新型コロナウイルスのワクチンを2回接種した人が、国民全体の7割近くになり、効果も見られるようになっている。その一方で「副反応」に対する不安の声があがっている。厚生労働省によると、「接種後に死亡」と報告された人は1100人を超えるが、99%が「情報不足などで因果関係を評価できない」とされ、ワクチンによる副反応か否か判断できない状態となっている。 国はどう副反応を調べているのか。国内外の取材を通して、疑問をひとつひとつ明らかにし、今後どんな仕組みが必要か、考えたい。
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NHK
コロナワクチン接種後に死亡 99%"因果関係不明"はなぜ?
保里:新型コロナワクチンを2回接種した人は、8,600万人を超えました。全国的に新規感染者数が減るなど、ワクチンの効果が見られています。
井上:その一方で、ワクチン接種後に亡くなったと報告された人は、これまでに1,190人(9月12日時点)。そのうち、99.3%が接種との関連が評価できないとされ、疑問の声が上がっています。
普段、国内では病気などで亡くなる人は1日に3,000人以上。ワクチン接種後の死がワクチンによるものなのか、それとも他の要因によるものなのかを見極めるのはきわめて難しく、世界中でも調査や分析が続いています。
保里:なぜ難しいのか、まずは日本の現状を取材しました。
「ワクチン接種と死亡」 因果関係は"評価不能"?
ことし5月、おばをなくした男性に取材しました。91歳だった、れいこさん(仮名)。毎週出歩くほど活動的でしたが、自宅で心肺停止の状態で見つかりました。
親族を亡くした男性
「おばは定年まで小学校の先生で、お茶(茶道)が好きだった。元気だったことは間違いないと思います」
遺品整理のため自宅を訪れた際、あるものに目が留まりました。
親族を亡くした男性
「カレンダーを見たら、亡くなったのは新型コロナのワクチンを接種した翌日だった。非常にやっぱり気になりました。ワクチンを打った翌日に亡くなったことは、何かやっぱりワクチンと関係があるのか」
男性は手がかりを探そうと、自分で情報を集め始めました。
親族を亡くした男性
「(国内で通常)1日3,000人の方が亡くなるとすれば、その中で90を超えた高齢者の場合だったら多いんだろうな。老衰か、しかし何歳になってどうなったら老衰というのか。そんなこと素人にはわからないですよね」
行き着いたのが、厚生労働省の公開資料。ワクチンの接種後に亡くなったと報告された人たちのリストです。その中に、れいこさんとみられる記述がありました。記されていたのは、たった一行。ワクチン接種との因果関係については「γ(ガンマ)=情報不足などで評価できない」とされていたのです。
さらにほかの死亡例も見てみると、1,190人のうち、評価不能は99.3%に上っていました。
親族を亡くした男性
「評価できない、評価できない…。本当に調べてくれているんですかね。何を調べた結果、因果関係が評価できないといっているのか。ガンマという記号一つで受け入れろというのは、無理がありますよね」
なぜ、因果関係が評価できないのか。れいこさんの死亡を警察とともに確認した医師です。
(話)れいこさんの死亡を確認した医師
「警察からは、(ワクチンを)打ったという話は聞いてなかったんですよね。今まで警察からワクチンを打った打たないということを、ひと言も言われたことないですね」
自宅で亡くなった場合、事件性を疑われなければ遺体が解剖されることはほとんどないといいます。れいこさんは解剖されないまま、火葬されていました。もし解剖が行われれば、ワクチンとの因果関係は特定できていたのか。法医学の専門家は、個別の死とワクチンの関連を調べるのは困難だと指摘します。
徳島大学 西村明儒教授
「個人個人の人で、ワクチンを打ったあと突然死をした。その突然死が偶然起こったことなのか、それともワクチン接種と関係があったのか。その検査方法がまだ明らかでないというところが、非常に難しい」
解剖で行うのは、死因の特定です。しかしその死因がワクチンで引き起こされたのか、ほかの要因で起きたのか、それを見極める手法は各国の研究でも明らかになっていません。
西村明儒教授
「死因が決まる。そこから先のワクチン接種との因果関係ということになってくると、なかなかその解剖所見だけでは難しいと思います」
ワクチン副反応検証 国の仕組みは?
