老人の姿で2月17日1時45分~4時45分、CSテレビのムービープラスでで観た。
歳を取りながら若返る男。その生涯を壮大に映し出す!
一生に一度の出逢い― 生涯、心に残る感動作の誕生。 それは、80歳で生まれ、年を取るごとに若返っていく数奇な運命の下に生まれた、ベンジャミン・バトンの物語。 一瞬、一瞬を、大切に生きていますか―? 全ての出逢いを、胸に刻んでいますか―? これは、そうせずには生きていけない、特別な人生を送った男の物語。彼の名は、ベンジャミン・バトン。80歳で生まれ、若返っていった男。
20世紀から21世紀にかけて、変わりゆく世界を旅した男。どれだけ心を通わせても、どれほど深く愛しても、出逢った人々と、同じ歳月を共に生きることができない、その運命。 ―それでも、人生は素晴らしい― 主演はブラッド・ピットとケイト・ブランシェット。
「グレート・ギャッツビー」のF・スコット・フィッツジェラルドの短編小説を『セブン』『ファイト・クラブ』のデビッド・フィンチャー監督が映画化。 あなたも、ベンジャミンの瞳で世界を見れば、人生を愛さずにはいられない。
フィッツジェラルドの短編小説を原作にした、異色のヒューマン・ドラマ。ファンタスティックな物語に加え、VFXを駆使したブラッド・ピットの若返り描写にも目を奪われる。
VFX (ブイエフエックス)とは、視覚効果 を意味する英語ビジュアル・エフェクツ (英 : visual effects ) の略で、映画 やテレビドラマ などの映像作品において、現実には見ることのできない画面効果を実現するための技術のことを指す。
1816年、ニューオリンズ。老人の姿で産まれて、慄いた父親に捨てられた新生児。黒人女性に拾われてベンジャミン・バトンと名付けられた彼は、歳を重ねるごとに外見が若返っていくように。
船乗りとなり、戦争にも出征し、運命の女性デイジーと結ばれるが。
80代の老人として生まれ、成長するにつれ若返り、最後は赤ん坊として死んだ1人の男の数奇な人生を悠々と綴った愛の物語「ベンジャミン・バトン/数奇な人生 」。
08年度のアカデミー賞で、作品賞、監督賞、主演男優賞を含む最多13部門のノミネートを受けた本作について、タイトルロールを演じたブラッド・ピット、ベンジャミンの生涯を最後まで見届ける最愛の人デイジーに扮したケイト・ブランシェット、そして監督のデビッド・フィンチャーに話を聞いた。(取材・文:森山京子)
ブラッド・ピット インタビュー 「あとどのくらいの時間が残されているのかを意識するようになった」
ブラッド・ピットは自身初のアカデミー賞主演男優賞のノミネートとなった
──アカデミー賞ノミネートおめでとうございます。
「ありがとう。このノミネーションはみんなの努力の結果だから、みんなで喜んでいるんだ。この映画は演技、音楽、撮影、編集、脚色、そして演出、あらゆるレベルで成果を上げて、素晴らしく価値ある作品になったと思う。だから出来るだけ多くの人に、何度も何度も見て欲しいね」
アンジー、ブラッド・ピット、フィンチャー監督 (1月29日のジャパンプレミアにて)
──デビッド・フィンチャー監督は、2001年からこの映画に取りかかったと話していますが、あなたもその頃からプロジェクトに加わっていたのですか?
「実際に参加したのは撮影が始まる1年半くらい前からだけど、もちろんこの企画はいつもデビッドと話していたよ。彼は、1人のキャラクターの出生から死までを追いかけ、その人生がどのようになっていくか責任を持って見て行きたいと言うんだ。人が成長していくような印象を観客に残すべきだって。だから僕はこのベンジャミン・バトンを演じたいと思ったんだ」
──あなたは「ベンジャミン・バトン 」をどのように見ているのですか?
「僕たちはこの限りある人生というものについて良く話したよ。企画を練っている間に、デビッドは父親の死を体験した。エリック(・ロス=脚本家)も母親の死について話していたし、撮影中にはアンジーのお母さんも亡くなったからね。そういうことに普通はあまりフォーカスしないものだよね。ホスピスで働いている友人に聞いたんだけど、最後の数日間に患者たちが話すことは、愛や喪失についてだけだというんだ。成功や業績じゃなく、愛をどのように扱って来たかに関しての後悔。それだけしか話さないというんだ。死ぬ運命だからこそ、人間は愛したいんだ。それこそがこの映画がフォーカスしているところなんだ」
母方の祖父に似ているとのこと
──ベンジャミンを演じたことで学んだことはありますか?
