オンラインカジノの実態

2025年02月06日 22時15分27秒 | 社会・文化・政治・経済

手元のスマートフォンひとつで、24時間いつでもどこでもギャンブルができる“オンラインカジノ”。日本国内での利用は刑法の賭博罪などにあたる違法行為です。ところが、違法であるにもかかわらず、利用者は急増。多額の借金を抱えたり、ギャンブル依存症に陥ってしまう人が後を絶ちません。

一方で、規制や対策はなかなか進んでいないのが実情です。一体なぜなのか。国際金融論が専門で海外のオンラインカジノ事情にも詳しい静岡大学の鳥畑与一(とりはた・よいち)教授に聞きました。

(クローズアップ現代取材班)

そもそも、オンラインカジノってなに?

オンラインカジノとは、スマホやパソコンなどを通じてインターネット上で行うギャンブルのことです。オンラインカジノのサイトにアクセスすると、ルーレットやスロット、ポーカーなど実際のカジノ施設で行われているようなギャンブルをイメージした画面が出てきます。中には、サイト上に出現するディーラーとチャット機能を使って会話をしながら賭けることができるものもあります。簡単に利用できる気軽さから、プレイにのめり込んでいく人が少なくありませんが、日本では賭博は刑法で禁止されています。客としてオンラインカジノに参加し金銭をかければ、賭博罪にあたる違法行為となります。

オンラインカジノサイトの画面 ※イメージ

〈オンラインカジノサイトの画面 ※イメージ〉

違法であるにもかかわらず、日本国内からのアクセス数は急激に増えています。

インターネットのアクセス分析を行っている調査会社の推計によると、オンラインカジノのサイトへのアクセス数は、2018年12月にはおよそ月100万回だったものが、去年の9月にはおよそ1億2000万回に及び、3年間で120倍にふくれあがっています。

静岡大学人文社会科学部教授 鳥畑 与一(とりはた・よいち)さん

「日本で非常に人気の高い、あるオンラインカジノを運営する会社の決算報告書を見ると、この3~4年で急速に日本市場での収益が増えています。2016年には5700万ポンド (約84億円)だったのが、2020年には1億9650万ポンド(約270億円)と、日本での稼ぎがほぼ4倍になっています。この会社の収益率を国別で見ると、2017年には日本は8%でしたが、2020年には27%まで増えて、オンラインカジノが合法なイギリスに次いで世界で2番目でした。日本市場が成長マーケットになっていると言えます」

海外のオンラインカジノ事情に精通 静岡大学 鳥畑与一教授

〈海外のオンラインカジノ事情に精通 静岡大学 鳥畑与一教授〉

立ちはだかる“国境の壁”… 海外では合法的に運営

オンラインカジノを運営する会社は海外に拠点があり、その国の政府からライセンスを得て合法的に運営を行っているケースもあります。日本国内でギャンブルの場所を開設・提供する行為は、刑法の「賭博場開帳図利罪(とばくじょうかいちょうとりざい)」にあたりますが、運営会社が海外にある場合、日本の捜査が及ばないのです。殺人や強制わいせつなど一部の犯罪では、たとえ海外であっても日本の刑法が適用される「国外犯」として国際的な捜査協力が得られます。しかし、賭博罪は刑法上この「国外犯」に該当しません。そのため、その国で合法な場合は日本からの取り締まりが非常に難しいのです。

日本国内からアクセス可能だが運営会社は海外に拠点がある

〈日本国内からアクセス可能だが運営会社は海外に拠点がある〉

一方で、サイトが海外で運営されているとしても、日本国内でオンラインカジノを利用することは「賭博罪」、常習的に行っている場合は「常習賭博罪」にあたる違法行為となります。

ところがインターネット上には、“海外にあるオンラインカジノは違法ではないため、日本での利用も違法ではない”などといった誤った情報が広がっています。こうした書き込みを鵜呑み(うのみ)にしたまま、オンラインカジノの利用を続けている人も少なくないと見られます。特に、この種の誤情報は、オンラインカジノを宣伝、紹介することで報酬を得ているアフィリエイトサイトに多く見られます。

静岡大学 鳥畑教授 

「日本からのオンラインカジノへの参加については、海外の運営側もサイト上ではあえて曖昧に書いています。『ライセンスを取っているから信用できるんですよ』というところにとどめて、日本の刑法との関わりについては曖昧にしています。運営会社側も、日本においては非合法となるオンラインギャンブルを提供していることは自覚しています。

彼らの決済報告書を見ると、日本は国として「unregulated(管理・統制されていない)」というカテゴリーに分類されています。日本では違法なオンラインカジノが“管理・統制されていない”。要するに彼らは、『きちんとした法律の規制がない国で稼いでいることを自覚している』ということです」

手をこまねいていていいのか 国内の現行法でできることは?