個別のケースを掘り下げても解明できない、ワクチン接種と死との関連。国は何を明らかにしようとしているのか。その調査の現場に、初めてカメラが入りました。
行われていたのは、医師や製薬会社などから、死亡以外も含めた多くの症例を集める作業です。
国が設けている「副反応疑い報告制度」。
集まった症例を、複数の外部の専門家などで分析。国の検討部会では、特定の症状だけが増えていないか、年齢や歴などに共通点はないか傾向を見つけ出そうとしています。
分析のために必要なのは、情報の精度の高さです。報告を集めるこの専門機関が、病院などにも問い合わせます。
PMDAスタッフ
「副反応疑い報告書について、お伺いしたい点がございまして」
「1つの症例も無駄にしないということ、それから迅速な対応が求められますので、24時間受け付け、土日休日も体制を組んで(報告が)遅れないようにしている」
接種との関連を調べるために集めた報告は、のべ4万件。この報告を受ける、国の副反応検討部会。医師や感染症の専門家など、15人が分析します。
20回にわたり会議を重ねてきましたが、今のところ接種と死亡との関連は見つかっていません。ただ、関連がないとも断定できないため、死亡例の99%を「γ(ガンマ)=評価不能」とせざるをえなかったのです。
検討部会の森尾友宏部会長。今は評価ができなくても、検証を続けていくしかないと考えています。
厚生労働省 副反応検討部会 森尾友宏部会長
「将来的に、関連があると分かってくることも可能性はあると思います。情報を集めながら、知恵を集めながら進めていきたい」
保里:日本の副反応評価の仕組みについてまとめた記事は、以下のリンクからもご覧いただけます。
井上:医師で副反応検討部会で部会長を務めている、森尾友宏さんです。どうぞよろしくお願いします。森尾さん、まず99%評価できないとなってしまうこの現実、どう捉えていますか。
森尾友宏さん (厚生労働省 副反応検討部会 部会長)
森尾さん:まず評価不能となっていることに関しては私たち本当に心苦しく、もどかしく感じています。ただVTRでもありましたように、因果関係の判断というのは世界的にも非常に難しい状況です。
井上:そういう中でも国は「健康被害救済制度」という制度を設けていまして、一定の因果関係が認められたら医療費などの支払いなども進めている状況ではありますよね。
森尾さん:ご指摘のとおりです。これは別の部会で対応してる事業になります。私たちの部会の使命としましては、やはり兆候をつかまえて集団として解析をし、そして注意喚起につなげるということが重要な使命だと考えています。
保里:そして新型コロナワクチンへの不安の声、1,000件以上にわたって応えてこられました、こびナビの黑川友哉さんにもお越しいただいてます。よろしくお願いします。黑川さん、99%評価不能、この状態が続いている現状を市民の側はどのように受け止めていると感じていらっしゃいますか。
黑川友哉さん (こびナビ事務局長)
黑川さん:やはりこれだけ「因果関係不明」ということばが並んで、もう少し詳しく調べようとすると大量のデータが出てくる。この状況、私が当事者だったとしても非常に説明が難しいなと思います。そもそも皆さんが不安というのを感じるメカニズムというのは、新しい未知なワクチンが出てくるだとか、あとは取り返しのつかない副反応があるんじゃないかといったキーワードがあるんですけど、これに加えて身近な方で副反応が起こった、ワクチン接種したあとに亡くなられたという情報が入ると、なかなか心の中にできてしまった不安を取り除くのは難しい状況かなと思います。
井上:森尾さん、因果関係を特定できない。これはどういう理由なのでしょうか。
森尾さん:科学的に因果関係を証明するためには、大量のデータが必要になってきます。特に予防接種を受けた方での副反応の正確な頻度を知り、そして接種してない方の頻度を知る。それを比較することによって、科学的に差があるのかどうかということを知ることができるということです。ただ、現在日本ではこういうシステムがないという現状がありまして、厚生労働省では人口動態統計とか、ほかのデータベースとかを探索をして比較対照を見つけていると。そういう状況になっています。
井上:こうした中で、ワクチン接種と副反応の関連を解明するカギを握っているのが、今お話にあった「比較データ」です。アメリカでは、このデータを収集するシステムを国を挙げて構築して、成果を上げています。
新型コロナワクチンとデータ アメリカの独自システムとは
ワクチン接種を終えた人が、2億人に迫るアメリカ。CDC(疾病対策センター)は、ファイザーとモデルナのワクチンについて、現時点で接種と死亡に因果関係は確認されていないという分析を公表しています。
その分析を可能にしたのが、ワクチン安全データリンク「VSD」を軸とする、モニタリングシステ厶です。
各地の病院が参加し、およそ1,200万人の診療情報やワクチンの接種歴を含む、膨大な医療データを収集し続けています。
このVSDによって、ワクチンを接種した人と接種していない人を比較。死亡率や症状の発生率に差がないか、分析できるようになりました。こうしたデータを使って詳細に検証したところ、「現時点で接種と死亡との関連は認められない」としたのです。
