映画『奇跡の海』

2025年02月07日 08時15分40秒 | 社会・文化・政治・経済

2月6日午前3時からCSテレビのザ・シネマ観た。

娼婦となり子どもたちに蔑まれ、石を投げられ追い回されるなど酷い目にあったのに、自らの意思で再び小さな船から大きな船に向かい船員たちに性暴行を受けに行く女の姿には唖然とする。

そして、暴行を受け重体となり最後は死ぬのである。

解説

純真な愛に自らの全てを捧げた善良な女の生と死を描いたラヴ・ストーリー。監督・脚本は「ヨーロッパ」「キングダム」のデンマークの映画作家ラース・フォン・トリアー。

北海油田に近いスコットランドを舞台に監督した。全編手持ちカメラによる大胆な撮影は、ヴィム・ヴェンダース監督作品で知られる、「デッドマン」のロビー・ミュラー。

7つに分けられた各章の冒頭には、プロコル・ハルム、エルトン・ジョン、ディープ・パープル、レナード・コーエン、デイヴィッド・ボウイら、映画の舞台となる70年代のロックが画面を彩る。

各章冒頭のタイトルにはペル・キルケビーのデザインによる、現実の風景ショットにデジタル加工を加えた動く風景画のような象徴的なパノラマが挿入されている。

主演は本作が映画デビューとなるRSC団員のエミリー・ワトソン、ストックホルム王立劇団メンバーである「存在の耐えられない軽さ」「レッド・オクトーバーを追え!」のステラン・スカルスゲールド。

共演は「ネイキッド」「ビフォア・ザ・レイン」のカトリン・カートリッジ、「ヨーロッパ」のジャン・マルク・バール、「キングダム」のウド・キアーほか。96年カンヌ国際映画祭審査員大賞受賞。97年キネマ旬報外国映画ベスト・テン第9位。

あらすじ

北海に面したスコットランドの村。ベス・マクニール(エミリー・ワトソン)は北海油田の労働者ヤン(ステラン・スカルスゲート)と結婚する。

ベスの義姉ドド(カトリン・カートリッジ)やヤンの同僚たちは心から祝福するが、ここは厳格なプロテスタント信仰が根強い排他的な土地。教会の長老たちなどは白い眼を向ける。

幸福に満ちた新婚生活も束の間、ヤンは油田に戻らねばならず、残されたベスは彼からの電話だけを楽しみに生きる。

休暇まであと一週間、ベスはヤンを早く戻して欲しいと神に祈る。

油田で事故が置き、ヤンは頭に重傷を追う。

命だけは取り留めたが、全身麻痺のまま回復の見込みはない。

神は「お前の望み通りヤンを返した。これからお前の愛が試されるのだ」と告げる。

ベスと看護婦であるドドは献身的に介護するが、ヤンは絶望して自殺さえ図る。

妻を自分の犠牲にしたくないと思った彼は、ベスに愛人を持つように言う。

その愛の行為を自分に話せ。そうすることで自分もお前と愛し合うことができる。

そして自分を生かすことができるのはお前の愛だけだ。ベスは夫の言葉を信じ込んで、男たちと関係を持ちはじめ、ついに娼婦に身を落とす。

ベスは「お前の愛の証をみせよ」という神の命令に従い、ドドとヤンの主治医リチャードソン(エイドリアン・ローリンズ)の忠告も、このままでは教会から追放されるという母(サンドラ・ヴォー)の嘆きも耳に入らない。

リチャードソンはベスを救うには精神病院に入れるしかないと判断し、自分の言葉が妻を破滅させつつあると悟ったヤンも同意書に署名する。

ベスは病院に向かう車から逃げ出すが、家には受け入れられず、教会からは追放され、子供たちに石を投げられて追われる。

疲れ果てたベスはドドにヤンが危篤だと知らされ、沖合に停泊する不気味な大型船に向かう。

やがてその船長(ウド・キアー)らにナイフで滅多刺しにされたベスが病院に担ぎ込まれる。

ベスはヤンの病状がまったく好転していないと聞き、では自分が間違っていたのだと言い遺して死ぬ。

ヤンは奇跡的に回復する。

ベスを教会に埋葬すれば葬儀も行えず、地獄へ行くと宣告される。

ヤンは妻の遺体を密かに盗み出し、海上油田で海葬に付した。翌朝、遙か天空高くの雲のなかに鐘が顕現し、その音色が海上一面に響き渡った。

奇跡の海』(きせきのうみ、原題:Breaking the Wavesデンマーク語のワーキングタイトル: Amor omnie)は、ラース・フォン・トリアー監督、エミリー・ワトソン主演、ステラン・スカルスガルド助演で、1996年に制作されたドラマ映画

