理事」が学校法人を代表して第三者と取引行為等を行うときは,当然のことながら,登記上代表権限が公示されていることが期待される。
cf. 「学校法人経営に関わる制度改正Q&A」by 日本公認会計士協会京滋会
https://www.jicpa-knk.ne.jp/download/image/hieiri_050223_qa.pdf
※ Q.12 ただし,私立学校法改正(平成17年4月1日施行)当時のもの。
「理事長の職務を代理する理事」は,私立学校法第37条第2項及び寄附行為の定めに基づいて代表権を有する理事であり,学校法人の代表権を有する者の氏名,住所及び資格は,登記事項(組合等登記令第2条第2項第4号)であって,登記の後でなければ,これをもつて第三者に対抗することができない(私立学校法第28条第2項)。
私立学校法
(登記)
第28条 学校法人は、政令の定めるところにより、登記しなければならない。
2 前項の規定により登記しなければならない事項は、登記の後でなければ、これをもつて第三者に対抗することができない。
それでは,「理事長の職務を代理する理事」を登記実務上,どのように取り扱うべきかであるが,学校法人の理事長等の登記については,次のとおりである。
① 代表権者としては,原則として理事長の氏名及び住所を登記する。ただし,寄附行為の定めにより理事長以外の理事に代表権を付与すれば,当該理事についても登記を行う。
② 登記事項としての代表権を有する者の資格は,理事長については「理事長」,理事長以外の理事についてはすべて「理事」として登記する。
③ 理事長以外の理事について登記する際には,寄附行為により定めた当該理事の「代表権の範囲」も併せて登記する。
④ 代表権を有さない理事については,登記しない。
cf. 「私立学校法の一部を改正する法律の施行に伴う法人登記事務の取扱いについて(通知)」(法務省民商第496号平成17年3月3日法務省民事局商事課長通知)
一つの考え方としては,理事長の辞任,死亡等による退任の登記と同時に,「理事長の職務を代理する理事」の氏名,住所及び資格(「理事」である。)を登記すると共に,代表権の範囲を「理事○○は,理事長の職務を代理して,この法人を代表する」と登記することができるという取扱いをすることも可能であると考えられる。改正私立学校法施行当時の上記商事課長通知(1(3)理事の職務)もそれを許容しているように読める。
しかしながら,システム上の問題で,登記上理事長が空席の状態で,上記のような登記をすることはできないようである。
そうであるとすれば,理事長の辞任,死亡等による退任の登記を留保した状態で,「理事長の職務を代理する理事」に関する登記を行わざるを得ないことになる,登記申請は,「理事長の職務を代理する理事」が代表権限に基づいて行えばよい。
この場合,退任した理事長の退任の登記は,後任の理事長の就任の登記と同時に行うことになる。
本来,理事長が欠けた場合,後任の理事長を速やかに選任すべきであるが,何らかの事情により選任することができない場合もあり,「理事長の職務を代理する理事」に関する登記が必要なこともあり得ると考えられる。
cf. 東日本大震災の発生に伴う私立学校法に定めのある規定の留意点等について(平成23年4月13日)
http://www.shidairen.or.jp/blog/files/doc/kitei-ryuui.pdf
繰り返すが,「理事長の職務を代理する理事」は,代表権を有する理事であり,登記しなければならない事項は,登記の後でなければ,これをもつて第三者に対抗することができない(私立学校法第28条第2項)のであるから,「理事長の職務を代理する理事」を登記できない状態又は「退任した理事長の退任の登記を留保する」状態は,好ましくない。
商業・法人登記制度は,商号,会社等に係る信用の維持を図り,かつ,取引の安全と円滑に資することを目的とする(商業登記法第1条)のであるから,速やかに,システム上の問題がクリアされるべきである。
それまでの間は・・・登記留保を採らざるを得ないであろう。