12/26(日) 6:31配信 東洋経済オンライン
新型コロナによる死亡と要介護との関係について検証しました(写真:kazoka30/istock)
新型コロナウイルスの新たな変異型「オミクロン株」の影響は限定的だとの見方が広がる一方、感染拡大懸念は依然として残り、医療関係者は警戒を続けざるをえない。
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メディカル・データ・ビジョン(東京都千代田区)が保有する国内最大規模の診療データベースを調べたところ、国が緊急事態宣言を発令した2020年4月から2021年夏以降の、いわゆる感染拡大の第5波を経て同宣言が解除された9月までに、3755事例のコロナ患者の死亡を確認した。
■介護が必要な人ほどコロナで死亡していた
この調査では、2次利用の許諾を得ている急性期医療を提供する全国458病院の診療データベース(実患者数3821万人、2021年11月末日集計)を用いた。このうちの451病院、2020年4月から2021年9月までの患者約1364万人を対象に、退院日が2020年4月1日以降の新型コロナ患者の死亡事例を抽出した。
男女比は6対4、救急車で搬送された人は6割近くだった。入院時の並存症(併発疾患)は2型糖尿病がトップだった。
年代別の詳細を見ると、80代が最多で1521人(40.5%)、次に多いのが70代で948人(25.2%)、さらに90代が751人(20.0%)だった。また、100歳以上が33人(0.9%)、60代が339人(9.0%)、50代が120人(3.2%)、40代以下が43人(1.2%)となった(下図)。
今回の調査でわかったのは、死亡事例は同年代と比較して介護が必要な人の割合が高いということだった。3755人のうちの1689人は介護(支援含む)が「必要なし」だったが、残りの半数超が介護保険制度の、日常生活で支援が必要な「要支援」や介護が必要な「要介護」だった。
同制度では、寝たきりや認知症などで常時介護を必要とする状態(要介護)だったり、家事や身支度といった日常生活に支援が必要で、特に介護予防サービスが効果的な状態(要支援)だったりしたときに、介護予防や介護で、それぞれのサービスを受けることが可能だ。
要介護認定は、介護予防や介護サービスの必要度で判断される。
調査の結果、「要支援1」「要支援2」の死亡事例は、それぞれ96人と111人となり、段階的に増えていた。また、「要介護」は5段階に分けられ、1から5まで数字が増えるにつれて介護サービスの必要度が高くなるが、調査結果では「要介護1」の死亡者数は265人、「要介護2」は同322人に上った。さらに「要介護3」(312人)、「要介護4」(316人)、「要介護5」(273人)と高水準だった。
そこで、この調査結果をさらに詳しく分析して、年齢階級別の死亡事例の要介護の割合と、介護保険制度の要介護認定率を比較した。
■要介護者の死亡者数が多いのは想定できた
要介護認定率は、介護保険事業状況報告(2019年9月末認定者数)と総務省統計局人口推計の同年10月1日の人口から算出した。同制度の要介護認定率が、75歳から79歳までが12.5%、80歳から84歳までが27.2%、85歳以上が60.6%となる一方、年齢階級別の死亡事例の要介護の割合は、それぞれ34%、45%、66%となり、総じて要介護認定率を上回った。
淑徳大学総合福祉学部(千葉市)の結城康博教授に調査結果を分析してもらうと、「高齢者のなかでも、特に85歳以上の生活環境などを踏まえると、要介護の人の死亡者数が多いのは想定できることだった。健康な70歳と要介護の85歳などとは、コロナ感染後の対応が食生活と病院へのアクセスの点で大きく違ってくる」と言う。
結城教授は、「要介護の人は体力も衰えているうえ、必要な栄養を摂取するのも困難になる。家族の介護者がいないことによる"家の介護力”の低下が指摘されており、要介護の85歳となれば、独居や老々介護のケースも出てくる。認知症の人や徘徊する人、さらには車いすの人も増えるので、自分で健康管理をする自助の力が低下している」と解説する。
その上で、結城教授は来るべき第6波に向けて、このように訴える。
「これまでのコロナ禍では、デイサービスと呼ばれる、施設に入所せず昼間に日帰りで利用できる通所介護サービスの利用控えがあったと聞く。その結果、あまり外に出ていかなくなり外部と遮断され、通院もしなくなり治療が遅れてしまうことがあった。第6波が本当に来るかはわからないが、要介護の人、さらには認知症の人を円滑に入院させる体制を整備することが大事になる」
救急車で搬送された人は、死亡事例3755人の約6割にあたる2184人だった。医師の診察などの結果、緊急入院が必要であると認めた理由については、救急医療入院該当患者とされた2528人のうちの8割が「呼吸不全、または心不全で重篤な状態」で、最も多かった。その次に「吐血、喀血(かっけつ)、または重篤な脱水で全身状態不良の状態」(238人)、「意識障害、または昏睡」(128人)などと続いた。