このシステ厶が作られたきっかけは、1970年代。ワクチンの副反応が疑われる事案が頻発し、訴訟が相次いだことでした。このとき、データの不足などで因果関係の分析ができなかった反省から、VSDが整備されました。
このシステ厶が今回、ごくまれな副反応のリスクを見つけだすことにつながりました。医師の紙谷聡さん。VSDを使った、分析チー厶の1人です。この春、ワクチンを接種した人たちの中に、ある症状が見られることに気づきました。心臓の筋肉に炎症が起きる「心筋炎」です。
エモリー大学・アトランタ小児病院 小児感染症科 紙谷聡助教授
「やはりタイミングと頻度の増加ですよね。ワクチンを打って数日以内、1週間以内にどうやら起きていることが多い。ほかの病院でも同じような報告例があったことで、ワクチンとの関連性というところで臨床医の間で、これはより懸念されるような状況ではないかと議論が高まっていた」
紙谷さんたちはVSDを使って、ワクチンとの関連性があるのかどうか調べました。ワクチンを接種した人たちにごくまれに見られた、心筋炎。それを接種していない人のデータと比較したところ、ファイザーやモデルナのワクチンを接種した若い世代で軽度な心筋炎などになる頻度に差が出ていたのです。CDCはこうしたデータをもとに、注意喚起。ただ、症状は極めてまれで、ワクチンの恩恵はリスクを上回るとして接種を呼びかけています。
紙谷聡助教授
「平時からデータを集めることで、それを比較することで、こうした有事の時に正確なデータを提供して、専門家がその情報を使って、より科学的な推奨できる仕組みに発展していくことが望ましい」
こうした成果は、スムーズな治療につながっています。ジョン・ストークスさん、22歳。ことし8月、2回目の接種をした後で胸の痛みを訴えました。
ジョン・ストークスさん
「胸が痛くて眠れなかったので、医師に電話をしました。医師には心筋炎だと言われました」
病院側が接種後の心筋炎の可能性を把握していたことで、ストークスさんはすぐに治療を受けることができたといいます。
ジョン・ストークスさん
「医師たちは、私と同年代の人たちがワクチンで問題を起こしていると知っていて、すぐに治療方針を決めました。私たちの世代が、接種の前に副反応の情報を知ることができるといいと思います」
CDCは接種を進める上で、蓄積してきた膨大なデータをもとに、安全性を確認し続けることが欠かせないとしています。
CDC 新型コロナワクチン安全チーム トム・シマブクロ医師
「医師は若い人が胸の痛みで来院すると、心筋炎の可能性を考えるようになったのです。VSDに登録されているすべての患者の情報のおかげで、副反応のリスクを評価することができます」
日本でもVSDのようなシステムを作ることができないか。模索が始まっています。
九州大学 大学院医学研究院 福田治久准教授
「新型コロナウイルスワクチンの安全性に関するデータを、しっかり日本人から作るべきだと」
研究プロジェクトのリーダー、九州大学の福田治久さん。全国の自治体に、住民の医療データの提供を依頼しています。
福田治久准教授
「やはり1人の公衆衛生領域の研究者として、微力ですけれども、一刻も早くこういう仕組みを作るべきだと考えて、この日本版VSDを作ろうと考えました」
今、福田さんが取り組んでいるのは、システムの土台作り。ところが、そこにはいくつもの課題がありました。土台作りのためには、まず多くの人が接種し、データの蓄積があるインフルエンザワクチンなどの接種歴、そして診療情報の記録を集めます。そこで浮上したのが、個人が特定されるのではないかという自治体側の懸念でした。
「予防接種のデータを匿名化するプログラムで」
懸念を払拭するために、福田さんたちは独自にプログラムを開発。
福田治久准教授
「ここのABCが消えて、誰か分からない状態。その代わりに、医療情報とひも付けが可能な研究用IDが入った」
名前や生年月日などの個人情報を匿名化することで、自治体からようやく了承を得られました。
神戸市 健康局健康企画課 三木竜介さん
「今まで活用されてこなかった健康データの利活用につながって、きちんと市民や国民に還元できるようになればいいと思います」
しかし、協力してくれる自治体を増やしていくのは、簡単ではありません。
この日、ある自治体が初めて話を聞いてくれることになりました。
「日本においても、ワクチンの有効性と安全性をしっかり検証できるようなデータベースを作ろうと」
集まっていたのは、4つの部署の責任者たち。提供を依頼した個人情報は、ワクチン接種や健康保険など、複数の部署で別々に管理されています。すべての部署の同意を得ることが、データ提供の大前提です。
福田治久准教授
「こういった研究事業を実施するにあたり、自治体様のご協力が欠かせないところがありますので」
今後も話し合いを重ねることになりました。
福田さんが研究のために確保できたデータは、これまでに7つの自治体、90万人分。しかし、ごくまれな副反応の分析には、さらなる大規模なデータが必要です。統計解析の専門家を交えたプロジェクトの会議で、改めて目標を確認しました。
福田治久准教授