 

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概要

手持ちカメラ撮影などの手法にはフォン・トリアーらが前年発表した『映画の純潔の誓い』である「ドグマ95」の影響が見られるが、ドグマ95にはこの映画は参加していない。大部分はスカイ島などのスコットランド現地ロケであるが、室内シーンではデンマークのスタジオを利用した部分が相当あるなど、ドグマのルールには基づいていない部分が見られる。

また神への献身と愛というテーマでは、デンマークの先人カール・テオドール・ドライヤースウェーデンイングマール・ベルイマンらの影響が濃く見られる。

『奇跡の海』は1996年カンヌ国際映画祭で審査員特別グランプリを獲得、1996年ヨーロッパ映画賞で3部門を受賞した。

また新人エミリー・ワトソンの鬼気迫る演技には高い評価が寄せられ、1996年ヨーロッパ映画賞年間女優賞、同年全米映画批評家協会賞、同年ニューヨーク映画批評家協会賞を受賞した他、1997年英国アカデミー賞 主演女優賞、1996年アカデミー主演女優賞にもノミネートされた。

ストーリ

映画は章仕立てになっており、各章の冒頭では印象的な色彩の風景をバックに1960年代から1970年代ロックが流れる。

舞台は1970年代のスコットランド高地地方の海沿いの荒野。

長老教会の影響が色濃い寒村に住む主人公のベス(エミリー・ワトソン)は、やや単純で無垢で、信仰篤い女性である。

彼女は教会で自分で神に問いかけ自分で答え、それを神との対話と信じている。

彼女は排他的な村人達の心配をよそに、沖合いの北海油田の海上掘削基地(石油プラットフォーム)で働くよそ者のヤン(ステラン・スカルスガルド)と結婚し愛し合う。

だがヤンは油田作業で不在の日々が続き、ヤンなしでは生きてゆけないベスは教会でヤンが早く陸へ帰るように祈った。

祈りが通じたのか、ヤンは突然陸に帰ってくる。

しかし彼はプラットフォームでの大事故に巻き込まれ陸地の病院に搬送されたのだった。

彼は一命を取り留めたものの、下半身不随になった。

ベスは自分の祈りのせいで彼に災いが降りかかったのだと自分を責める。

そんなベスに病室のヤンは、セックスのできない自分の代わりに誰かセックスをする相手を見つけてほしい、そしてぜひその様子を詳しく聞かせてほしいという。

そうすることで彼は間接的にベスと愛し合うことができるというのである。

教会で一人祈る彼女に、は愛の証拠を見せろという。

ベスは彼のために男達とおずおず関係を持ち始めヤンにその話をする。

ヤンが危篤になるとベスは見知らぬ男と関係し、そのたびヤンは助かった。

ベスは、明らかに神の力が働いていると信じるが、次第に行動があからさまになり服装も派手になってきた。

母も村人も教会の長老も、娼婦となったベスを見放し、忌み嫌った。

一進一退を繰り返していたヤンの容態が悪化し、いよいよ闘病に終わりが近づいた。

ベスはより強い神の加護を得ようと、荒くれ者(ウド・キア)たちが乗り込んでいる、どの娼婦も行きたがらない沖合いの漁船へと向かう決心をする。

しかし、漁船から戻ったベスは船員たちによる性的暴行で重体になっていた。

彼女は病院に運び込まれ、混濁した意識の中「悪い子でごめんなさい」と母に謝り続ける。

いまだ意識不明のままのヤンを見て失意のまま息を引き取る。

数日後、奇跡的に容態が回復し、立てるまでに体の機能が回復したヤンが海上にいた。

彼は仲間たちと、教会で葬儀を受けさせてもらえなかったベスを水葬する。

そのとき確かに、曇天の上から高らかな鐘の音が響き渡った。

出演者

スタッフ

  • 監督、脚本:L・トリアー
  • 製作:ペーター・オールベック・ヤンセン、ヴィベク・ウィンドレフ
  • 撮影:ロビー・ミューラー

エピソー

監督がはじめに主演を打診したのはヘレナ・ボナム=カーターだったが、過激なヌードシーンに難色を示し、断られたというマーティン・スコセッシロジャー・イーバートは1990年代のTOP10に本作を挙げている。

参考文献


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