法学協会雑誌108巻9号1527頁以下(1991年)に,内田貴教授の下記最高裁判例に関する判例評釈がある。曰く,
「以上の判旨の論理に対して,評釈者はやや根本的な疑問を抱く。すなわち,なぜ裁判所は理事会への代理出席に関する「規約」の内容に介入することができるのか,という疑問である。この点を考える上で,よく挙げられるのは,株主総会については議決権の代理行使が明文で認められていること(商法239条3項。区分所有者の集会についても区分所有法39条が代理人による議決権行使を認めている。),及び取締役会については学説上代理人による議決権行使は認められないと解されていること(新版注釈会社法(6)111~112頁(堀口亘),鈴木=竹内・会社法(新版)255頁等)である。後者は学説上一致して認められており,上告理由もこれを指摘している。しかし,ここで注意を要すると思われるのは,学説の議論は,取締役が任意に代理人を出席させる場合を想定しており,定款や株主総会決議で代理人の出席を認めた場合の効力を論じているわけではない,ということである。
むしろ,原理的には,いかなる法人といえども,法律の明文で規制されていない限り,会議体への代理出席の可否をどうするかはその自治の範囲内の問題だという考え方も十分成り立つ(法的構成としては104条の趣旨が妥当するからということになる。)。もちろん,一般の契約の場合と同様,裁判所による介入が求められる場合もあろう。しかし,それは「公益」なり「株主保護」なりの,より高次の法律上の目標を達成するためであって,たとえ法人の場合といえども,「委任の本旨」をふりかざして委任者の意思に自由に介入できる理由はないように思われる。従って,会社と取締役の関係が委任契約の一種であり,定款・株主総会決議が委任者の意思に相当することを肯定する限り,取締役会についてさえ,代理出席を認める定款・株主総会決議は原則として有効と言うべきではないか。」(上掲内田1534頁以下)
「裁判所による介入」の是非が主眼であるようだ。
例えば,ある事業部門の担当取締役が取締役会に出席することができなくなったため,当該事業部門の部長等の担当者が説明のために取締役会に出席することはあり得ると思うが,単にオブザーバーとしての出席という扱いをすればよく,代理出席者として定足数にカウントして,いわゆる一票を投じさせる必要性は現実にはほとんどないように思うのだが。
cf.
平成29年3月13日付け「取締役会における議決権代理行使は許されないのか」
最高裁平成2年11月26日第2小法廷判決
http://www.courts.go.jp/app/hanrei_jp/detail2?id=52470
【判示事項】
区分所有法47条2項の管理組合法人の理事会への理事の代理出席を認める規約の定めが違法でないとされた事例
【裁判要旨】
区分所有法47条2項の管理組合法人の規約中、理事に事故があり、理事会に出席できないときは、その配偶者又は一親等の親族に限り、その理事を代理して理事会に出席させることができる旨を定めた条項は、違法でない。
「法人の意思決定のための内部的会議体における出席及び議決権の行使が代理に親しむかどうかについては、当該法人において当該会議体が設置された趣旨、当該会議体に委任された事務の内容に照らして、その代理が法人の理事に対する委任の本旨に背馳するものでないかどうかによって決すべきものである」