「石黒先生の感覚的には、何百万人集まったらいけそうですか」
「500万人欲しいです。数百万オーダープラスアルファは、安全性評価には必要になってくる」
日本版VSDを目指す、険しい道のり。福田さんは3年をめどに、システムの土台を完成させたいとしています。
福田治久准教授
「やっぱり最初の産みの苦しみは一定程度あると思っていますので、ただ日本版VSDに向けて非常に歩みは小さいですけれども、一歩一歩進んでいるかなと感じています」
保里:日本とアメリカの副反応評価制度の違いについては、以下のリンクからもお伝えしています。
黑川さん、このシステムの構築において、日本はまだまだ道半ばであるという現在地も見えてきましたが、市民の不安と向き合ってこられた立場からVSDを作ることの意義、どのように考えていますか。
黑川さん:これは日本で安心してワクチンを普及させるためには必須で、非常に重要なシステムだと思っているんですね。どういうことかといいますと、科学的で客観的なリスク評価がVSDによってできるようになることによって、例えば日本でワクチンが接種されたあとに非常にまれな副反応の可能性が見いだされた、アラートが示された。そういったときに、すぐにワクチンの流通を止めるということは非常に重要なんですね。ここからが重要で、このあとに客観的な科学的なデータに基づく判断、答え合わせをしたあとに「やっぱりこれは大丈夫だね」という判断をしたとき、すぐにワクチンの流通を再開できる。この規制のブレーキとアクセルを迅速に行うようにできるというのが、非常に重要かなと思います。これは、国民の健康と命を守る上で非常に重要なことですので、研究者個々人の努力というよりかは国を挙げて支援していく、取り組んでいく必要があるのではないかなと思っています。
井上:その点で言いますと、厚生労働省はどう考えているのでしょうか。回答を求めたところ、このような返答がありました。
厚生労働省
「アメリカのVSDは有効な仕組みの1つだと考えている。迅速、効率的に副反応情報を収集・評価できるシステムの構築に努めていく」
今後実現のめどやスケジュールについては、まだ分からないとしています。森尾さん、アメリカのVSD、そして厚労省の返答、どのように捉えますか。
森尾さん:科学的な因果関係評価に現在、海外のデータに頼っている状況です。ですので、VSDは部会としてもあることが理想だと思ってます。このシステムの設立にあたって、国が主導していただくということが重要かなと思ってます。現在は手作業でデータを集めている状況ですが、デジタル化もぜひ進めていただくべき課題かなと思います。
井上:国の後押しが必要というのは、黑川さんと同意見ですか。
森尾さん:はい、同じですね。
保里:そして、個人情報の壁もありますよね。
森尾さん:これに関してはいろいろな方法で回避できるといいますか。手法ができてきていると思っていますので、これについてもぜひ機動的に推進してほしいなと思っています。
保里:その意味でも黑川さん、このシステムを進めていくためには国民の協力ということも不可欠になってくると思うのですが、国民が理解して納得をして進めていくためにはどんなことが必要だと考えていますか。
黑川さん:キーワードは、やはり「ふに落ちる情報提供」というところかなと思います。日本は決して情報を抑えているわけではなくて、逆に多過ぎるんですね。整理されていない中で例えば「評価不能」。これだけ大量に出されては、どう理解していいのかなかなか難しいと思うんです。この中で、さらに個人情報をくださいといわれてもなかなか厳しいのかなと思います。現在も評価不能とひと言で書いても、先ほどお示しいただいたとおりPMDAの皆さんとか、厚労省の皆さんが引き続き調査を続けているという現状を示すことであったり、その中でも科学的な限界があって「こういう科学的に評価できるシステムを構築することで、より安心してワクチンを接種していただけるんだ」、ということをしっかり国がコミュニケーションをとっていくことが重要なのではないかなと思います。
井上:そして森尾さん、改めてですが、これからも3回目接種へと続いていくと思うのですが、どんなことが改めて必要になってきますか。
森尾さん:ワクチンでは「リスク・ベネフィット(リスクとメリット)」というのが重要だと思うんです。やはりリスク・ベネフィットを判断していただくためには、部会がしっかりしたデータを出していく。そして、分かりやすい情報提供をしていくということが非常に重要だと思っています。しっかりしたデータを出すためには臨床試験に参加していただいたりとか、あるいはデータを提供していただくという点で、国民の方々の協力も必要になってくると思うんです。そういう理解をする、即するためには、部会としてもよりよいコミュニケーションを図っていくということが、ますます重要になってくると考えています。
井上:本当にコロナだけではなくて、今後も新しいパンデミックに備えるためにも今、議論とシステム作りというのが大事ですよね。
森尾さん:はい。おっしゃるとおりです。
井上:ありがとうございました。
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