コロナの最前線で奮闘する医療現場は「第6波」を警戒し、いつまでたっても息を抜けない。
■コロナ患者が行き場をなくしてしまう
東京都足立区で等潤病院を運営する社会医療法人社団慈生会の伊藤雅史理事長は、「これまでの教訓を生かして、入院すべきコロナ患者の治療優先度を決めるトリアージを明確にし、自宅や施設で急性増悪した患者の搬送ルールを決めて受け入れ先を確保しなければ、感染爆発ともいえる第5波の時と同じ混乱を繰り返してしまう」と憂慮する。
等潤病院は2度のクラスター(感染者集団)の発生を経験したが、感染対策を徹底し、早期に封じ込めた。周辺病院でコロナ疑い患者の受け入れ困難な状態が続くなかで、積極的に救急搬送を受け入れてきた。
2020年8月末、1回目のクラスターが発生。院内からは「周りの病院が怖じ気づいて、コロナ疑い患者を引き受けないのに、どうして当院だけが受け入れるのか」との反発もあった。
それに対して伊藤理事長は、「発熱の患者はコロナ疑いだけではない。うちが引き受けなければ患者は行き場をなくしてしまう。2次救急病院の役割を果たし、足立区を含めた近隣の最後の砦となるためには引き受けざるをえない」と説明し、受け入れを継続した。
ところが、若年層の感染が急拡大した第5波は想定を超えた。2021年7月から8月にかけて救急搬送件数は急増し、8月2日から8日の1週間だけで98台を受け入れた。それ以降もできる限り受け入れ続けたが、救急要請のうち何台を受け入れたかの割合を示す「救急搬送応需率」(応需率)は一気に下がり、2割を割り込んだ。
対応できる病床が足りなくなったことに加えて、受け入れ要請が急増したため、通常、8割程度の応需率が急低下したのだ。
伊藤理事長は「当院はコロナ疑い患者を受け入れる医療機関のはずだったが、第5波ではコロナ患者を受け入れざるをえなくなった。救急車は遠い所では東は千葉市、西は西多摩から、足立区にある当院まで受け入れ要請があった」と当時を振り返る。
今回の調査では死亡事例の併発疾患(※)も調べた。併発疾患のトップは、2型糖尿病の768人で、その後に、高血圧(616人)、慢性腎臓病(302人)などと続いた。
首都圏を中心に在宅医療を提供している医療法人社団悠翔会の佐々木淳理事長・診療部長は新型コロナに対峙し、患者の治療にあたった約2年間を振り返り、ちょうど1年前の第3波が一番厳しい時期だったと述懐する。
「新型コロナが“未知のウイルス”で、事前情報として高齢で多疾患の人の重症化・死亡リスクが高いことが明らかだったので、非常に慎重に対応し、第1、2波を乗り切った」
最初のうちは、要介護高齢者などのハイリスク感染者は原則入院で対応してきたが、第3波で状況は大きく変わったという。
「ハイリスク感染者も容易には入院できない状況となった。われわれは高齢者施設での感染者の療養支援を続け、助かる可能性が低くなり、患者やその家族が入院での最期を希望しなければ、自宅や施設で看取ることも経験した」
■ワクチンがゲームチェンジャーになった
ただ、年が明けて2021年に入り、春先になるとコロナ感染が収束し、施設などでのクラスターの発生頻度が低くなっていった。この頃の大きな変化を佐々木氏はこう話す。
「ワクチンが偉大なるゲームチェンジャー(物事の状況や流れを一変させる人やもののこと)となったのは間違いない。第3波は治療法が確立されず、重症化を防いだり、死亡率を下げたりする抗ウイルス薬などの武器がまだなかった。しかし、第4波の頃には、施設入所者のワクチン接種が進み、コロナ感染が拡大していた施設がこれまでとは逆に、安全地帯となった」
第5波になると、コロナ患者を受け入れる病院が見つからない事態はより深刻になった。そういったときに在宅医が引き受け先の決まらないコロナ患者を乗せた救急車の救急隊員から呼ばれ、その患者を家に戻したうえで在宅酸素療法をしたこともあった。
悠翔会は第5波のときに450人を超えるコロナ患者を在宅で診た。そこで驚くべき事実があった。採血した患者の58%が糖代謝異常で、糖尿病かその予備軍だった。そのうち半数が、自分が糖尿病かその寸前の段階であることを知らなかった。普段から健康管理をしていない平均年齢約40歳の人たちに、重症化するケースが見られた。
佐々木氏は改めて、かかりつけ医の大事さを痛感したという。
「日本にはたくさんの医療機関があり、一見、国民は健康管理ができているようにみえる。ところが、それは病気になった後にきちんとフォローされているだけで、若い人のなかには健康診断も受けていない人もいる。どうしたら感染から身を守れるのかなどについて気軽に相談でき、必要な医療にきちんとつなぐ“インターフェイス”としてのかかりつけ医が必要で、トータルでいうと健康へのリスク、健康コストも下げられるだろう」
君塚 靖 :えむでぶ倶楽部ニュース編集部 記者
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