「僕にはあとどのくらいの時間が残されているのかを意識するようになった。そしてその時間を大切に使いたいと思うようになった。家族と、大事な人々と過ごしたいと。それから周囲の人を違う目で見るようにもなった。誰もがその人なりのストーリーを持っている。驚くほど素晴らしい瞬間を持っている。その瞬間がその人の存在になり、人生になっていくんだってことを思い出させてくれた」
──老人顔のシーンが長いですね。特殊メイクが大変だったでしょう?
「あの顔が出来るまでには随分時間をかけて何度もテストをしたんだよ。最終的に決まった顔を鏡で見てびっくり。僕の母方の祖父に似ているんだ(笑)。メイクのために毎朝3時に起きるんだから大変は大変だけど、でも思ったほどじゃなかった。ただ座っているだけだから新聞を読む時間が増えたり、贅沢な面もあったよ」
──今より若い時を演じるのはチャレンジでしたか?
「若い時期というのはすでに体験してきているから、年を取る方がもっと想像力が必要だったよ。過去より未来のほうがチャレンジングだと思うよ。ベンジャミンは見た目と実年齢にギャップがあるから、常に本当の年齢を計算して意識しなくちゃいけない。セットで一番大変だったのはそれだね」
──フィンチャー監督と組むと、いつもあなたの可能性が広がります。彼のことをどう思っているんですか?
「映画を作る時に一番大切なのはストーリーテラーだ。その最も偉大な1人を見つけたってこと。しかも彼は僕の友人でもある。ラッキーとしか言いようがないね」
文字通り逆さまに人生を生きていくベンジャミン・バトンと運命的に出会い、彼の奇妙な人生をまるごと受け止めて生きていくデイジー。そんな複雑な役に挑んだオスカー女優ケイト・ブランシェットに、デイジー役へのアプローチの仕方や撮影の苦労などを聞いた。(取材・文:森山京子)
ケイト・ブランシェット インタビュー 「人は愛すれば愛するほどより人生を生きるようになる」
若き日から86歳の老女になるまでのデイジーを1人で演じきった
──完成した作品はもうご覧になりましたか?
「実は夕べ初めて見たの。撮影からすごく時間が経っているから、その時の経験は忘れて、素直に観客の1人として見ることができた。そして自分がこの映画の一部であることを心から誇りに思ったわ。これはまさにテクノロジーが物語を語るために使われている映画よ。デビッド・フィンチャーは潜在的に不可能で空想的な物語を 、すごく現実味のあるものに仕上げてみせた。だからとても深い感情に溢れているのよ」
ケイト・ブランシェット (LAプレミアにて)
(C)Kaori Suzuki
──デイジー役をオファーされた時、どう思いましたか?
「フィンチャー監督とブラッドが何かの企画について話したいと言ってきたら、そのミーティングに参加しないなんてあり得ないわ。エリック・ロスと脚本を練る作業もエキサイティングだったし、こんなに特別なこと──6歳から86歳まで演じられる役──は他にないと思ったわ。子供時代の声も私がやっているの。普通なら4、5人の俳優を使うところを1人で通してやるというのはかなりの挑戦よ」
──デイジーにはどんなふうにアプローチしたのですか?
「彼女を客観的に見るのは難しいわ。この映画の野心やハートは余りにも大きくて、K2(世界第2位の山。標高は8611メートル)にアタックするような経験になると感じていたの。一体どうやればそこに登れるのか、皆目見当がつかなかった。もちろん脚本を読めば、どんな作品になるか、デイジーがどんな人間でどう演じればいいか分かるわ。でもそれだけじゃこの映画の芸術性を大事にすることにならないのよ。脚本から離れて何か他のポイントを探す必要があると思ったの。でまず、自分の人生のすべての大きな出来事を再検証したわ。それを一旦放り出して、今度はデイジーの人生の出来事をチェックしたの。彼女の転機は交通事故が起きて体がダメになった時よね。私も20代の後半に似たような体験をしていて、その時の感覚、感情はとてもよく覚えているの。そういうことから、デイジーにアプローチして行ったのよ」
──その感覚というのは具体的にどんな状態なんですか?
睡魔や時間との戦いだったという本作の撮影
「若い時は自分が永遠に生きるように感じているから、なんでも出来るし、傷つきにくいと思っている。でもそのフィーリングは今の私にはもうないの。デイジーも事故の後でそれを失うのよ。人は愛すれば愛するほどより人生を生きるようになるし、たくさんのものを失うという事実も知っていくのよ」
──演技面で最大のチャレンジは何でしたか?
「スタミナを保つことかしら。だって大がかりなメイクをする日は朝4時半入りなのよ。そして強烈に暴力的な韓国映画を見ながら椅子に座ったまま眠りに落ちる(笑)。目を覚ますともう11時で、特殊メイクが崩れないうちに撮らなきゃいけない。時間のプレッシャーも相当あったわね」
──老けメイクはいかがでしたか?
