奇縁というべきであろうか?
2か月前に、大島悟は、取手西口の駅ビルの前でその男と遭遇した。
「当たったかい?」男は声をかけてきたのだ。
角刈りで、長身である。
どこか異質な感じがしたのだ。
翌日、その男と取手競輪の1階で顔を合わせた。
笑顔であり、口を開けた前歯が4本ほどない。
「生活保護を受けているんだ。5日の支給日まで、2日の我慢だ」と打ち明ける。
「ガソリンスタンドの傍のアパートに住んでいるんだ。家賃は2万7000円。あんたは、どこに住んでいるの?」
「取手駅の東側、徒歩20分」
「そうか、俺は徒歩10分だ」
「酒が飲めないのが辛いな。自炊で飯は食っている」
ちなみに、市役所へ行き事情を話すとコメが貰えるそうだ。
悟は同情してコンビニで、紙カップの酒2個を買いに行き、男に渡した。
「酒飲みなので、酒がないのは寂しいね」悟が言うと「あんたとは、ウマが合いそうだな」と男は笑顔満面となる。
その男は、「生活保護費が入った。これ受け取ってくれ」と1000円札出すので「いいよ」と受け取りを断ると「いいから、俺の気持ちなんだ」と相手は引き下がらないので、受け取る。
「パチンコもやるんだ。金がなくなる。タバコも吸う、タバコにも金がかかるな」
「パチンコはやめたら。競輪だけにした」
「そうだな」男は真顔となる。
「刑務所に39日、入った。集団生活は嫌だな」男は刑務所帰りなので角刈りなのかと悟は思ってみた。
「宇都宮に家があるが、山の中で住むのは嫌だ」男は俯いた。
<君子危うきに近づかず>悟はそんな想念を抱くが、競輪の帰りに駅ビルのコンビニの前で男に出会ってので、串焼き4本、レバーとつくねを買い、さらに25度の焼酎2本を渡す。
悟は椅子に座り、紙カップの日本酒を飲む。
「好きな酒にありついて、ありがたいな、あんたとは、本当にウマがあうな」男は焼酎をあおるように飲む。
その男は、5日後には、生活費を遣い果たしていた。
「今度は、5月2日の保護費支給日だ。それまでの我慢だ」
悟は、男と会うたびに、日本酒2個買って男に渡す。
「生活費出たら、3000円渡すよ」男は真顔である。
「金はいらない。酒飲み同士のほんの気持ちなんだ」競輪仲間の姿を見たので悟は車券の検討を始める。