海外にある運営会社を取り締まるのが難しいとされる一方で、国内の現行法でも規制できるのではないかと見られているのが、“金の流れ”です。

ギャンブルに参加するためには、当然元手となる賭け金が必要です。海外のオンラインカジノサイトに賭け金を入れるために使われるのが、「決済代行」というサービス。日本の利用者と海外の運営会社との間で、金銭のやりとりを仲介する役割を担います。利用者の銀行口座の入金記録を元に調査したところ、日本国内に決済代行業者と見られる会社が数十社存在していることが明らかになってきました。

オンラインカジノでは、決済代行業者が指定した口座に送金することでオンラインカジノのアカウントに資金が入金されることから、為替取引を行っていると見なされます。為替取引を行うためには、銀行業許可や資金移動業の登録が必要です。

ギャンブルの相談支援などを行っている中島俊明(なかじま・としあき)弁護士が調査したところによると、オンラインカジノの決済代行業者についてはこれらの許可や登録を得ているものが確認できなかったといいます。

日本の利用者と海外のカジノ運営会社とをつなぐ「決済代行業者」が国内に存在

〈日本の利用者と海外のカジノ運営会社とをつなぐ「決済代行業者」が国内に存在〉

海外にある運営会社にとって、日本からの送金を受けるパイプ役となっているとされる決済代行業者。中島弁護士は、こうした仲介行為がオンラインカジノの運営に協力していると認定されれば、「賭博場開帳図利罪の共犯」や「犯罪行為へ唆(そそのか)すほう(幇)助犯」として、決済代行業者を現行の国内の法律で取り締まれる可能性は十分にあると話します。

借金9000万円超という人も・・・ケタ外れの被害額

オンラインカジノは1 度に賭けられる金額が大きく、さらに短い間に何度もギャンブルを繰り返せてしまうため、大金を一気に失ってしまうという特徴もあります。その分、借金をする額も大きくなりやすいといいます。実際にギャンブル依存症の回復施設で調べたところ、パチンコ・スロットなどの場合は借金額が平均160万円。それに対してオンラインカジノの場合は平均494万円。中には最大で9200万円の借金をしたという人もいたといいます。

また、オンラインカジノは利用者が比較的若い世代に多いことも特徴です。例えばスマホゲームでの課金など、若い世代にとって、ネットでお金を払うことに抵抗感が薄まっているのではないかと鳥畑教授は危惧します。

イメージ)オンラインカジノをする手元

静岡大学 鳥畑教授

「スマホを通じたさまざまなゲームに慣れ親しんだ世代が、境界なしにギャンブルに誘導されていくんじゃないかなと思います。あるオンラインカジノの運営会社の資料では、35歳以下の比率が、ヨーロッパでは42%、それに対して日本は54%と高い。さらに1人当たりのギャンブルの負け金額が日本は高い傾向にある。

ヨーロッパは若者にギャンブルをさせないとか、身元確認といった規制があることや、ライセンスを取る時に、上限の賭け金額なども規制をかけているところが多いからだと考えられます。日本はある意味“野放し”で、市場の特徴として、負けの金額が大きい人に若い世代が多いことが運営会社の資料でも確認できます。若い時代にギャンブルにハマると、非常に深刻化する。脳の発達も含めて依存症になりやすいというのは医学的にもはっきりしていますので、非常に深刻な問題です」

やめたくてもやめられない

オンラインカジノは既存のギャンブルに比べ依存症になるスピードが早いという指摘もあります。一回あたりの賭け時間が短く、ルーレットの場合にはお金をかけてから結果が出るまで数秒。このため、次々とお金をかけてしまい気づいたときには、依存症になってしまっているというのです。

また、依存症からの回復が非常に難しいという課題もあります。アルコールや薬物の場合、酒や薬物そのものを遠ざける環境をつくることで、ある程度抑制できることもありますが、スマホさえあればいつでもどこでもプレイができてしまうオンラインカジノは、どんなにやめようと思っても簡単にはやめられないのです。しかも家族などに隠れてできてしまうため、危険な状況になるまで周囲も気づかない場合がほとんどだといいます。

イメージ)スマートフォンでオンラインカジノをする様子

静岡大学 鳥畑教授

「競輪、競馬でいえば、たとえば1日12レースとか、パチンコも営業時間というものがあって、基本的には13時間ぐらいです。それに比べて、休みなく延々とギャンブルを続けることができるのがオンラインカジノ。例えばトイレに入っている間でも賭け行為を続けることができる。脳への刺激というのが、既存のギャンブルに比べても高いものになっていく。

ギャンブル依存症は、精神疾患であり病気です。精神力が弱いとかいう問題じゃない。これは国際的にも認められているもので、精神論で片付けてはいけません。依存症と診断された場合は、克服するために取り組んでいる支援団体などにつないで早期に治療をすることが重要です」

「オンラインカジノは違法」社会の周知を

今年10月、事態を重く見た警察庁と消費者庁は「オンラインカジノを利用した賭博は犯罪です!」とホームページ上で注意喚起を出しました。しかし、いまだに十分な取り締まりなどは進んでおらず、ネット上でも依然として「オンラインカジノはグレーゾーン」「日本でも違法ではない」などといった情報が流れ続けています。

違法なオンラインカジノの利用を減らすために今何が必要か、最後に鳥畑教授に伺いました。

静岡大学 鳥畑教授

「まず、しっかり違法なんだということを知ってもらうこと。そしてギャンブルというものの有害性、どんなに怖いものなのかっていうことを知ってもらう。

そもそもカジノっていうのは、ギャンブル企業とお客さんがお互いに賭け合うので、とにかく客に賭け続けてもらわないといけない。賭け行為にとにかく夢中になって続けてもらえれば、確実にオンラインカジノ側が勝つ仕組みになっているんです。ギャンブルで一獲千金で儲かって終わるというのは、実際にはありえない。そんな人は現実にいないんだよっていうことをちゃんと分かってもらわないといけないと思います」

 

 
 
 
 
 

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