「特殊メイクの影で見落とされがちだけど、照明の効果も大変なものなのよ。監督は時に女優に不親切に照明を当てることがあるけど、そう言うとき、彼女は10歳は年老いるの。だからデビッドもそうしたわ(笑)」
ブラッド・ピットとは、出世作「セブン 」「ファイト・クラブ 」につづいて3度目のコンビとなるデビッド・フィンチャー監督。上記2作以外にも「ゲーム 」「パニック・ルーム 」「ゾディアック 」といったダークな犯罪映画で知られるフィンチャー監督が、奇妙な人生を綴った本作に惹かれた理由とは? PRのために来日した監督を直撃した。(取材・文:編集部)
デビッド・フィンチャー監督インタビュー 「この映画でも今まで通り結構な数の死体が出てくるよ(笑)」
──本作は、F・スコット・フィッツジェラルドの短編が原作でした。今まで多くの犯罪映画を手掛けてきた監督が、このストーリーに惹かれたのはどんなところなのですか?
「まあ、この映画でも今まで通り結構な数の死体が出てくるんだけど(笑)、生と死についてのメディテーション、そしてすごいラブストーリーがあるってことだよね。原作については正直あまりわからない。なぜなら僕が読んだのはエリック・ロスの脚本で、僕らが映画を作り始める直前、05年くらいまで原作は読んだことが無かったんだ」
12年ぶりに来日した デビッド・フィンチャー監督
──そのエリック・ロスが脚本を書いた「フォレスト・ガンプ/一期一会 」と本作は、ともにアメリカ南部を基点に主人公が各地を飛び回る年代記でした。
「うーん。たしかにそうだけど、元々この『ベンジャミン・バトン 』はニューオーリンズではなくて、東海岸のボルチモアが基点の話だったんだ。だから、ボルチモアで撮ろうと思ってたんだけど、中々いい感じの古い街並みが見つからなくてね。それで、ニューオーリンズに戻ったら、1920年代を思い起こさせる古くて美しい街並みがたくさんあって、気に入ってしまったんだ(笑)。結局ハリケーン・カトリーナのあとの7カ月をニューオーリンズで過ごしたわけだけど、あそこより他に完璧な場所は無かったと思う。エキストラのみんなもすごく協力的だったしね」
──本作にはどのように関わることになったのですか?
「最初にこの映画の話を聞いたのは、1991年から92年頃。そのときはスティーブン・スピルバーグが映画化権を持っていてトム・クルーズ主演で撮るという話だったんだ。その後、スピルバーグとトムの話は消えて、僕の友達のスパイク・ジョーンズが監督をやるっていう話を聞いた。でもスパイクも結局は監督を引き受けずに企画から去っていった。そのあとにエリック・ロスが入ってシナリオをリライトして、それを読んで気に入った僕が入ることになったんだ。エリックのシナリオは素晴らしかったからね。それで、エリックとプロデューサーのフランク・マーシャル&キャスリーン・ケネディ夫妻と僕の4人でどう撮るかについて話し合いを始めたんだ」
──そのときに話し合った主な内容は?
「エイジング──いかに年をとるか、ということだよ。だけど、僕は特殊効果、ビジュアル・エフェクト出身だから、彼らに心配しなくていいと言ったんだ。彼らも画期的な特殊効果のある映画にたくさん関わっているから、信頼してくれたよ」
──「ゾディアック 」も2時間32分と長尺でしたが、今回はさらに15分長い2時間47分でした。最近は意識的に長尺の映画を撮っているのですか?
「次は3時間を超える映画を目指すよ(笑)。というのは冗談として、この映画は男の一生をまるごと描いているから、やっぱり必然的に長くなる。エリックの書いたシナリオは204ページくらいあって、普通に撮ったら3時間24分の映画になるんだけど、これを2時間47分にしたんだから、僕らにしてみれば、最短時間に縮めたようなものなんだ。別に意識的に長くしようといているわけでもないんだよ」
──本作を見ている間、ベンジャミンが老人のとき(=小さいとき)は、スローで時間が長く感じられ、大人になっていくごとに、テンポが早くなっていったように感じられましたが、それは意図的に演出したのですか?
「10歳の子供が感じる1日の長さは45歳の人間が感じる1日の長さと違うといったような“感じ方”の違いについてだよね。もちろん言っていることはよく分かるけど、意図的にやったわけではないんだ。エンディングなんかは念入りに仕上げたシーンがあったんだけど、最終的にはカットして、最も簡潔なものを選んだんだよ」
──ブラッド・ピットとは3度目のコンビですが、やはりドン・シーゲル&クリント・イーストウッド、マーティン・スコセッシ&ロバート・デ・ニーロのような関係を意識していますか?
「ブラッドはあんまり働かないからね(笑)。彼がたくさん仕事をする気になれば、これからいくらでも一緒に映画を作れると思うけど、どうなるだろうねえ」